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アヤックスとの提携1年半の収穫、名和田我空らの練習参加で得られた知見、欧州のデータ活用の真価と危機感。G大阪・松田浩フットボール本部本部長インタビュー(前編)

2025.09.16

【特集】Jクラブの新たなる海外戦略#4

J1の主力はもちろん、J2から即海外というルートも目立つようになった昨今の移籍市場。環境の変化に適応するように、Jクラブの海外戦略にも新しい動きが出てきている。激変の時代に求められるのは、明確なビジョンと実行力。その成否はこれからかもしれないが、各クラブの興味深いチャレンジを掘り下げてみたい。

第4回は、ガンバ大阪の海外戦略について松田浩フットボール本部本部長にインタビューを敢行。前編では、アヤックスと提携して1年半が経過し、得られた収穫や今後の展望について話を聞いた。

招待されたU-17大会でも日本人の強みは顕著

――ガンバ大阪がアヤックスと提携して1年半ほどが経過しました。この間には名和田我空選手と荒木琉偉選手がトップチームに練習参加する機会もありましたが、どんな進捗や発展があったのか、というのが今日のインタビューのテーマになります。

松田「まずは昨年7月、坂本一彩と中野伸哉が練習に参加しているのですが、当時はアヤックスのU-23チームに当たるヤングアヤックスへの参加に留まっていました。それが先日、名和田と荒木はトップチームに合流したことを踏まえると、より良い環境で若い選手を育てようとする意志とも言えます。それは提携の狙いであって、当然ガンバとして行使する権利でもありますが、アヤックス側も名和田と荒木のタレント性に興味を持っており、先方が主導で実現した練習参加でした」

――そうなんですね。

松田「それから昨年10月にはアヤックスの教育担当の責任者がガンバを訪問して、アヤックスのアカデミーのフィロソフィーなどを紹介してもらい、我々もガンバのフィロソフィーやアカデミーについて情報交換する機会がありました。もちろん、この両クラブの提携はガンバがアヤックスになることや真似することが本筋ではありませんので、参考にしながら自分たちをブラッシュアップすることに重きを置いています。アヤックスといえばヨハン・クライフの哲学が根源にあるわけですが、ガンバとしても伝統的に良いアカデミーがあることを再認識し、それらをベースに明確なプレーモデルを作り直したのですが、他クラブにはない独自のモデルが構築できた自負はあります。

 昨年10月にアヤックスの関係者が来日されたときはスカウト部長、この方はトップチームのスカウトも担当する方ですが、彼とは日本のユースやジュニアユースの公式戦を一緒に見てもらい、『いいレベルにある』と評価してもらっています。昨年12月には社長の水谷(尚人)が現職に就任するタイミングでアヤックスを表敬訪問しました。そして今年1月にはガンバのアカデミーのコーチ陣が現地を訪問し、10日間ほどどっぷりと視察をさせてもらっています。このときはアヤックス側もしっかり受け入れてくれ、各年代の責任者たちからフィロソフィーや身体作りなどの細部までレクチャーを受けています。それから今年4月にはアヤックスが主催するU-17のフューチャーカップ大会に招待を受けました。バイエルン・ミュンヘン、パリ・サンジェルマン、アスレティック・クラブ、アンデルレヒトといった欧州トップレベルにあるU-17チームとトーナメントを戦えました。非常にありがたい機会を得られたと思っています」

――17歳以下の国際大会にガンバ大阪U-17の選手たちが参加したわけですね。

松田「パワー面は劣るところがあるし、体つきだけでいえば大人と子どもほどの差があったようです。一方、テクニックを活かして果敢に戦え、凌駕できる部分もありました。メンタリティ的にやや気遅れするのは日本人らしいというか、それらが初戦こそ見えましたが、試合を重ねるごとに慣れていく順応性も日本人にはあるなと改めて思いましたね。瞬間的なスピードや小回りが効くという日本人の強みはしっかりデータにも出ていたと思います。

 そのフューチャーカップが開催されたあと、今年7月に名和田と荒木がトップチームのトレーニングに参加することになりますが、この時期にアヤックスのクラブネットワークサミットの第2回が開催されました」

――メキシコのパチューカなど世界的な名門クラブが参加するアヤックス独自のネットワークですね。

松田「そのうちの一つ、イタリアのコモを舞台に一堂に会したのですが、お金を介さずに知恵を集結しようとする趣旨のネットワークなので、ガンバとしてもフランクに距離を近づけられるいい機会だと捉えています」

アヤックスは若い集団がJ1レベルを表現できる

――この1年半のアヤックスとの関わりのなかで、これは成果だといえるものは何でしょうか?

……

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Profile

鈴木 康浩

1978年、栃木県生まれ。ライター・編集者。サッカー書籍の構成・編集は30作以上。松田浩氏との共著に『サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論』がある。普段は『EL GOLAZO』やWEBマガジン『栃木フットボールマガジン』で栃木SCの日々の記録に明け暮れる。YouTubeのJ論ライブ『J2バスターズ』にも出演中。

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