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キーワードは“1バック”化。古豪ハンブルクが挑戦する、先鋭的なビルドアップのメカニズムを紐解く

2025.11.30

【特集】25-26欧州サッカーのNEXT戦術トレンド#5

5レーンを埋める攻撃は5バックで、立ち位置を変えるビルドアップは前線からのマンツーマンプレスで封じる。逆に、相手のハイプレスを誘引して背後を狙う攻撃もすっかりお馴染みの形となった。ポジショナルプレーを起点にした「対策」と「その対策」はすでに一巡した感があり、戦術トレンドは1つの転換点を迎えている。この後に続くのは個への回帰なのか、セットプレー研究の発展なのか、それとも……。25-26欧州サッカーで進化への壁を乗り越えようとしている「NEXT」の芽を探ってみたい。

第5回は、気鋭の若手指揮官メルリン・ポルツィンの下、8シーズンぶりのブンデスリーガで非常に挑戦的なサッカーを披露している古豪ハンブルク。3バックのうち2人は最終ラインを離れて“1バック”となる独特なビルドアップのメカニズムに迫る。

 2016-17以来、8シーズンぶりにブンデスリーガ1部の舞台へ帰ってきた古豪ハンブルク。21-22、22-23には2シーズン続けて昇降格プレーオフで涙を呑むなど、毎シーズントップ4に入りながらなかなか返り咲きを果たせなかった。そんな迷える名門を救ったのが、就任当時34歳だったドイツ人若手監督、メルリン・ポルツィンだった。

 20歳という若さで指導者に転向したポルツィンは、24-25の途中にコーチから昇格する形でハンブルクの指揮官に就任。1試合平均2.29という爆発的な攻撃力を植え付け、チームを2位に引き上げて大混戦となった昇格争いを制してみせた。

 そのポルツィン・ハンブルクの攻撃力の源となっているのが、ボール保持時の流動的なポジションチェンジだ。攻撃時のシステムは数字で表すなら[3-2-5]となるが、3バックの選手も次から次へとDFラインを離れて前進する。イメージとしては、23-24にCL出場権を獲得したチアゴ・モッタのボローニャや、24-25にCL決勝へと進出したシモーネ・インザーギのインテルに連なる系統のビルドアップ手法である。

 ただ、ポルツィン率いるハンブルクのそれは3バックが原型をとどめないほど流動的で、しばしば“1バック”と化するほどだ。今回は、この1バックがどのように形作られ、どのように機能するのかを分析していく。

1バック化のメカニズムと原則

 1バックがどのように形作られるのか、その一例を見てみよう。自陣からのビルドアップ局面で3バック中央のルカ・ブシュコビッチがボールを持つと、相手のFW脇を目がけて前方へドリブルを開始。相手が対応に動いたところで、左CBのエルファドリにボールを預け、ブシュコビッチ自身はそのまま相手のブロックを越えて相手の前線と中盤の2ライン間へと抜ける。

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Profile

とんとん

1993年生まれ、長野県在住。愛するクラブはボルシアMG。当時の監督ルシアン・ファブレのサッカーに魅了され戦術の奥深さの虜に。以降は海外の戦術文献を読み漁り知見を広げ、Twitter( @sabaku1132 )でアウトプット。最近開設した戦術分析ブログ~鳥の眼~では、ブンデスリーガや戦術的に強い特徴を持つチームを中心にマッチレビューや組織分析を行う、戦術分析ブロガー。

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