ピッチの戦力を「11.5人分」にする潤滑油。みんなの笑顔が見たいから、ベガルタ仙台・荒木駿太は戦国J2を走り抜く
ベガルタ・ピッチサイドリポート第29回
ベガルタ仙台の中でも、いや、J2全体を見ても、屈指のハードワーカーだと言っていいだろう。とにかく走り続ける荒木駿太がチームにもたらすパワーやエネルギーの価値は、同じピッチに立っている選手たちが誰よりもよく知っているに違いない。決して雄弁なタイプではなく、背中で見せる武骨なスタイルも頼もしいJ1昇格のキーマンを、おなじみの村林いづみが直撃する。
特筆すべき荒木のスタミナ。打ち続けたジャブは対戦相手の体力を奪う
荒木駿太は働き者だ。ピッチ上でよく動き、味方にとっては“いて欲しいところ”に、相手にとっては“嫌なところ”に駆け付ける。豊富な運動量とスピードを誇り、試合時の走行距離は常にチームトップクラスだ。体力的にも最もきつい試合の最終盤でも、猛然とスプリントをかけたりもする。一見細身の体だが体幹は強く、無尽蔵の体力を秘めているのだ。
村岡誠フィジカルコーチがこんなことを教えてくれた。
「駿太は一人だけスタミナがすごいです。この暑い時期にもよく走ってくれる。まさに“チームの潤滑油”というか、彼が動くことによって他の選手にも動きが出るし、チームとしてはすごく助かっているんじゃないかなと思っています。選手たちはそれぞれが高い水準にありますが、更に特別なスタミナを持っているというのは彼のタレント。身体能力は鍛えることで上がりますが、その中でもスタミナの部分が彼は特化してすごい。そういう能力は、彼が元々持っているものではあると思いますが、トレーニングで更に開花しているんじゃないかな」

「チームとしては、勝敗に関して、ゴールを決めた、決められなかったとかいろいろあるんですけど、彼が走ることで相手にジャブを打ち続けているんです。彼が動いているということは、相手にとってもきついと思います。そういう彼の動きが効いていると思うんですね。重要な役割を、見えないところでも果たしているんじゃないかと思っています。去年もみんながんばっていましたけど、駿太ほど走れる選手はいなかったです」
森山佳郎監督も逆らえない、チームのコンディションを管理する“笑顔の鬼軍曹”の言葉からも、今年のベガルタ仙台における荒木駿太の存在の大きさを感じる。久しぶりにゴールを決めた第26節・レノファ山口FC戦から、いよいよ佳境に向かっていくこの先の戦い、そして最近の思いについて荒木選手本人に聞いてみた。

考えながら走り、人と同じことはしない。日本トップクラスの「走行距離14km」を目指して
――レノファ山口戦では久々のゴールが決まりましたね。
「嬉しかったです。ゲームの入りは良くなかったですが、自分のゴールで取り返そうと思っていました。そこから仙台ペースになったので僕自身の2点目が決められれば良かった。最終的には追いつかれてしまって2-2。決める時に決められないと、ああいう試合になるのかなと感じました」
――記録的な猛暑の中でも、荒木選手は本当によく走っています。今季の目標の一つに「走行距離14km」を掲げていますが、近づいているのでは?どうしてそんなに走れているのでしょうか。
「いや、13km近くは1回行きました。目標の14kmにはまだまだ届かないですね。ただ走るだけじゃダメだなと思っています。上手く味方を見ながら走るというところは、僕のストロングポイントなのでそこは出していきたいです。仙台に来る前、町田の時も、鳥栖の時もそうですけど、プロに入ってから、考えながら走るということにはチャレンジしています。それはだいぶできるようになってきているのかなとは思います」
――具体的に、どんなことを考えながら走っているのですか?
「味方と同じような動きはあまりしないようにしています。山口戦の場合は、初めて右サイドハーフのような位置だったので、近くにいるのは(小林)心だったり、(髙田)椋汰でした。どちらもスピードがあるし、心は裏に抜けてくれるので、そこの間のスペースが自分に入ったりしました。椋汰は推進力あって前に来たので、自分が中に入って椋汰を上げさせるということをイメージしながら走っていました」

――周りを見ながら必要なところへ入る。本当にいてほしいところにいてくれる。それを、今シーズン開幕からずっと続けていますよね。
「どうなんですかね。自分的にはまだ3点しか決めていないので。他の人からも、そう言ってもらうことが多いので嬉しいですが、実際にやれているかは不安です」
――人と同じことをしないようにということは、元々の性格からですか?それとも特別な考えがあってのことなのでしょうか?
「うーん、まあ。性格もそうだと思いますし、一緒にプレーする人の特長をつかんで、それを最大限に生かしてあげたいということは、サッカーをしながらずっと考えていることです。もちろん自分を出すということはすごく大事だと思いますし、そうしないとプロとしての自分の価値は上がっていかないと思います。でもサッカーはチーム競技なので、近くにいる人の特長を練習中からよく見て、その人の最大限のプレーを出してあげるということは意識してやっています」
――いつからそういう考えを持ったのでしょう?
「以前は違いましたけどね。高校の時はドリブルばかりだったので、常に『自分!自分!』でしたけど(笑)、変わったのは(駒澤)大学ぐらいからです。監督がチームのために走ること、仲間のためにプレーするということの大切さを教えてくれたので、それがきっかけだと思います」
――宮崎鴻選手からは「3トップの3人で40点ぐらい取った」と聞きましたよ。
「そうです。鴻と金沢の土信田悠生と僕で37点くらいですね。本当に良く取りましたね。楽しかったです」
花束贈呈と母の涙。誰よりも自分のプレーをわかってくれる家族へ恩返しを
――第25節の徳島戦では、試合前にJリーグ通算100試合出場の表彰を受けました。あの時はご両親が駆け付けてくれましたね。どんな声をかけてもらいましたか?
「おめでとうって言われました。スタジアムで母は『泣くのを我慢していた』って言ってたんですけど、泣いているのが分かりました。だからその試合でゴールを決めたかった。せっかく遠くから来てくれましたし、ありがとうっていう気持ちをゴールで示したかったんですけど……。その試合には出られなかったですね」
――花束贈呈で涙するとは、お母様も嬉しくて誇らしかったと思いますよ。
「泣き虫なんですよ。でも『DAZNデビューできた』って両親で喜んでいました(笑)」
――次の試合は決めなければとより強い決意で向かった山口戦でしたね。
……
Profile
村林 いづみ
フリーアナウンサー、ライター。2007年よりスカパー!やDAZNでベガルタ仙台を中心に試合中継のピッチリポーターを務める。ベガルタ仙台の節目にはだいたいピッチサイドで涙ぐみ、祝杯と勝利のヒーローインタビューを何よりも楽しみに生きる。かつてスカパー!で好評を博した「ベガッ太さんとの夫婦漫才」をどこかで復活させたいと画策している。
