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「流動化」のデ・ブルイネと「固定化」のモドリッチ。コンテのナポリとアレグリのミランが選んだ対照的な名手の活かし方

2025.09.19

CALCIOおもてうら#52

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。 

今回は、今夏セリエAにやって来た2人の大物プレーヤー、ナポリのケビン・デ・ブルイネとミランのルカ・モドリッチの対照的な活かし方について考察してみたい。

 夏のセリエAメルカートで最も大きな話題は、ケビン・デ・ブルイネ、ルカ・モドリッチというワールドクラスが、契約満了によるフリー移籍でナポリ、ミランに加入したことだろう。

 デ・ブルイネは34歳、モドリッチは40歳と、キャリアのピークを過ぎた年齢であり、所属クラブでも絶対的な存在ではなくなって契約満了を迎えたという点では共通している。CLで優勝を狙うような最高レベルでは主力として通用しなくなったという言い方もできるが、セリエAでならまだ、チームの中核を担って決定的な違いを作り出せるクオリティを保っていることも確か。世界最高レベルを経験したワールドクラスのトッププレーヤーとして、グループの中でリーダーとして、あるいはロールモデルとして周囲にポジティブな影響を及ぼし、ピッチ内外でチームの牽引車となることも期待されている。

 実際、ナポリを率いるアントニオ・コンテ、ミランを率いるマッシミリアーノ・アレグリは、ともに彼らを中心に据え、そのクオリティを最大限に引き出すことを最優先事項に置いてチームの構築に取り組んでいるように見える。そして、そのアプローチの違いは興味深いものだ。

「攻撃の3局面」すべてに関与させるための構造

 昨シーズン、コンテを監督に迎えてスクデットを勝ち取ったナポリは、退任を仄めかしつつチームのさらなる補強を求めた指揮官の要望に応える形で、デ・ブルイネに加え、FWホイルンド、ルッカ、ラング、MFエルマス、DFベウケマ、グティエレス、GKミリンコビッチ・サビッチと、8人のレギュラークラス、準レギュラークラスを補強し、昨シーズンはなかったCLとの二正面作戦に耐える陣容の厚みを、質と量の両面で確保した。

 昨シーズンは、[4-3-3]を基本システムとしながら、ボール保持時にはマクトミネイが前線に上がり、両ウイングが1.5列目で内に絞ることで[4-2-2-2]となり、非保持のブロック守備時には右ウイングのポリターノが守備の局面で最終ラインまで下がって5バックを形成し、マクトミネイも中盤に下がって[5-4-1]となる可変システムを採用していた。

24-25/ナポリ:[4-3-3]

GK:メレト
DF:ディ・ロレンツォ、ラフマニ、ブオンジョルノ、オリベラ
MF:アンギサ、ロボツカ、マクトミネイ
FW:ポリターノ、ルカク、ネレス

 これは、新加入したマクトミネイをロボツカ、アンギサというMF陣と共存させるために、当初採用していた[3-4-2-1]から右ウイングバック(マッゾッキ)を外してMF(マクトミネイ)を加えた結果生まれたもの。1トップ、2ウイング、3セントラルMF、4バックの最終ラインは左SBとCB3枚という構成である。

 今シーズンはここに、いかにしてデ・ブルイネを組み込むかがコンテにとっての戦術的な課題になった。そこで採られた解決策は、上記の構成から左ウイングを外し、そこにデ・ブルイネを組み込むというものだった。基本的な構成を「電話番号」で表すなら[4-1-4-1]となるだろうか。

25-26/ナポリ:[4-1-4-1]

GK:メレト
DF:ディ・ロレンツォ、ベウケマ、ブオンジョルノ、スピナッツォーラ
DMF:ロボツカ
OMF:ポリターノ、アンギサ、デ・ブルイネ、マクトミネイ
FW:ホイルンド

 これがビルドアップ時には、デ・ブルイネがロボツカと並ぶDMFのラインまで下がり、スピナッツォーラがOMFのラインに上がると同時に、マクトミネイが前線に上がることで、[3-2-3-2]のような配置になる。流動性が高いので数字で表すことにはあまり意味がないのだが、ポイントはいくつかある。

 まず、ビルドアップ第2列にデ・ブルイネが落ちることで、配置が事実上ロボツカとデ・ブルイネのWレジスタとなり、ビルドアップの出口が増えると同時に質が向上すること。また、運動量の多いアンギサが高い位置に進出する頻度が高まることで、前線の流動性もさらに上がること。そして、マクトミネイがトップに上がることで、ハイプレスを受けたりビルドアップが詰まった時の有効な出口となる前線のツインタワーが昨シーズン同様維持されていること。

 全体として見れば、ボール保持時にはビルドアップ第1列の3人、左右で幅を取るポリターノとスピナッツォーラが陣形の「外枠」を形成し、その内側でロボツカ、アンギサ、デ・ブルイネ、マクトミネイ、ホイルンドがかなり流動的に動き回る形になっている。

 そのうち、CFホイルンド、そしてマクトミネイとアンギサはボールのラインより上でパスの受け手として振る舞うことが多く、ロボツカは専ら出し手として振る舞い、デ・ブルイネは状況に応じてその双方を自由に行き来する。

 つまるところ、この全体構造は、デ・ブルイネが自由に広い範囲を動き回って、その持ち味をビルドアップ、敵陣でのポジショナルアタック、崩しとフィニッシュという攻撃の3局面でそれぞれ最大限に発揮できる状況を用意するものになっているわけだ。

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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