曺監督に「欠かせない」切り札、奥川雅也が語る京都の強さ。仲間の汗があるから「自分のやるべき仕事が明確に」
途中出場で流れを変えるJの「フィニッシャー」たち #6
奥川雅也(京都サンガF.C.)
アーセナルのミケル・アルテタ監督は『BBC』のインタビューで「フィニッシャー」の重要性について言及している。ラグビーでは試合終盤に投入される選手を「フィニッシャー」と呼び、アルテタは現代サッカーでは「先発よりも重要」とまで主張。実際、アーセナルはトロサールやマルティネッリが流れを変える存在として機能している。5人交代制の導入で“16人の戦術”が必要になった今、ベストメンバーという概念は希薄になってきている。試合を決める“切り札”は最後まで取っておくもの? 2025シーズンのJリーグで輝いている「フィニッシャー」にフォーカスを当てる。
第6回は、オーストリア3クラブとドイツ4クラブでの欧州挑戦9年半を経て今年1月、アカデミー時代から過ごした京都サンガF.C.に復帰し、今季の躍進を支えてきた奥川雅也。29歳となったアタッカーが古巣で磨きをかけた能力、「どのタイミングで出してもチームの力になれる」(曺貴裁監督)交代選手としての役割を、印象的な2試合と本人の言葉から解説したい。
「ワンチャンスをずっと狙って」仕留めた新潟戦
今季、10年ぶりにJリーグへ帰ってきた奥川雅也は、ここまで出場27試合で7得点2アシストを挙げている。チーム内で、ラファエル・エリアスに次ぐスコアラーだ。京都サンガF.C.は36試合を終えた時点で、J1リーグで2番目に多い59得点を記録。その中で奥川は“切り札”として、高い貢献を見せている。
スタッツの内訳を見てみると、27試合のうち途中出場は17試合。7得点のうち4得点を途中出場から決めている。2アシストも途中出場からだ。一見するとラファエル・エリアス、原大智、マルコ・トゥーリオの強力3トップがいる中で奥川が序列によりリザーブに回っていると思われるかもしれないが、今季は前述した3人の負傷離脱が一定期間あり、彼らがそろって先発した試合は実は少ない。特に前半戦の7連戦+5連戦では、前線のやりくりに苦労している様子がうかがえた。
それなのに奥川が先発ではなく、リザーブに回るケースが多いのはなぜなのか。それは曺貴裁監督が実力のある選手をあえてベンチに置いて、交代出場から試合の流れを変えたり、決定的な仕事をこなすことをプランの一つとしていること。そして、それを可能にする能力が奥川にあるからだ。
例えば第11節・アルビレックス新潟戦。この試合、京都は前節・浦和レッズ戦から中2日で埼玉県から新潟県へ直接移動する過酷なアウェイ連戦で、18日間でリーグ戦5試合+ルヴァンカップ1試合を戦う過密日程のラストゲームでもあった。選手のコンデョションは万全とは言えず、一方で相手はホーム連戦で中5日と試合間隔に差があった。リザーブに回って外から試合を見ていた奥川も「(先発した選手たちの)体が重たそうで、普段しないようなミスもあった」と言う展開で、前半19分には先制点を許している。
そうした中で3トップの左FWに先発起用されたのは松田天馬。中盤も務められるダイナモは攻守両面で貢献して、56分に奥川へバトンを渡す。その後に同点に追いつくと、終了間際の86分に奥川がゴールを決めて逆転勝利をつかんだ。
「相手にボールを回されて、前線の選手が守備に追われて体力を消耗していました。一方で、相手DFもラインの上げ下げがけっこう曖昧な感じだった。あれだけボールを保持していたこともあるのか、『今日はいける』みたいな雰囲気は相手から出ていましたね。僕が裏へ抜けることで怖さを与えられると思いました」とオフ・ザ・ボールにおける動き出しを狙った。背後へ出たボールを相手GKとCBがお見合いしたところを抜け目なく狙った逆転ゴールも「ラッキーと言えばラッキーなんですけれど、外から見ていた時から『もしかしたらワンチャンス、ここが空くかな』という感覚があったので、ずっと狙っていました。それが来て良かったです」と偶然ではないことを説明している。
「彼はどんな状況でも自分のリズムを失わない」
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Profile
雨堤 俊祐
京都府出身。生まれ育った地元・京都を中心に、Jリーグから育成年代まで幅広く取材を行うサッカーライター。サッカー専門紙『EL GOLAZO』で2005年から京都サンガF.C.の担当記者として活動。その他、サッカー専門誌などでも執筆している。J-COMの「FOOT STLYE 京都」にもコメンテーターとして出演中。
