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個人の色を出せる異能の才は昇格のラストピースか。サガン鳥栖・西矢健人が携えるプロの矜持

2025.10.09

プロビンチャの息吹~サガンリポート~ 第20回

実に4ヶ月ぶりのスタメンだった。J2第32節・レノファ山口FC戦。サガン鳥栖の西矢健人はまっさらなピッチに解き放たれる。シーズン前半戦は定位置を確保していたものの、6月以降は一転して途中出場が主な役割。それでも指揮官に課されたことと自身の特徴をともに発揮することで、結果を出そうともがいてきた。足を踏み入れているリーグ最終盤。果たしてこの人はJ1昇格のラストピースになり得るのか。杉山文宣が本人の言葉から考察する。

自身初のJ1で感じた力不足をエネルギーに

 明治安田J2第32節・レノファ山口FC戦。先発メンバーに西矢健人の名前が記された。それは第19節・水戸ホーリーホック戦以来、実に約4ヶ月ぶりのことだった。開幕戦からその水戸戦までリーグ戦すべての試合に先発を続けていただけに、これほど長い期間で西矢が先発落ちとなるとは、本人も周囲も想像していなかっただろう。そこにはけがという外的要因も含まれるが、そんな時間でも西矢の自身に対する信念は一切ブレることはなかった。

 昨夏、サガン鳥栖に加入した西矢は自身初のJ1の舞台を戦った。「自分でもこのカテゴリーでできる」という手応えを得た一方で、勝利を挙げることができないまま降格決定を迎えた。「自分の一つのプレーがチームに火を着けるようなことはもっとできたかなと思うし、ピッチ外での発言や行動でもチームをもっと変えられたんじゃないかなと。自分ではやってきたつもりですけど、結果が出ていないのが事実」と力不足も同時に痛感した。

 ただ、強い向上心を備える西矢にとって“力不足の痛感”という経験は、さらなる成長を欲する糧となった。「J1を経験してみてさらに上の世界に行きたい。シンプルに言えば、日本代表に選ばれたい、世界に行きたいというのは現実的に思いました。そこに向けて個人的には自分と向き合う1年になると思うので、そこは自分に負けないように頑張りたい」。今季の開幕前、西矢はそう話した。

 そこで意識したのは「誰が試合を見ても、西矢が一番良い選手だなと思ってもらえるような選手にならないといけない」というもの。「数字という結果を残すことが自分が上に行くためには必要」だとゴール、アシストという数字への強烈なこだわりを見せた。加入からの半年はアンカーを任せられたが、チームが残留争いの渦中にあったことで、失点しないために、ポジションを空けないことに重きを置かざるを得なくなり、知らず知らずのうちに自らの意識もそんなふうに染まっていった。攻守に前を選択できるという西矢本来の持ち味は陰りを見せ、得点に関与する機会を作れなかった。

大一番の19節・水戸戦ではまった「思わぬ落とし穴」

 今季はチームがダブルボランチを採用したこともあり、沖縄キャンプでの初の対外試合で2得点を記録。大学生が相手とは言え、果敢に前へのアクションを見せる姿は西矢の決意の表れだった。シーズン開幕後は思うように数字はついてこなかったものの、攻撃においては「ミスをしても取り返せばいい。自分はそっちを優先するタイプ」というように縦パスや自らが飛び出していく動きを見せ、守備でもハイプレスを信条とするチームにあって、人を強く意識した高い位置に出ていくプレスを披露。昨季までとは違う姿を見せ、チーム内での存在感を高めていった。

 何より西矢の特長と言えるのはその肌感覚の鋭さだろう。チームメートの西澤健太は「現象ではなくて、そこに至るまでの過程を見ることができるのが健人だと思います。みんなとは一つ違うところを見ている」と評する。西矢はチームのベースやスタッフからのオーダーを尊重しつつ、最終的には“肌感覚”で自分がベストだと信じる判断を実行できる。そういった選手と言えるだろう。

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Profile

杉山 文宣

福岡県生まれ。大学卒業後、フリーランスとしての活動を開始。2008年からサッカー専門新聞『EL GOLAZO』でジェフ千葉、ジュビロ磐田、栃木SC、横浜FC、アビスパ福岡の担当を歴任し、現在はサガン鳥栖とV・ファーレン長崎を担当。Jリーグを中心に取材活動を行っている。

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