スカウト歴31年目の敏腕仕事人が行き着いたのは「最終的には“人と人とのつながり”」。鹿島アントラーズ・椎本邦一スカウトインタビュー(後編)
【特集】これからのJスカウトに求められる視点#2
今や「欧州組」「日本人対決」という言葉が陳腐化するほど、数多くの日本人選手が海を渡って活躍している。欧州各国からの評価も年々向上し、10代の選手たちのキャリアプランに夢ではなく、リアルな選択肢として「欧州クラブ」が加わるようになった。日本でも秋春制の導入、U-21 Jリーグの創設など大きな改革が進む中で、才能の原石を見つけるプロたちは何を考えているのか?――これからのJスカウトに求められる視点について様々な角度からフォーカスしてみたい。
第1&2回は鹿島アントラーズの椎本邦一スカウト。1994年から名門クラブでスカウト業に足を踏み入れ、今年で31年目。柳沢敦、中田浩二、内田篤人、柴崎岳などワールドカップ出場選手を筆頭に、数々のタレントを鹿島へ導いてきた敏腕スカウトが、過去の獲得選手との思い出を紐解きながら、自身の仕事を改めて思索する。
監督と本音で話せるかどうかが選手を知る最大のキーファクター
――他方、選手を見極める際の難しさはどこにありますか。
「やっぱりメンタル面ですね。いわゆるプロ向きの性格かどうか、厳しい世界で生き残っていけるタイプかどうか」
――そこはやはり成功する選手たちに共通する部分ですか。
「内田篤人にしても、柴崎岳(現・鹿島)にしてもそうだけど、Jリーグはもとより、海外でプレーするような選手たちは賢いし、自分に矢印を向けているんですよ」
――そのあたりは本人たちと話してみて分かるものですか。
「岳なんかは実際に話してみて、しっかりしているのは分かったけど……。昔は話を聞いても『はい』しか言わないみたいなことが少なくなかったから、正直、限界がありましたね。その意味でも、一番身近なところで選手たちを見守ってきた人たちの話を聞くのが一番いい。だから、いかにして監督さんと信頼関係を結ぶかが重要になるんです。こちらが目をつけた選手について、性格も含め、本音で話してもらえるように」
――実のところ、本音を引き出すのは難しいですよね。
「そうなんですよ。教え子が次々とプロ選手になれば、学校はもちろん、監督さんの評価も高まるわけですから。何とかして獲得してもらおうと考えるのは自然なことです。しかし、スカウトの立場からすると、選手たちの本当のところが知りたいわけで、それを包み隠さず、教えてもらえるかどうかが勝負になるんです。そのために、目当ての選手がいない時であっても、年に数回は必ず高校まで足を運び、監督さんたちと話す機会をつくるようにしてきましたよ」
――手間暇を惜しまず、それをやり続けてきたわけですね。
「試合の時だけ顔を出して『選手をください』というのでは、さすがに虫が良すぎるでしょ。特に昔の監督さんたちは、そういうところに敏感でしたからね」
――スカウトとして、やるべきことをやったことで、やがて日本代表に名を連ねるようなタレントを獲得できたわけですね。
「いや、実際にはそれだけじゃダメなんですよ。長い間、この仕事をしてきて、改めて思うのは『クラブに魅力がなければ、来てもらえない』ということ。いくら人脈を築いて、信頼を手にしたとしても、ね」
多くの有望な高卒選手を鹿島に導いてきた理由
――鹿島の最大の魅力として、アピールしてきたものは何ですか。
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Profile
北條 聡
1968年生まれ。栃木県出身。早大政経学部卒。サッカー専門誌編集長を経て、2013年からフリーランスに。YouTubeチャンネル『蹴球メガネーズ』の一員として活動中。
