佐野航大、小川航基、塩貝健人も楽しむ、NEC新監督ディック・スフローダーの「ウルトラ・アタッキング」
VIER-DRIE-DRIE~現場で感じるオランダサッカー~#20
エールディビジの3強から中小クラブに下部リーグ、育成年代、さらには“オランイェ”まで。どんな試合でも楽しむ現地ファンの姿に感銘を受け、25年以上にわたって精力的に取材を続ける現場から中田徹氏がオランダサッカーの旬をお届けする。
第20回で取り上げるのは、小川航基、佐野航大、塩貝健人が所属するNECナイメーヘンのディック・スフローダー新監督。エールディビジ開幕3連勝で一時は首位にも立ち、現在も最多得点を記録している攻撃サッカーを読む。
WBのいない[3-4-2-1]。「ウルトラ・アタッキング」に詰まる魅力
9月13日の対PSV、3-5のビハインドで迎えた後半アディショナルタイム。本拠ホッフェルト・スタディオンを埋めた1万2650人の観衆は、NECナイメーヘンの応援をしばし止め、拍手だけを送り続けた。この夜、負けはしたものの、ピッチの上で披露したホームチームのサッカーに人々は酔いしれた。
個の力ではPSVに敵わない。それでもNECはハイプレッシングでボールを果敢に奪いに行き、縦に速い攻撃で敵陣ゴールに襲いかかった。ポゼッション率は57%、シュートは打ちも打ったり20本。アウェイチームのそれを2本上回った。
NEC新監督のディック・スフローダーは今、オランダで時の人である。この[4-3-3]の国において、[3-4-2-1]システムを用いて新たな戦術トレンドを作ろうとしているからだ。
オランダサッカーの魅力の1つはウイングのサイドアタック。[3-4-2-1]の大外は普通、“ウイングバック”と呼ばれる選手が攻守に上下し、相手に押し込まれたら5バックシステムのように後ろに重たくなる時間帯が生まれる。しかし、“ウイングバック”という用語を嫌い“ウイングプレーヤー”という言葉を好んで使うスフローダーは、そのポジションにウインガータイプを置き、高い位置をキープさせようとする。そのシステムは[3-4-2-1]というより[3-2-4-1]、ないしは[3-2-2-3]と呼ぶほうが近いのかもしれない。
このような“ウイングプレーヤー”を置く攻撃的3バックシステムは“ディキ・タカ”と命名された。これはもちろん、スペインの“ティキ・タカ”とスフローダーのファーストネームに由来する。翌14日、オランダ公共放送NOSのサッカートーク番組『ストゥディオ・フットボール』のゲストに招かれたスフローダーは、司会から「あなたのサッカーを短くまとめて表すと?」と問われ、「ウルトラ・アタッキング」と答えている。攻めて攻めて攻め倒せ――。その攻め達磨の姿勢がウルトラ・アタッキングの一言に詰まっている。
「ストゥディオ・フットボール」にビデオ出演した、かつての天才MFラファエル・ファン・デル・ファールトはNECのサッカーをこう称えた。
「ディック・スフローダーはオランダで最高のサッカーを披露している。彼はとてもファンのことを考えていますよ。たくさんゴールを決めて、人々に素晴らしい夜を提供する。勝つこともあれば負けることもある。だけどそれはエンターテインメントになっています」
開幕3連勝と最高のスタートを切ったNECだったが、その後3連敗したことでエールディビジでの貯金はなくなった。それでも毎試合複数得点を決めるNECの総ゴール数は18と、PSVと並んでリーグ最多をマークしている。
コメンテーターのアルノ・フェルムーレンは、やはり『ストゥディオ・フットボール』内でこうコメントしている。
「PSV戦の後半のNECはアブノーマル。フィジカルが衰えず、3バックシステムで信じられないほど攻撃的で、デビューした選手が2人もいた。彼らのCBはもうCBじゃない(ほど攻撃的)。アタッカーたちは前進あるのみ。(86分の)PKが決まったら5-5という結果もありえた。ちょっと特別なサッカーで、私もとても楽しんだ。エクセルシオール対スパルタを見て眠たくなった。ヘラクレス対AZもそう。だけどNECの試合は違う。そこのことにリスペクトを示さないといけない。彼らがPSVに負けたことは(見ている側には)関係ない。違う結果に終わってもおかしくなかった」
中山、佐野の証言に共通する「練習での落とし込みの凄さ」
ディルク・プロッパーとドイス・ボランチを組み、攻守にNECの頭脳となるのが佐野航大だ。試合展開、ないしはCB陣の台所事情に応じてリベロになったり、右CBを務めたりするとともに、ファイナルサードで意外性を発揮することもできる多機能ぶりを発揮している。その佐野に開幕直後、「新しい監督のサッカーはどう?」と尋ねた。
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Profile
中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。
