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G大阪が考えるU-21リーグの活かし方、有望な若手が共感するパスウェイの示し方、育成を通じた利益確保の考え方。松田浩フットボール本部本部長インタビュー(後編)

2025.09.17

【特集】Jクラブの新たなる海外戦略#5

J1の主力はもちろん、J2から即海外というルートも目立つようになった昨今の移籍市場。環境の変化に適応するように、Jクラブの海外戦略にも新しい動きが出てきている。激変の時代に求められるのは、明確なビジョンと実行力。その成否はこれからかもしれないが、各クラブの興味深いチャレンジを掘り下げてみたい。

第5回は、ガンバ大阪・松田浩フットボール本部本部長インタビューの後編。「Jリーグが置かれている現状」をテーマに、有望な若手がパスウェイするためのU-21リーグの活かし方や、提携して1年半になるアヤックスと共有する考え方などについて話を聞いた。

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U-21リーグ創設によってガンバが受ける恩恵

――ここからは「Jリーグが置かれている現状」をテーマにインタビューを進めたいのですが、各クラブの取材を通じて「今後はアカデミーへの投資を強めなければいけない」という話も多々耳にするようになってきました。ガンバ大阪も危機感を強めている状況だと思いますが、その意味で、Jリーグが置かれている現状についてどう見られていますか?

松田「今後、U-21リーグが新設されることは大きなトピックだと思っています。個人的な見解としては、日本のサッカーの構造的な欠陥として、U-21がないことにあったと感じているからです。U-18からすぐにプロに入っても、若手を育成する環境が整っていなかった。大学サッカーがそれを補完する現状があったと思うし、ある程度機能し、大学経由で日本代表になった選手もいれば、欧州に羽ばたいた選手もたくさんいるのは事実です。ガンバとすれば、非常にいいタレントがU-18にいながら、育成する環境が乏しいという現状を鑑み、トップチームに昇格させることを泣く泣く見送ってきたという課題もありましたが、今後U-21リーグができることで解消できる可能性が高まります。

 日本サッカーの現状としては、高体連から海外の環境を選ぶ選手も増えていますが、それは結局、海外にはヤングアヤックスのように若い選手たちが試合に出場できるリーグ戦や環境が揃っていることが大きいと見ています。トップチームですぐに通用しなくても、実戦経験が積める環境が準備されている。その意味で言えば、今後、U-21リーグが創設されると、海外志向の強い高体連の選手たちも我々のスカウトの中に入ってくるし、手元に置いて育てる選択肢を彼らに用意することができます。U-21リーグに所属する選手たちはプロ契約を結びますが、育成の延長線上にある大事な時期として位置づけられます。ガンバのU-18の選手たちも今後はガンバのフィロソフィーの中で手元に置いて育成を続けられるし、成長が著しければトップチームに上げることも可能になります。その道筋ができることは大きな一歩だと思っています。

 あるいは、U-21リーグが海外クラブの強化担当やスカウト勢にとっても一つのショーケースになるでしょう。市場価値が高まっていけば、年齢的にもより注目してくれるリーグになると見ています。そうなれば、育成に投資した利益がしっかり得られるようになります。かつてガンバはU-23チームをJ3リーグに参戦させた時期があります(16年から20年まで5シーズン)。当時の知見もあるのでU-21リーグにもスムーズに対応できると思うし、当時もU-23への投資という考え方の下、利益も出たという試算もあります。よってU-21リーグに参戦するチームにも投資すると考えるのが自然だし、その考え方が今後のクラブに大きな影響を与えると思っています」

――当時のガンバ大阪U-23では堂安律選手(現・フランクフルト)が18歳当時にプレーしていて、 J3の公式戦の中で揉まれ、十分な実戦経験を経て、19歳のときに日本代表に初選出されました。

松田「堂安律、中村敬斗(スタッド・ランス)もそうですね。やはり、実戦で揉まれる環境があるから育ちます。選手たちに試合環境を用意することが一番大事だと思っています」

U-21リーグは“スーパーなユース年代”のストレッチの場

――アヤックスは「育成の前倒し」として、ヤングアヤックスにユース年代の選手らをどんどん入れて、実際のリーグ戦で彼らが大人相手に戦う場所を提供しています。面白い試みだと感じますが、これも参考になりそうですか?

……

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Profile

鈴木 康浩

1978年、栃木県生まれ。ライター・編集者。サッカー書籍の構成・編集は30作以上。松田浩氏との共著に『サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論』がある。普段は『EL GOLAZO』やWEBマガジン『栃木フットボールマガジン』で栃木SCの日々の記録に明け暮れる。YouTubeのJ論ライブ『J2バスターズ』にも出演中。

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