気候の恩恵とインザーギ戦術。アル・ヒラルの低強度サッカーがクラブW杯で輝いた必然
新・戦術リストランテ VOL.74
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第74回は、クラブW杯でアジア勢唯一のベスト8入りを果たしたアル・ヒラルについて。ACLではJリーグ勢のライバルになるサウジ勢の強さと、その対抗策について考えてみたい。
シティに勝つならこれしかない、という試合
クラブW杯2025で欧州、南米以外から唯一ベスト8に進出したアル・ヒラル。ラウンド16でマンチェスター・シティを延長の末、4-3で勝利したゲームは見事でした。
準々決勝ではフルミネンセに敗れましたが、欧州勢が圧倒するのではと予想された今大会でアジアからベスト8という意味は大きいですね。シティに勝ったということでインパクトもあった。仮にベスト8が全部欧州勢だったりしたら、大会の意義自体に疑問符がつくところなのでFIFAとしてもほっとしているのではないでしょうか。
アル・ヒラルは首都リヤドを本拠とするサウジアラビアの名門クラブです。国内リーグ優勝19回は最多。リヤドのみならず全国的に人気のあるチームみたいですね。特筆すべきは国際大会での実績、ACL4回優勝は最多です。2022年開催のクラブW杯ではファイナルでレアル・マドリーに敗れましたが準優勝。そして今回はシティ撃破のベスト8。
補強も実質的と言いますか、欧州から獲得したクリバリ、ミトロビッチ、ミリンコビッチ・サビッチ、カンセロ、ルベン・ネベスはロナウドみたいなビッグネームではありませんが実力は十分。GKブヌは今大会大活躍でした。
シティ戦ではGKブヌがスーパーセーブを連発、クリバリの守備力、ミリンコビッチ・サビッチの技術とフィジカルの強さ、そしてマウコム、レオナルドのブラジル人FWの突破力と得点力が冴えわたっています。
戦い方は典型的な堅守速攻ですね。シティは保持率63%、32本のシュートを放っていて、圧倒的攻勢と言っていいでしょう。シティは彼らのゲームをやっていました。対するアル・ヒラルはローブロックで耐えながらも効果的なカウンターを繰り出しています。枠内シュート6本で4ゴールという効率の良さが光りますね。
シティに勝つならこれしかない、という試合をアル・ヒラルはしていたと思います。グループステージでもレアル・マドリーに1-1、ザルツブルクに0-0と、アル・ヒラルは欧州勢に負けていません。
なぜ、アル・ヒラルはベスト8に進出できたのか。
こう言うと何ですが、なぜ浦和にはできなかったのか。これはJリーグの未来のために検証が必要だと思います。クラブW杯はJリーグの成長戦略の柱と言っていいと思いますが、そのためにはACLEで優勝しなければならず、それには当面サウジアラビア勢に勝たなくてはいけないからです。
クロップではダメ!サウジ勢に合う監督とは?
アル・ヒラルと浦和の差は、ミもフタもなく言ってしまえば資金力の差です。前記したようにアル・ヒラルには欧州リーグでもトップクラスの人材を複数獲得できる資金力がある。この差は大きいです。
ただ、現状でサウジアラビア勢には戦術的な弱点が明確にあります。
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。
