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鳥栖の切り札、新川志音。「先発で出るだけの価値が十分にある」18歳がジョーカー役を担う理由

2025.11.05

途中出場で流れを変えるJの「フィニッシャー」たち#1
新川志音(サガン鳥栖)

アーセナルのミケル・アルテタは『BBC』のインタビューで「フィニッシャー」の重要性について言及している。ラグビーでは試合終盤に投入される選手を「フィニッシャー」と呼び、アルテタは現代サッカーでは「先発よりも重要」とまで主張。実際、アーセナルはトロサールやマルティネッリが流れを変える存在として機能している。5人交代制の導入で“16人の戦術”が必要になった今、ベストメンバーという概念は希薄になってきている。試合を決める“切り札”は最後まで取っておくもの? 2025シーズンのJリーグで輝いている「フィニッシャー」にフォーカスを当てる。

第1回は、サガン鳥栖でチーム2番目の5ゴールを挙げている18歳・新川志音。1試合平均の出場時間は約32分、ゴールもすべて途中出場で挙げたもの。典型的なスーパーサブ起用に込められた意図を戦術面、本人のパーソナリティ、そしてフィジカル的な側面から読み解いてみたい。

 今季の開幕戦前日となる2月14日、クラブから2種登録のリリースが発表された。

 当時まだ高校2年生だった新川志音はさっそく開幕戦のメンバーに入り、第2節・磐田戦にて途中出場でトップチームデビューを果たした。以降、その輝きは増すばかりでリーグ戦35試合を終えた時点で30試合に出場。ゴール数はチーム2番目となる5得点を記録し、10月にはA契約締結の要件を満たす900分をクリア。高校3年生にしてプロ契約を結んだ。

 しかし、1試合平均の出場時間は約32分という数字が示すように新川に与えられている役割は後半からの途中出場、いわゆる“ジョーカー”としての役回りだ。「先発で出るだけの価値が十分にある選手」と小菊昭雄監督も評していながらなぜ、“ジョーカー”役を担っているのか。そこにはさまざまな理由があった。

Photo: Yasunobu Sugiyama

戦術的なエネルギーのチャージ役と”野生“

 まずはチーム事情が大きな要素としてあった。

 開幕から3連敗スタートを喫したチームは当初の4バックから3バックへと変更。ロジカルなポゼッションスタイルに舵を切ったこともあり、技術に優れた選手が重宝される形となった。また、4バック想定でオフシーズンの編成を進めてきたチームだったが、早々に3バックに変更したことで不足感のあるポジションが生まれてしまい、特に推進力のカギを握るウイングバックは単純に枚数不足だった。それもあって後半にチームとしてギアが上がらないことが課題となっていたが、そこで白羽の矢が立ったのが新川だった。アグレッシブに相手の背後を突く動き出しでトップの位置から推進力を生み出すと「何度でも追い回してくれる」と西澤健太が言うように労を惜しまずに2度追い、3度追いを繰り返す前線からのチェイシングで最終ラインのプッシュアップにも貢献。一時期、新川自身が左ウイングバックを務めた時期があったことからもエネルギーのチャージ役として期待を背負っていたのは明らかだった。

Photo: Yasunobu Sugiyama

 新川自身の性格も“ジョーカー”に向いているという点もあった。

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Profile

杉山 文宣

福岡県生まれ。大学卒業後、フリーランスとしての活動を開始。2008年からサッカー専門新聞『EL GOLAZO』でジェフ千葉、ジュビロ磐田、栃木SC、横浜FC、アビスパ福岡の担当を歴任し、現在はサガン鳥栖とV・ファーレン長崎を担当。Jリーグを中心に取材活動を行っている。

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