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J1で勝つにはクリスタルパレスを目指すべき?進化した英国スタイルと鎌田大地の化学反応

2025.10.01

新・戦術リストランテ VOL.86

footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!

第86回は、昨季王者のリバプールを撃破して3位に浮上したクリスタルパレス。「伝統的なイングランドサッカーの強化バージョン」(西部氏)というグラスナー戦術がプレミアリーグで効果を発揮している理由、そしてその中で鎌田大地が果たしている貴重な働きについて考察する。

クラブ伝統のスタイルだが、時代が追い風に

 プレミアリーグ第6節でリバプールに2-1と勝利したクリスタルパレス、依然として無敗です。3勝3分で3位。開幕前のコミュニティシールドでもPK戦とはいえリバプールを破っています。

 13-14シーズンにプレミア復帰を果たして以来、降格はありません。その間の順位は10~15位、安定の中位。昨季は12位でした。初のメジャータイトルとしてFAカップを獲りました。決勝の相手はマンチェスター・シティでしたから強い相手に強い傾向があります。

昨季から数えて公式戦18戦無敗のクリスタルパレス。現在の欧州5大リーグで最長となっている

 高い身体能力を活用したパワフルなサッカー。組織的な守備からのカウンターアタックが強みで、強度高く縦に速い近年の流行に乗っていますが、これがクリスタルパレスの伝統でもあり、言ってみれば伝統的なイングランドサッカーの強化バージョンです。

 ロングボールを追っての競り合い、肉弾戦、空中戦はかつてイングランドの特徴だったわけですが、それだけでは勝てなくなったのでイングランド代表はかなり様変わりしていますし、クラブチームも強豪は古典的なブリティッシュスタイルを踏襲してはいません。

 しかし、クリスタルパレスを筆頭にフィジカル重視のサッカーをするチームも依然として少なくない。効果があるからです。

 伝統のイングランドスタイルは1990年代を境にいったん崩れています。外国籍の選手、監督、資本が流入してプレミアリーグのグローバル化が起きた。そしてグアルディオラ監督のシティがポジショナルプレーでリーグを席巻。やがてリバプール、チェルシー、アーセナルなどがシティ方式を吸収、他のクラブも程度の差はあれ追随。すると、今度はビルドアップをマンマークで潰すハイプレスが強化される流れになり現在に至っています。

 プレスvsビルドアップは基本的にプレス側が有利になります。

 自陣からショートパスで運んでいこうとすると、相手ゴールへ向けない状態でボールをコントロールする状況がどこかで起こりますが、その際に背中側から寄せてくる守備者とボールを同一視野に収められない。そのために前進守備は基本的に有利で、次のパスの受け手もマークされているならビルドアップは窮屈にならざるを得ない。

 とはいえ、マンマークのプレスは1つ外されると玉突き的にマークがずれる、そうでなければフリーで運ばれるので前進守備が一転して総退却になってしまうリスクがあります。スプリントで相手に寄せれば方向転換に大きなパワーが必要で、プレスが速ければ速いほどトラップ1つ、パス1本で簡単に外される。その原理を知っていて、技術と敏捷性またはコンタクトスキルを持った選手がいるとビルドアップ側は劇的に状況を変えることもできます。かつてジダンがやり、シャビやブスケッツが、現在はビティーニャやペドリが実践している通りです。

 ただし、現状は技術でプレスを外そうと試みる選手が非常に少ない。万一を考えて恐がってしまっているのだと思います。1対1を制するよりもプレス回避が優先されている。ですから基本的にプレス側が有利になっています。

……

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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