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イタリア代表の陰の意思決定者、ブッフォンが目指すのは「アズーリへの帰属意識」をベースにした強いグループの再構築

2025.12.12

CALCIOおもてうら#58

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。

今回は、アズーリ再生プロジェクトのカギを握るイタリア代表選手団長兼クラブ・イタリア(イタリア代表を統括するプロジェクト)のスポーツダイレクターを務めるジャンルイジ・ブッフォンについて。自伝の日本語版に収録される著者による独占インタビューでの証言も交えて、キーマンのリアルな声をお届けしたい。

 12月5日にワシントンDCでW杯の組み合わせ抽選会が行われ、イタリアが入っている欧州予選プレーオフ・パスAの勝者は、開催国カナダ、スイス、カタールとともにグループBに組み込まれることになった。

 欧州4、大陸間2と合わせて6つあるプレーオフ枠が、この抽選ですべてポット4に配されていたのは周知の通り。くじ運次第では、例えばアルゼンチン、日本、ノルウェー、イタリアというグループが爆誕するような「最悪の事態」もあり得たわけだが、蓋を開けてみれば、翌日の『ガゼッタ・デッロ・スポルト』が一面で「イタリア、なんというチャンス」という大見出しを打ったくらい、難易度の低い構成のグループを引き当てた。

 大きいのは、ポット1で強豪国を引かなかっただけでなく、開催国の中でも一番FIFAランキングが低いカナダと同組になったこと。ポット2でクロアチア、モロッコ、コロンビア、日本といった曲者を避け、ポット3の12カ国中FIFAランキングが10番目(51位)のカタールを引いたのも幸運だった。イタリアとしては「あとはプレーオフを勝ち上がるだけ」という空気になったとしても不思議はない。

アズーリの課題は「レジリエンス」の不足

 しかしもちろん問題はまさに、そのプレーオフを勝ち上がれるかどうかにこそある。くじ運という観点から見れば、プレーオフの組み合わせもイタリアにとっては幸運と言っていいものだった。スウェーデン、北マケドニアという過去2大会のプレーオフで苦杯を喫した相手との再戦になる可能性もあった準決勝は、ルーマニアを含めた4チーム中最もFIFAランキングが低い北アイルランドを引き当てた。アウェイで戦う決勝の相手も、一番嫌なポーランドを避けて、ウェールズ対ボスニアの勝者となった。

 下馬評でボスニアよりも有利と見られているウェールズは、前線にブレナン・ジョンソン(トッテナム)、ハリー・ウィルソン(フルアム)らスピードのあるアタッカーを擁し、攻守両局面ともに高インテンシティで前に出てくるモダンなスタイルを武器に、予選8試合で21得点を挙げた好チーム。攻撃はダイレクトアタックが主体だが、アタッカー陣が積極的に1対1突破を仕掛けてくるので、これまでの予選でヌサ(ノルウェー)、ソロモン(イスラエル)といったドリブラーに振り回されてきたイタリア守備陣にとっては、あまり相性がいい相手ではないかもしれない。

 とはいえ客観的に見ればイタリアは、北アイルランドはもちろん、ウェールズ、ボスニアと比べても、個のクオリティ、チームとしての総合力のいずれにおいても明らかに上位に立っている。ピッチ上で本来の力を発揮できれば、過去2大会続けて逃してきたW杯出場権を12年ぶりに取り戻すことは十分に可能だというのは、衆目の一致するところだろう。

 その観点から言うとこのプレーオフ、とりわけアウェイで戦う決勝に関しては、フィジカルや技術/戦術的側面以上にメンタル的な側面が重要な鍵になってきそうだ。

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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