CL全勝対決の分水嶺はオリーセ対策。アーセナルが制した天敵バイエルンとの駆け引きを読む
せこの「アーセナル・レビュー」第18回
ミケル・アルテタ監督の下で一歩ずつ着実に再建を進めているアーセナル。その復活の軌跡をいち“グーナー”(アーセナルサポーターの愛称)でありながら、様々な試合を鋭い視点でわかりやすく振り返っているマッチレビュアーのせこ氏がたどる。第18回では、同じく優勝候補のバイエルンとの全勝対決を3-1で制したCLリーグフェーズ第5節の攻防を振り返っていく。
特殊なビルドアップに対抗するミドルブロック⇔サイド圧縮
ロンドンで水曜の夜に迎えるCLの第5節はリーグフェーズの上位対決。首位のバイエルンが2位のアーセナルのホームに乗り込んでの一戦。4連勝中の両軍はここまで相手に勝ち点はおろか、リードする時間すら1秒たりとも許していない。文字通り、現時点でのCLのトップを決める試合と位置付けることができるだろう。
しかしながら、対戦成績を眺めてみると両軍の立場はフラットではないことがわかる。アーセナルはバイエルンに直近5試合で勝てておらず、そのうちの3試合は5-1での大敗。2023-24シーズンのCL準々決勝では2戦合計2-3と惜しくも競り負ける結果に終わったが、古くからのアーセナルファンならば「バイエルン」という名前を聞くだけで疼く傷を誰しもが持っている。
そんな天敵を前にいつになくアーセナルの入りは慎重だった。[4-4-2]の守備ブロックは強引にハイプレスにいくわけではなく、中盤に構えながら相手のビルドアップを制限することを優先する。表記上では[4-2-3-1]のバイエルンは、ポゼッションで後方を3バックに変形させてくる。2CBに加わる3枚目を多くの選手が務めるのが特徴で、セントラルハーフの列落ちというオーソドックスな形だけでなく前線の選手が降りてくることもしばしば。この一戦でも直近の試合と同じようにCFハリー・ケインが最終ラインの少し前まで降りてくるなど、低い位置にポイントを多く作ることを意識する。
アーセナルが気にかけていたのは自軍の守備ブロックにおけるFW-MFの間のスペースを間延びさせないこと。降りていく選手にいちいちついて行ってしまうと、中盤にバイエルンが楔を打ち込むことができるスペースができてしまう。それはどうしても避けたいところだ。ただし、MF-DF間で浮く選手に対しては厳しく縦パスを咎めたい。そのためにはブロックの外に立つフリーの相手選手へもコースの制限はかけたいところである。
よって、アーセナルはサイドでバイエルンがボールを持つ時にスペースを圧縮。特にバイエルンが選手を集める左サイドに対しては、逆側のサイドハーフであるレアンドロ・トロサールもスライドして人数をかけながらサイドチェンジを阻害。縦パスを誘発してウィリアム・サリバがインターセプトしやすい状況を作る。サリバ、クリスティアン・モスケラのCBコンビは意欲的なパスカットからカウンターのきっかけを生んでいった。
[4-4-2]のミドルブロックというスタンダードな形とサイドに圧縮する形を使い分けることで、アーセナルはバイエルンの組み立てに対抗。縦パスをカットしたところからスムーズに縦パスで一気に前進し、ビルドアップ時に自由な布陣となっているバイエルンの後方を手早く強襲する形から得点を狙っていく。
奪った後の1つ目のパスで確実にダメージを与えられる選択肢を高い精度で実現できるというのは、今のアーセナルの強みである。その受け手となる前線の動き出しも非常にシャープ。特に好調のトロサールは裏を取るアクションから巧みなボディコントロールでシュートコースを作り出し、高い精度のフィニッシュでゴールを仕留めてきた。
厳しい戦況も…左SBライマーに出た警告が持つ大きな意味
アーセナルの自陣からのボール保持もバイエルンと同じく後方からのショートパスでボールを動かしていく。バイエルンもアーセナルと同じく前からプレスに出て行ったが、第4節のパリSG戦(○1-2)で見せたオールコートマンツーマンと言えるほど徹底的に人を潰しに行く圧力はなかった。マンマークでは潰しきれないGKのダビド・ラヤを使われると大きな展開から逃がされてしまうという懸念がある分、バイエルンからすれば尖ったプレスに出て行きにくかったのかもしれない。
バイエルンはアーセナルを外に閉じ込めようとワンサイドカットしていくが、アーセナルは後方で横パスを繰り返すことでバイエルンのプレスの背中を取りながら前進する。中央では左セントラルハーフのデクラン・ライスがサイドに流れたり、あるいはトロサールやCFのミケル・メリーノが降りるアクションをしたりと、入る選手と出ていく選手を作りながらスペースメイク。特に降りるメリーノから左右に散らす形はノースロンドンダービーに続いて効果的だった。
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Profile
せこ
野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。
