イサク移籍騒動の全貌。ニューカッスルが乗り越えた前途多難の25-26夏を振り返る
今夏を最も騒がせた男は、アレクサンデル・イサクで異論ないだろう。そのリバプール加入に至るまでの経緯を含めて、前途多難の移籍市場を乗り越えたニューカッスルの動きを、X(旧Twitter)では「Japan Mags」、YouTubeでは「まぐちゃん」で愛する“マグパイズ”にまつわる情報を発信中のWassy氏に振り返ってもらった。
「ここに来るまで、本当に長い旅だった」
9月1日に夢の移籍を果たしたアレクサンデル・イサクが、リバプール加入発表時のクラブ公式インタビューで口にした言葉である。
移籍先にとっても、この補強は長年空席だった正統派CFの獲得という、待ち望んだ瞬間だった。イサクへの関心は、彼がまだ10代で母国AIKソルナに所属していた頃から続いており、まさに“長い旅路”の果てにたどり着いた形である。
そして、この騒動を最も長く感じていたのはニューカッスルだった。当初クラブは「売却など絶対にあり得ない」という方針だったが、選手自身の移籍志願やプレー拒否といった想定外の事態を経て、デッドラインデーにイングランド史上最高額となる1億2500万ポンドのオファーを、やむなく受け入れることになったのである。5月のオフシーズン開始から市場終了の最後の数時間に至るまで、クラブのほぼすべての動きに“イサク”の存在が絡んでいた。
昨季時点では、イサクが今夏にニューカッスルを去る可能性は低いと見られていた。リバプールやアーセナルが関心を寄せているとの情報は断片的に報じられていたものの、契約は2028年まで残っており、クラブ側に売り急ぐ必要はないと考えられていたのだ。さらに、2025-26シーズンのCL出場権獲得により、「仮にオファーがあっても、受け入れることはないだろう」というニューカッスルサポーターの希望的観測は、次第に“確信”へと変わりつつあった。
しかし、水面下ではすでに駆け引きが始まっていた。シーズン終盤にエディ・ハウ監督が将来について話し合う場を設けると、イサクは退団の意思を明確に示す。一方でクラブ側は残留を求める姿勢を崩さなかった。
この両者の不穏な空気が世間に伝わり始めたのは、7月上旬のセルティックとのプレシーズンマッチでのこと。前季終盤から鼠径部に違和感を抱えていたイサクは練習に復帰していたものの、大事をとって試合を欠場。その理由自体も話題となったが、最も懸念を呼んだのは、彼がグラスゴー遠征に帯同すらしていなかったことだった。ハウは、移籍報道の渦中にある選手をスタンドに座らせると憶測を呼ぶとして自宅待機を命じたと説明したが、かなり苦し紛れの言い訳であった。
その後のアジアツアーもケガを理由に不参加となったが、同期間中にイサクは無断でスペインに飛び、前所属のレアル・ソシエダ施設で自主トレーニングを行っていたことが判明。体調には問題がないことが明らかになったと同時に、ニューカッスルとの関係に亀裂が入っていることも確実となった。
2つの移籍容認条件を満たせず…焦点は「約束」の真偽へ
ニューカッスルの表向きの姿勢は、夏を通じて一貫して「移籍は認めない」というものだった。だが、クラブ内部で移籍を視野に入れた動きがなかったわけではない。
上層部が示した移籍容認の条件は大きく2つ。1つは代役となるストライカーの確保、もう1つは設定した1億5000万ポンドの移籍金を支払えるクラブの出現である。
まず前者については、イサクの去就にかかわらずこの夏の最優先課題の1つだった。6月に契約満了により退団したFWカラム・ウィルソンの後継者を必要としていたためである。したがってイサクの放出を想定するならば、最低でも2人のストライカー獲得が必須となるはずだった。しかし、昨シーズンからスポーツディレクターに就任していたポール・ミッチェルが方針の違いにより6月末で退任。舵取り役不在のまま市場に乗り出した結果、立て続けにライバルとの争奪戦に敗れ、後釜の確保は難航した。
一方、後者については、アーセナルがビクトル・ギェケレシュを獲得したことで、現実的にニューカッスルの条件を満たせるのはリバプールのみとなった。サウジアラビア1部のアル・ヒラルも関心を示したと報じられたが、これはニューカッスルを含む双方の経営権を握るPIFによる駆け引きの色合いが強く、選手本人も中東移籍に関心は示していなかった。
ただし、リバプールが8月上旬に提示した最初のオファーは1億1000万ポンドにとどまり、要求額には届かず。ニューカッスルも依然として「非売品」の姿勢を崩さなかったため、交渉はすぐに停滞した。
移籍市場の閉幕まで残り1週間となった頃、イサクがついに沈黙を破った。自身のInstagramを更新し心境を明かしたのだが、その投稿に綴られていたのは移籍願望というよりも、むしろニューカッスルに対して積もり積もった不満を吐き出すような内容だった。
「約束はすでに交わされており、クラブも私のスタンスをとうの昔から理解していたはずです。にもかかわらず、今になって初めて問題が表面化したかのように振る舞うのは、悪意ある誤魔化しに過ぎません」
「約束が破られ、信頼が揺らいだ時点で、関係を続けることは難しくなりました。これが私の立場から見た現状です。だからこそ、変化は私のためだけではなく、みなにとって最良の選択肢なのです」
突然の投稿はファンや関係者を驚かせたが、クラブの対応もまた素早かった。3時間半後、今度はニューカッスルが公式WEBサイトおよび公式SNSを更新し、イサクの主張に真正面から反論する力強いメッセージを発信したのである。
「我われの立場は明確です。アレックス(イサク)には契約が残っており、クラブ関係者が今夏、彼に退団を約束した事実は一切ありません」
ここで焦点となったのは、イサクが言及した「約束」が一体何を指すのか、という点である。ニューカッスルの声明では「彼に退団を約束した事実は一切ありません」と明言されたが、そもそも選手本人の投稿では具体的な約束の内容には触れられていなかった。
一見すると移籍容認の有無が争点のように映るが、イサクが主張する約束は、別の事柄を意味している可能性もある。
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Profile
Wassy
1994年生まれ、埼玉県出身。ハテム・ベン・アルファのドリブルに衝撃を受けニューカッスルサポーターに。現在はNewcastle United Japanの中の人として、Twitterを中心に情報発信している。YouTubeチャンネル「NUFC JAPAN TV」には深堀り解説動画も投稿中。
