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「昨季までの自分を知る人たちは驚いている」水戸の新DFリーダー・飯田貴敬の貢献

2025.10.16

水戸ホーリーホック昇竜伝#2

J2の中でも少ないクラブ予算ながら一歩一歩積み上げてきた水戸ホーリーホックは、エンブレムにも刻まれている水戸藩の家紋「三つ葉葵」を囲む竜のようにJ1の舞台へ昇ろうと夢見ている。困難な挑戦に立ち向かうピッチ内外の舞台裏を、クラブを愛する番記者・佐藤拓也が描き出す。

第2回は、チームに「安定感」をもたらしているDF飯田貴敬の貢献について。「昨季までの自分を知る人たちは驚いている」というリーダーへの変貌、経験を重ねたベテランゆえの若手への接し方やチーム戦術の落とし込みについて掘り下げてみたい。

 一昨季は17位、昨季は15位に沈んだ水戸が今季、第20節以降3カ月間も首位に立っている。昨季までとの違いについて、加入5年目の大崎航詩はこう語る。

 「経験豊富なベテラン選手の存在が大きい」

 これまで水戸は若手選手を中心としたチーム編成を行い、前田大然や伊藤涼太郎、小川航基といった日本代表に選ばれる選手を輩出するなど、「育成の水戸」というブランドを確立。若い才能を育てながら、チームの強化を行ってきた。その結果、年々有望な若手選手が水戸を選んで加入してくれるケースが増え、チーム力のベースを着実に高めることができていた。

 一方、それが結果につながらないシーズンが続いた。経験値の乏しい若い選手主体のチームゆえ、調子の波が激しく、試合の流れを読み切れず、勝利を落とす試合を重ねた。直近2シーズン、残留争いを経験する苦しい戦いが続いた。

 その流れを変えるために、今季獲得したのが、渡邉新太と飯田貴敬の経験豊富な選手だ。渡邉は攻撃のリーダーとして、飯田は守備のリーダーとして、チームを引っ張っており、2人の存在が「勢い」を強みとする反面、「安定感」に欠けた昨季までのチームを変えてきた。特に「安定感」という点において、絶大な影響を与えているのが飯田だ。

若い時に助けてくれた先輩たちのような存在へ

 「出身地の茨城を盛り上げるため」

 複数クラブからオファーが届きながら、今季水戸加入を決断した飯田。

 「昨季までの自分を知る人たちは、今の自分を見て驚いていますね」

 自らそう振り返るように、昨季までの飯田は決してリーダータイプの選手ではなかった。爆発的なスピードと高い技術を活かした攻撃参加を武器とする右SBとして、清水、京都、大宮、甲府で活躍を見せてきた飯田だが、今まで絶対的なリーダーとしての役割を担ってきたことはなかった。ただ、今季、若手の多い水戸において、30歳を超えた飯田は否応なしにリーダーとしての役割が課された。それは飯田にとって、新たなチャレンジでもあった。

 「今まで在籍したクラブで、ここまでチームの息遣いを気にしたことはなかったですし、自分のことより、チームの結果にこだわったのは京都で昇格した21シーズン以来ですね。サポーターの方は僕がドリブルで突破していくプレーを期待していると思いますけど、それだけが自分ではない。チームを勝たせることができるのも、自分の特長だと思っています」

 そう語る飯田は常にチームのバランスや試合の流れを読みながらプレーすることを心がけてきたという。そして、それを指示やプレーで発信することによって、チーム全体で意志の共有を図ってきた。

 「ピッチ全体を上から見ている感じでプレーしています。自分がサイドでボールを運んでいる時、逆サイドの選手が疲れているからゴール前に入れていない場合はスピードを落とすようにしていますし、ボールを奪った瞬間、FWの選手がボールを欲しがっていても、CBの選手が休みたがっているならば、無理に前に行くよりも、いったんボールを動かすことによって、呼吸を整えさせるとか、そういう顔色や息遣いを感じながらプレーの選択をするようにしています。それは自分の中での大きな変化だと感じています」

 今季の水戸に勢い任せだった昨季までの姿はない。試合の流れに合わせて戦い方を変化させるしたたかなチームに変わりつつある。それが今の水戸の強さになっている。その原動力となっているのが、飯田なのだ。

 プレーだけでない。精神面でも若い選手たちに大きな影響を与えている。

……

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Profile

佐藤 拓也

1977年生まれ。神奈川県出身茨城県在住のフリーライター。04年から水戸ホーリーホックを取材し続けている。『エル・ゴラッソ』で水戸を担当し、有料webサイト『デイリーホーリーホック』でメインライターを務める。

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