初挑戦のJ1を震撼させる“進撃のルカオ”。ファジアーノ岡山の「高速重戦車」の効果を考察
途中出場で流れを変えるJの「フィニッシャー」たち#4
ルカオ(ファジアーノ岡山)
アーセナルのミケル・アルテタ監督は『BBC』のインタビューで「フィニッシャー」の重要性について言及している。ラグビーでは試合終盤に投入される選手を「フィニッシャー」と呼び、アルテタは現代サッカーでは「先発よりも重要」とまで主張。実際、アーセナルはトロサールやマルティネッリが流れを変える存在として機能している。5人交代制の導入で“16人の戦術”が必要になった今、ベストメンバーという概念は希薄になってきている。試合を決める“切り札”は最後まで取っておくもの? 2025シーズンのJリーグで輝いている「フィニッシャー」にフォーカスを当てる。
第4回は、191cmの長身で、しかもスピードもあるというファジアーノ岡山の「高速重戦車」ルカオ。背番号99の投入でチームの戦い方すら規定してしまう強烈な「個」の起用法と効果について考察してみたい。
ルカオは、ファジアーノ岡山にとっての「リーサルウェポン」だ。
191cm91kgの長身でありながら時速34.8kmで走れるスピードも兼ね備えている。相手DFからすれば、非常に対応が難しい。身体を密着させてマークすると、吹き飛ばされて突破を許す。または、背負われてボールをキープされてしまう。間合いを取ってスペースを与えると、推進力のあるドリブルで置き去りにされる。1人のDFでシャットアウトするのは極めて困難だ。
そんな圧倒的な身体能力を有する、「高速重戦車」が試合の途中からピッチに登場するというのが岡山の勝利の方程式として確立しつつある。
相手チーム、特にDFにとっては一溜まりもないだろう。ルカオが途中出場するということは、[3-4-3]の最前線ではFW一美和成が先発しているのが今シーズンのスタンダードだ。背番号22は2度追いや3度追いも辞さない献身的なプレスと、相手DFと身体をぶつけ合いながらのボールキープに優れており、攻守両面で活動量が多い。さらに、岡山は前線にロングボールを躊躇なく放り込み、一美が相手DFと競り合ってこぼれたボールを回収して攻め込むというスタイルで前半をオーガナイズしている。一美の特徴とチームの戦術により、相手DFを攻撃しながら時計の針を進めているのだ。
相手DFが疲弊した時間帯では、背番号99の破壊力がより圧倒的なものになる。「スタートからでも途中からでも全力を出すことが自分の役割」というマインドのもと、120%の力で相手ゴールに向かっていく。筋骨隆々とした身体を思い切りぶつけてボールをキープし、味方の押し上げを促す。サイドのスペースに流れてボールを引き出し、帰宅後の自主トレーニングで磨き上げた強靭な腕で相手を押さえ込みながらタッチライン際を駆け上がる。木山隆之監督も「我々にとってはパワーとスピードで、相手を引っ張ってくれる、押し下げてくれる大事なパーツです」と高く評価している。
「アバウトなロングボールでいい」という信頼と意思統一
ルカオのジョーカー起用は、相手チームに脅威を与えるだけでなく、チームメイトへのメッセージになる。
指揮官が「自分の良さをしっかりと理解しながら、できないことはできないと割り切り、自分のできることを必死にやって、チームに非常に力を与えてくれる存在」と表現するほど特徴は明確。最前線にターゲットとして入ることで、ファジレッドに身を包んだ選手のプレー選択も少し異なる。
一美が頂点にいる時は、足下へのグラウンダーでの縦パスも入り、近い距離を取ったシャドーをはじめ複数の選手がパス&ムーブなどのコンビネーションで相手ゴールを目指す形も繰り出す。そこからサイドを駆け上がってきたウイングバックもうまく絡み、全体で押し上げていく。
しかし、ルカオの場合は少し違う。
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Profile
難波 拓未
2000年4月14日生まれ。岡山県岡山市出身。8歳の時に当時JFLのファジアーノ岡山に憧れて応援するようになり、高校3年生からサッカーメディアの仕事を志すなか、大学在学中の2022年にファジアーノ岡山の取材と撮影を開始。2024年からは同クラブのマッチデープログラムを担当し、サッカーのこだわりを1mm単位で掘り下げるメディア「イチミリ」の運営と編集を務める。(株)ウニベルサーレ所属。
