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「J2×主体的なサッカー」ジュビロ磐田の高難度ミッション=ハッチソン監督の新スタイル挑戦記

2025.09.08

J2降格初年度に、横浜F・マリノス時代にアンジェ・ポステコグルーの副官を務めていたジョン・ハッチンソン監督を招聘し、「主体的なサッカー」に舵を切るという難易度の高いミッションに挑んでいるジュビロ磐田。紆余曲折ありながらも、着実にチーム力を積み上げてきたここまでの歩みを、クラブを追い続ける森記者に総括してもらった。

 今季からチームを率いるジョン・ハッチンソン監督の下、ボールを支配する主体的なサッカーに生まれ変わったジュビロ磐田。ここまでは様々な障壁にも阻まれながらも、チームとしてブレずに積み上げを図り、そして地道に一歩ずつ成長の階段を登ってきた。その道のりを振り返りながら、ハッチンソンサッカーの現在地について紐解いていく。

トップ6には5勝2分2敗、しかしボトム6には…

 いよいよラスト10試合に突入した明治安田J2リーグ。磐田はリーグ戦28試合を消化し、13勝6分9敗で7位。自動昇格圏まで勝ち点「6」差と上位勢に何とか食らいついているものの、「J2優勝・J1昇格」を目標に掲げているチームとしては、この結果については決して満足いくものではない。

 ここまではシーズンの中で波があり、安定して勝ち点を積み上げるところにまでは至っていない。その不安定さがこの位置に甘んじている最大の理由だ。

 第28節終了時点で自分たちよりも上位6チーム(水戸、千葉、長崎、徳島、大宮、仙台)に対しては、第3節・長崎戦(●0-1)第21節の仙台戦(●0-1)で2敗を喫したものの、自動昇格圏にいる水戸と千葉にはシーズンダブルを飾った。6ポイントマッチを制するだけの地力があることは、ここまで5勝2分2敗と決して悪い数字ではない上位との対戦成績だけを見ても明らかだ。

 しかし、現時点では昇格圏に食い込めずに苦しんでいる。

 その最大の理由は、とにかく下位相手に勝ち点を取りこぼし続けてきたからだ。第28節時点でボトム6に沈んでいるチームに対しては2勝2分6敗と負け越しており、とにかく苦しめられてきた。特にシーズンダブルを喫した秋田や第22節のアウェイゲームで完敗を喫した熊本など、独自のスタイルを持つチームには、自分たちのサッカーを表現できず、ゲーム内容としても課題が残る試合も多かった。

 自分たちのスタイルがあり、真っ向勝負を挑んでくる上位相手には力と力の勝負の中で上回れるだけの地力は確かにある。だが、そのように素直に立ち向かってくる相手ばかりではない。明確なスタイルのある磐田をリスペクトし、“磐田を止めよう”というマインドで最大限警戒して試合に臨んでくる相手も当然いる。その傾向が強かったのが下位にいるチームで、自分たちのスタイルでどんな相手にも勝ち切っていくだけのところにまでは至っていない。そしてラスト10試合で、この課題を克服できるかが「J2優勝・J1昇格」という目標に向かう上での最大のハードルとなっている。

最大の破壊力を持つ両翼、クルークスと倍井をめぐる攻防

 新たなスタイルの構築と昇格という二兎を追う難易度の高いチャレンジをしている今季、これまで様々な障壁に阻まれながらも、新たなスタイルを地道に続けて、経験値を積み上げてきた。その経験が何よりもチームとしての力となり始めている。

 シーズン開幕当初は順調なスタートが切れた。

 15年以来、10シーズンぶりの開幕連勝スタートし、その後に長崎、富山に連敗を喫して躓いたが、第7節では開幕6連勝と破竹の勢いがあった千葉をホームで撃破して3連勝を飾り、このフットボールへの手応えを掴めていた。

 「チームとしてやれることが増えてきたという実感はあります。特にビルドアップのところはよりスムーズになってきたというのを感じていて、最初の頃はサイド一辺倒だったところから今は中央を使えることが増えてきましたし、そこからサイドへ展開するという流れも良くなってきたと感じています。そこはお互いの動きを見ながらやれていることがビルドアップを改善できた大きなポイントだと思っています」(倍井謙)

 このスタイルにおけるチームの強みは明確だ。リーグ屈指のクオリティがあり、個人で優位性を取れる右のジョルディ・クルークスと左の倍井謙という両翼の破壊力をいかに活かせるか――である。

 特にシーズン序盤戦は、彼らがチームを引っ張ってきたといっても過言ではない。左の倍井は開幕から2試合連続弾でチームを勝利に導く活躍を見せれば、クルークスは第7節までに決めた全11得点のうち、1ゴール4アシストと約半分の得点に関与。頼もしいウインガーがチームにおける絶対的な武器であることを証明してきた。

倍井とクルークス

 一方で、ドリブル数のスタッツでリーグトップ1、2の強烈なウイングをいかに抑えるかが磐田と対戦する上での大きなミッションなっていったことも間違いない。彼らへの対策は、試合ごとに厳しくなっていった。

……

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Profile

森 亮太

1990年生まれ、静岡県出身。主に静岡県で活動するフリーライター。18年からジュビロ磐田とアスルクラロ沼津の番記者としてサッカー専門新聞”エルゴラッソ”やサッカーダイジェストなど、各媒体へ記事を寄稿している。

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