REGULAR

勝負の月に待っていた思わぬ落とし穴。サガン鳥栖が8月の苦い経験から得た“気づき”の価値

2025.09.12

プロビンチャの息吹~サガンリポート~ 第19回

怒涛の3連勝で中断期間へ突入。勝負の月と位置付けた8月を前に、サガン鳥栖は最高に近い形で調子を取り戻していた。だが、アクセルを踏み込むはずだった1か月の結果は、まさかの1勝1分け3敗。上位チームとの対戦が多かったとはいえ、思わぬ足踏みを強いられることになる。ただ、立ち止まるわけにはいかない。1年でのJ1復帰を目指すチームは、この苦境の経験も糧に、運命の終盤戦へと突入していく。

アウェイ・札幌戦での敗戦に見えた「8月の苦戦」の予兆

 3週間というリーグ戦の中断期間を迎える前の最後の一戦となる第23節・大分トリニータ戦。サガン鳥栖は2-1で勝利を収めると4試合負けなし、3連勝を達成。順位も今季最高の4位となり、今季初めてJ1昇格プレーオフ圏内に突入。開幕3連敗からスタートしたチームはこれ以上ないカムバックを果たして、中断期間へと入ることになった。

 中断期間が明けると8月にはV・ファーレン長崎、水戸ホーリーホックとの上位直接対決をホームで迎えることもあり、J2優勝を目標に掲げるチームにとって勝負の月となることは監督をはじめ、スタッフ、選手たちの誰もが理解していた。しかし、そんな勝負の月に思わぬ落とし穴が待っていた。

 中断期間明けの初戦はアウェイでの北海道コンサドーレ札幌戦。振り返れば、このゲームに8月の苦戦の“予兆”はあった。札幌はこの試合で鳥栖に合わせる形で3バックを採用。シャドーが落ちてビルドアップの出口となる鳥栖の特長を封じるために、西野奨太はマンマーク気味にヴィキンタス・スリヴカに張り付くなど、“鳥栖対策”の色がかなり濃い戦い方を展開。鳥栖はそれでも試合自体は優勢に進めながらも得点を奪えずにいると後半、オープンな展開になったところで札幌に速攻を許し、泉森涼太のミス絡みで失点を喫すると、最後まで得点を奪えずに敗戦。勝負の月は初戦からつまずくことになってしまった。

 「相手も私たちの変則的な立ち位置やボール保持に対して、いろいろな策を練ってくる。私たちもその守備に対して、いかに相手を揺さぶるか。矢印を折っていくかは、みんなで同じ絵を描きながらバリエーションを豊富にしていきたい」

小菊昭雄監督

 小菊昭雄監督も札幌のスタンスを感じ取っており、今後も同様のケースが増えることを覚悟しつつ、チームとしてのさらなる進化を誓っていた。敗れはしたものの、試合の内容としては自分たちが目指すスタイルをしっかりと表現できていただけに、選手たちにも悲壮感の色は見られなかった。

 「『正直、どうして負けてしまったんだろう』という感情」と櫻井辰徳が言えば、西澤健太も「チャンスは作れたと思うので、あとは決め切るだけだったかなと思います」と下を向くことなく大和プレミストドームをあとにした。

負けながらも自分たちのスタイルは表現できた長崎との上位直接対決

 続くアウェイの愛媛FC戦は豪雨のなかでの試合となり、ピッチ上の至るところに水たまりができる難しいピッチコンディション。鳥栖らしいボール保持をベースとした試合は、あきらめざるを得ない状況だった。試合前には西澤がチームメートに熱く訴えかけた。

 「準備していることよりもサッカー選手としてどっちがうまいか。どっちの質が高いか。そういうゲームになるぞ!」

 その言葉どおり、まったくボールが走らずに肉弾戦の様相を呈した一戦は、西澤のミドルシュートで奪った1点を最後まで守り切った鳥栖が勝利。弾みをつけて長崎との上位直接対決を迎えることになった。ただ、鳥栖らしさが出せなかった一戦が8月唯一の勝利となったことは、後々振り返ると皮肉めいたものだった。

 鳥栖6位、長崎4位で迎えた直接対決。鳥栖は7月から採用していた[3-1-4-2]の攻撃的なシステムをスタートから採用。得点、そして、勝利への意欲をまずはその姿勢で示した。実際に試合では立ち上がりからボールを握り、試合を優勢に進める。

……

残り:3,336文字/全文:4,969文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

杉山 文宣

福岡県生まれ。大学卒業後、フリーランスとしての活動を開始。2008年からサッカー専門新聞『EL GOLAZO』でジェフ千葉、ジュビロ磐田、栃木SC、横浜FC、アビスパ福岡の担当を歴任し、現在はサガン鳥栖とV・ファーレン長崎を担当。Jリーグを中心に取材活動を行っている。

RANKING