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「えっ?なぜこのタイミングでいるの」天皇杯・神戸vs広島で酒井高徳が魅せた“守備のアート”

2025.11.25

清水英斗の「語りたくなるワンプレー」#2

ピッチ上の22人が複雑に絡み合うサッカーというスポーツは、一歩立ち位置が違うだけでバタフライエフェクトのようにその後の展開が大きく変わってくる。戻るのか・戻らないのか、走り込むのか・とどまるのか……一見何気ない選択の裏には数多くのドラマが眠っている。清水英斗が思わず語りたくなるワンプレーを掘り下げる。

第2回は、天皇杯準決勝・神戸vs広島の後半7分、広島の数的優位のカウンターを止めた酒井高徳のビッグプレー。DFの「面白さ」「かっこよさ」が凝縮された“守備のアート”をぜひ堪能してほしい。

 退場者が出て10人になったチームは、数的不利を強いられる。では、10人のチームは絶対に11人のチームに勝てないのか。

 そんなことはない。優位に立った11人側では一人ひとりが楽を覚えて省エネに走り、逆に10人の側は危機感に煽られて人一倍、必死に走る。その結果、勝ったのは10人のチームだった。これは奇跡でも何でもなく、サッカーだ。

 だとすれば2対3の勝負もまた、必ず3人側の勝ちを保証するものではない。3人側で誰か1人が数的優位に甘えたプレーをした結果、2人の側が巧みにその隙を突いて勝つ。ディス・イズ・フットボール。安易な算数など一瞬でひっくり返るのである。

 2025年の天皇杯準決勝、神戸対広島の後半7分は、まさにそんなシーンだった。

ポイントはボールから目線を切る「順回転ターン」

 神戸のCKを弾き返した広島は、トルガイ・アルスランのヒールパスから木下康介が拾ってドリブルを開始。中央から木下が持ち運び、右サイド側を田中聡、左サイド側を中村草太が走り、ロングカウンターを仕掛けた。

 一方、神戸側でボールの前に立ったのは、永戸勝也と酒井高徳の2人のみ。2対3の数的不利を強いられる大ピンチを迎えてしまった。

 しかし、ここで神戸が誇る鉄人、酒井高徳はこの舞台にふさわしいビッグプレーを見せる。

……

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Profile

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』『日本サッカーを強くする観戦力 決定力は誤解されている』『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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