9月22日、レッドブル・グループの一員であるRB大宮アルディージャはスチュアート・ウェバーのヘッドオブスポーツ就任を発表した。かつてSDとしてノリッチ・シティを2度のチャンピオンシップ優勝&プレミアリーグ昇格に導く中で実現したオーナー、トップチーム、アカデミーの三位一体とは?10月2日に新天地で公開された「スチュアート ウェバー ヘッドオブスポーツ および 宮沢悠生 監督 就任会見 実施レポート」も参考にしながら、日本からノリッチを応援するサポーターグループ、カナリーズジャパンがウェバー氏の敏腕ぶりを振り返る。
今から約8年半前となる2017年4月、ノリッチ・シティはスチュアート・ウェバーがスポーティングディレクター(SD)に就任することを発表した。それから約6年間在籍したウェバーは、ノリッチのピッチ内外における変革を手がけている。2018-19シーズンと2020-21シーズンの2度のチャンピオンシップ優勝&プレミアリーグ昇格、そして2019-20シーズンと2021-22シーズンの2度のチャンピオンシップ降格と紆余曲折あった中での彼の功績は日本のサッカーメディアでもすでに一部紹介されているが、本稿ではRB大宮アルディージャでも求められるであろう、オーナー、トップチーム、アカデミーの三位一体を実現した組織づくりを中心に振り返ってみたい。
このたび、スチュアート ウェバー 氏がヘッドオブスポーツに就任することが決まりましたので、お知らせします。
RB Omiya Ardija announces the appointment of Stuart Webber as the club’s new Head of Sports.https://t.co/YykdYoekWa#Jリーグ #RB大宮アルディージャ #ardija pic.twitter.com/ZDCq7wh0xe
— RB大宮アルディージャ (@Ardija_Official) September 22, 2025
クラブの風通しを良くする手腕。見どころはOBの活用術?
そもそもウェバー到来前の2016-17シーズンのノリッチは、チャンピオンシップで序盤こそ昇格争いを繰り広げるも、中盤戦以降には失速してしまうようなチームだった。主力の多くは高齢化し、リーグトップの給与水準とは裏腹にプレミアリーグ昇格に失敗したことで財政状況が悪化の一途をたどると、主力だったジェイコブ・マーフィーやアレックス・プリチャードも流出。過渡期を迎えていたクラブで当時の会長エド・ボールズは、従来のように全権を監督に委ねるのではなく、より戦略的に育成から補強までのチーム強化全体を統括するSDを据えていくトレンドがイングランドサッカー界に生まれていた時代背景も踏まえ、同職を新設するべきだと提言する。
こうしてノリッチで誕生した初のポジションで白羽の矢が立ったのは、資金力が潤沢とは言えない古豪ハダースフィールドを45年ぶりにプレミアリーグ昇格に導いたことで、注目を集めていた新進気鋭のSD(肩書はプロフェッショナルフットボールディレクター)ウェバーであった。当初本人は興味を示さなかったが、著名な料理研究家でもある当時の名物オーナー、デリア・スミスとの面談も経て最終的に「成長の余地が大いにある」と感じたノリッチ行きを決断している。
Club Statement: Stuart Webber appointed to key Sporting Director role with immediate effect ➡️ https://t.co/l6ujImOT5R #ncfc pic.twitter.com/Eusj4OAEio
— Norwich City FC (@NorwichCityFC) April 6, 2017
そのスミスと話を進める中で、ウェバーには驚いたことがあった。新たな上司は「練習場やクラブハウスに足を運ぶな」と、クラブ内で距離を置かれていたからだ。「馴れ合うべきではない」「選手の気が散る」という理由こそ一理あるものの、ハダースフィールドではオーナーが現場レベルで日々密接に連携するのが当たり前。イギリスにおいて抜群の知名度を持つ人格者として知られるスミスを遠ざけるのはなおさらもったいないと感じたウェバーはSD就任以降、彼女らオーナー夫妻に時間があれば練習場にも足を運んでもらい、クラブハウスに訪問する新加入選手とその家族がよりクラブに馴染めるよう、彼らの出迎えまでもスミスに頼んでいった。のちに絶対的守護神となるティム・クルルが2018年夏の入団まもなく妻子と両親を試合に呼んだ際も、スミス夫妻がスタジアムで手厚く歓迎してくれたおかげで、クルルの父は「ニューカッスル時代はオーナーに会ったことがなかっただけに、非常にうれしかった」と言葉を弾ませている。
Delia and Michael leaving @NorwichCityFC
Great owners but more importantly amazing people.
💚💛@DeliaOnline pic.twitter.com/3w8iyrL2LA— Tim Krul (@TimKrul) October 24, 2024
このようにクラブの風通しを良くして信頼関係や帰属意識を強める手腕にも定評があるウェバーだがもちろん、ノリッチでの手法をそのままRB大宮で踏襲するわけにはいかないはず。経営陣(オーナー)とスポーツ部門(トップチームとアカデミー)の間に立つであろう新ヘッドオブスポーツとして両者をつなぐには、兄弟クラブであるレッドブル・ザルツブルク、RBライプツィヒを中心に独自のフィロソフィーやネットワークを築き上げて知見や情報を蓄えてきたレッドブル・グループと、欧州から遠く離れた極東の現場の間でいかに足並みをそろえていくかが焦点となるからだ。
ゆえにバランス感覚が求められるが、ウェバーはクラブの文化や伝統を軽視する男ではないのも事実である。ノリッチでは引退後も彼らのホームタウンに定住したOBたち、ジェレミー・ゴス、ダレン・ハッカビー、グラント・ホルトらを、積極的に選手たちと交流させるように働きかけ、現役の後輩たちが出場試合数などの節目を迎えるたびに、レジェンドたちがクラブハウスを訪問してユニフォームを贈呈していく恒例行事も生み出していたからだ。
その狙いは「外国籍選手や若手が多数いる中で、このクラブでプレーすることがこの街の人たちにとってどれほど大きな意味を持つのかを、クラブに貢献してきたかつての名選手たちと接することでクラブへのリスペクトを学んでもらい、成長に繋げてほしい」という想いにある。加入後100試合出場を達成したクルルにユニフォームを贈呈したゴスが当時のチーム全員に語った「私は肺と足を練習場に、魂は(ホームスタジアムの)キャロウ・ロードに捧げた」という言葉は、ウェバーたっての希望で今も食堂の壁に刻み込まれているほど。前身から数えれば56年の歴史を誇るRB大宮のOBたちをどのように巻き込んでいくかも、今後の見どころの1つである。
Norwich City's 2018-19 debutants were today presented with framed shirts by Club legends… 💛💚
More here ➡️ https://t.co/A0riI2lb6J#ncfc pic.twitter.com/tTC9Z4WWcD
— Norwich City FC (@NorwichCityFC) October 18, 2018
「アカデミーに世界最高の手筈、設備、選手がそろっていても…」
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カナリーズジャパン
日本からNorwich Cityを応援しています。チームで運営し、主にTwitter(@canaries_jp)で活動しております。
