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Jの海外戦略の明らかな変化。対アジアの「市場開拓」から対欧州の「選手獲得から移籍までのバリューチェーン創出」へ

2025.10.11

【特集】Jクラブの新たなる海外戦略#11

J1の主力はもちろん、J2から即海外というルートも目立つようになった昨今の移籍市場。環境の変化に適応するように、Jクラブの海外戦略にも新しい動きが出てきている。激変の時代に求められるのは、明確なビジョンと実行力。その成否はこれからかもしれないが、各クラブの興味深いチャレンジを掘り下げてみたい。

最終回となる第11回は、今後Jクラブが海外戦略を通じてどのような発展を遂げていく可能性があるのかを元CFG(シティ・フットボール・グループ)日本法人代表で、現在は出島フットボール代表取締役の利重孝夫氏に総括してもらった。

 Jクラブの海外戦略と言えば、つい最近までターゲットはアジア、そして事業サイドが主な対象だった。今でも引き続き、選手の加入を発端にサッカークリニックなどを行ったりしながらその国の市場開拓(ファンベース拡大、スポンサー獲得、放映権販売)を行っているが、残念ながらクラブの成長に寄与する大きなインパクトを残している成功事例はあまり記憶にない。しかしここへきて、海外戦略と言えば舞台は欧州、しかもアカデミーからトップに至るフットボール強化全面を対象とした戦略を指すケースが次々に生まれてきた。

そもそも「海外戦略」がなぜ必要なのか?

 海外戦略が必要な理由として、選手育成、移籍金アップ、空洞化回避などが個別の目的として挙げられるが、総じて言えば選手の獲得から育成、トップチームへの昇格、そして最終的にはステップアップの形で他クラブ(市場)に送り出すまでの優位性あるバリューチェーンを創出するためだと捉えられるだろう。

 10人いたら、ほぼ10人全員が欧州へ羽ばたく希望を持つ今日、欧州へのPathway=パスウェイを示し、逆算しながらどのように選手獲得につなげていくのか――そこに各クラブが知恵を絞る時代が訪れたのである。

 選手育成であれば、国内でもっとできることがあると思うかもしれない。

 実際、近年の日本人選手の活躍ぶりから日本の育成力の評価は大いに高まっており、その強みをさらにブラッシュアップしていくことが最大の戦略になり得るという考え方もある。

 その点でU-21 Jリーグはまさに本丸であり、過去何度かトライしながら継続できなかったことも踏まえ実効性を高めていくことで、現状抱えているポストユースにおける試合出場の機会が少ないという懸念を払拭し、今までよりも年代的に早いタイミングでもトップチームでプレーできる、あるいは市場価値を高めてクラブの収益に貢献できる選手を増やしていくことができるかもしれない。

 一方で、日本特有の市場環境やメンタリティがポストユース問題を複雑化している面もある。

 そもそも日本ではカテゴリーが異なるクラブとの提携や、日本市場の特徴の1つである高校や大学との連携が難しい。大学からJ側には特別指定制度があるが、J側から大学へ選手をレンタルする制度はない。また、Jリーグで上位から下位カテゴリーのクラブに期限付き移籍で出しても、必ずしも選手を使ってくれる保証はないケースがほとんど。実力でポジションを奪えないようであれば所詮それまで、といった極めて真っ当な反応が返されることも多く、J1から社会人リーグの下部リーグまで、全てのクラブが優勝や昇格を目指す、あるいは目指せるため、どうしても監督としては計算できるベテラン選手を優先させがちであり、マネジメントも同じ立場、少なくとも容認するのが日本のスタンダードだ。

 チームの勝利を唯一の目的とするJと、チームの勝利を目指しつつ、若手選手の育成(プレータイム)を増やすことの両立を求めることでクラブの存立基盤を成立させようとする欧州、特に中小クラブとの違いは極めて明白だ。

Photo: Takahiro Fujii

 高校や大学についても、結果的に優れた選手を生み出す貴重な母体とはなっているものの、選手のキャリアトップの時代から逆算した育成機関ではない。日本には勝つことと育成を両立させられる監督が不在、そもそも求められていないので出てきようがない市場のままとなってしまっている。この特徴は、一方である意味日本市場の強みでもあったりするので、当面は変わらないだろう。今回取り上げたクラブやマネジメント層にはそのような市場認識と問題意識が強く感じられ、だからこそ海外に活路を見出し、実践に移されているのだと思う。

Jの海外戦略の類型と欧州側の変化

 海外クラブとの提携と一口で言ってもその形態は様々であり、今特集で紹介されていた6クラブの事例も含め、以下のような類型パターンに分けると把握しやすいと思う。

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Profile

利重 孝夫

(株)ソル・メディア代表取締役社長。東京大学ア式蹴球部総監督。2000年代に楽天(株)にて東京ヴェルディメインスポンサー、ヴィッセル神戸事業譲受、FCバルセロナとの提携案件をリード。2014年から約10年間、シティ・フットボール・ジャパン(株)代表も務めた。

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