なぜマルチロール路線からスペシャリスト路線へ?25-26アーセナルを左右するギェケレシュへの期待と不安
せこの「アーセナル・レビュー」第17回
ミケル・アルテタ監督の下で一歩ずつ着実に再建を進めているアーセナル。その復活の軌跡をいち“グーナー”(アーセナルサポーターの愛称)でありながら、様々な試合を鋭い視点でわかりやすく振り返っているマッチレビュアーのせこ氏がたどる。第17回では、今夏の補強からアーセナルの編成方針を占うとともに、2025-26シーズンを左右するギェケレシュへの期待と不安を綴る。
まだ終わっていない段階ではあるが、今夏の移籍市場におけるアーセナルの動きを一言で表すのであれば「かつてないほど意欲的」となるだろう。特に直近数週間の振る舞いの影響が大きい。補強が落ち着いたと思われた状態からさらに噂が出ているというのは、同じロンドンでも例年ならばチェルシーの専売特許。寝て起きたらエベレチ・エゼの獲得が確実になっているというスピード感は、これまでのアーセナルにはなかったものだ。そして、今この記事を書いている間にもピエロ・インカピエの加入を匂わせる報道が熱を帯びている。掲載される頃には答えが出ている可能性もあるだろう。
そんな2024-25シーズンにおけるアーセナルのスカッド編成には、個人的にはここ数年とまったく異なる印象を受ける。具体的には、近年を語るにおいて避けては通れなかったマルチロールの重要性が下がっているという見方だ。
マルチロール路線からスペシャリスト路線へ
振り返ってみると、まず思い浮かぶのはプレミアリーグ開幕3連敗で最下位と絶望感に沈んでいたチームを救うべく、2021年8月に加入して最終ラインのどんなポジションもこなしていた冨安健洋。1年半後には、「前線の冨安」と呼んでもいいくらいに左右中央問わず起用に応えるレアンドロ・トロサールも顔を並べていた。
その半年後に入団したカイ・ハベルツも2023-24シーズンの後半戦から長年の課題になっていた9番に指名され、インサイドハーフとの併用であらゆる組み合わせをテストされている。そして、昨季にその不在を補ったのは同夏加入のミケル・メリーノ。どちらかといえば本来はスペシャリスト寄りではあるが、中盤から最前線への電撃的なコンバートで後半戦のアーセナルの苦しい台所事情を支え続けていた。
このように近年のアーセナルを助けてきたのはMFやFWなどを股にかけて2つのポジションができる万能型や、DFやFWとして3つ以上のポジションをこなすことができるマルチロールたちである。しかしながら、今夏はどちらかというとキャラクターがはっきりしている新戦力が多い。中盤の底を務めるマルティン・スビメンディを筆頭に、適正ポジションが限られているスペシャリストがほとんどである。
アーセナルがマルチロール路線からスペシャリスト路線に舵を切っている理由の1つは、選手層の拡充だろう。これまでの欧州サッカーはフィールドプレーヤーとして15人程度のコアメンバーに、5人程度のロールプレーヤーがいれば十分だった。
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Profile
せこ
野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。
