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真瀬拓海を突き動かす、あの日のJ2降格の苦しさ。誰より長く続く、ベガルタ仙台とサポーターを“いるべき場所”へ戻すための戦い

2025.11.04

ベガルタ・ピッチサイドリポート第31回

J1からの降格を味わったのは、ベガルタ仙台に正式加入したルーキーイヤーの2021年シーズンのこと。それから4年。J2での苦闘の日々をサポーターとともに過ごしてきた真瀬拓海は今、自分を信頼してくれる指揮官の下、どんな思いで昇格への道を歩んでいるのだろうか。チーム最古参となった右サイドバックの言葉を、村林いづみが引き出していく。

 2021年11月、その年のルーキーだった真瀬拓海は、言葉にならない無力感にさいなまれた。このシーズン、まだ2節を残して、ベガルタ仙台の「J2降格」が決定した。12年間留まり続けたJ1の舞台から去ることとなった責任。「こんなに期待されて、試合にも出してもらったのに……」。それは23歳の新人が背負うにはあまりにも重過ぎる十字架だった。真瀬の眠れぬ夜は長く、暗かった。

 そこから時は流れた。J2最初の3年間は毎年、監督が途中交代した。多くの選手が去り、新しい選手がやって来た。気づけば、あの年のルーキーはチーム最古参の選手になっていた。その中で、彼を叱咤激励し、信頼して起用し、「戦術・真瀬」とまで言ってくれる監督に出会えた。

 昨年はJ1昇格プレーオフ決勝まで進むも、その指揮官を男にすることができなかった。苦い涙を飲み込んだ。何とか乗り越えたいと前を向いた2025シーズンも、いよいよクライマックスへ。今年はより一層、混戦のJ1昇格争い。一筋縄にはいかない戦い、その真っただ中にいる真瀬拓海に、最近の試合のことや今の思いを聞いた。

Photo: Vegalta Sendai

シーズン最終盤、プレッシャーの中で試されている「プレーの質」

――シーズンも終盤、痺れる戦いが続いていますね。最近の戦いはどのように考えていますか?

 「最終盤になって、チームとしては勝ち続けるしかない状況。難しいゲームが続いています。その中で気持ちを切らさずに、1週間ごと、試合に勝つための準備に取り組んでいます」

――第33節のアウェイ・大分戦は0-0のスコアレスドローに終わりました。数的有利を生かせず、なかなか相手の堅い守備を崩せず、難しい戦いになってしまいました。

 「相手が一人退場し、10人になって分かりやすく守られた状況。そこでの崩しというところに、自分たちはシーズン通して課題が残っています。相手が堅く守っている。そこで崩しきれていないので、強引にでも点を取りにいく力が必要なのかなと思います」

――クロスを上げたり、相手を揺さぶって何とかこじ開けようとはしていましたが……。

 「僕たちは常に勝たなければいけない状況なので、もっとリスクを負って、人数をかけても良かったと思います。ピッチの中では全体的にミスを恐れてプレーすることが多かったという印象です」

Photo: Vegalta Sendai

――昨年もそうでしたが、負けられない戦いが続くプレッシャーとはどう向き合っていますか?

 「去年も同じような感じで、勝つしかない状況が続いていました。僕たちにはその経験もあります。シーズン終盤になって、疲労もあるし、メンタル的にも難しい中ですが、それでも100%の力を出せるような準備をしなければいけない。試合で結果を出さなければいけないような状況なので、本当に試されてるなと思いますね。ここでしっかり結果を残せるような選手じゃないといけない。自分の力でなんとか結果を見せたいと思います」

――シーズンを通しての疲労が蓄積している中で、それでも真瀬選手はよく走れているという印象です。

 「いえ。自分ではあまり走れていないと思っています。質のところでもっと違いを出さないといけない。走るだけでなく、その先でもっと質の違いを見せて、得点に関わるプレーができないといけないと思います。僕たちは相手を押し込める時間は長くなっていると思うので、更に相手にとって怖い動き出しや迫力。そういうところに一人一人がこだわること。僕たちは一人だけではなく、チームとして崩していくという戦いをしているので、そこの連携や回数、質にこだわってやっていかないといけないなと思います」

――今年も昨季以上に上位は混戦です。

 「J1昇格争いができる、こういうチャンスはなかなかないですし、残り試合は全て勝つしかない状況。本当に一戦一戦勝ちを求めて、1週間いい準備をして、試合で勝てるような準備をしていきたいなと思います」

Photo: Idumi Murabayashi

「あの時、僕がもっと強ければチームを救えたかもしれない」ルーキーイヤーの悔恨

――真瀬選手は仙台在籍5年、特別指定から数えると6シーズン目になります。J1での仙台を知っている唯一の存在となりました。

 「自分が入団して、その年でJ2に落としてしまったという責任も感じています。ベガルタはJ1にいるべきチームだと思うので、いるべき場所に戻るために、残り試合、勝ちだけにこだわっていく。必ず勝つということ、それだけだと思います」

――J2降格してしまった2021年、真瀬選手にとってはプロ1年目のシーズンでしたね。

 「本当に期待してもらって、試合にずっと出させていただいた立場でした(J1リーグ戦37試合出場)。試合に出ている以上は結果にこだわらなければいけなかったし、その責任というのはすごく感じていました。自分の力の無さで、ベガルタをJ2に落としてしまった。そこはやっぱりその借りは返さなければいけない。しっかりJ1に戻さないといけないなって思います」

――その思いをルーキーが背負うには重過ぎたのではないですか?この年はなかなか勝てず苦しい時間も長かったですよね。

……

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Profile

村林 いづみ

フリーアナウンサー、ライター。2007年よりスカパー!やDAZNでベガルタ仙台を中心に試合中継のピッチリポーターを務める。ベガルタ仙台の節目にはだいたいピッチサイドで涙ぐみ、祝杯と勝利のヒーローインタビューを何よりも楽しみに生きる。かつてスカパー!で好評を博した「ベガッ太さんとの夫婦漫才」をどこかで復活させたいと画策している。

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