SPECIAL

「偽9番」と「得点量産インナー」の組み合わせ。ストライカーの歴史的解釈

2020.09.17

「ポジション」史#3 ストライカー編

ストライカーには2つの系譜がある。“ブンダーチーム”と言われたオーストリア代表のエースだったシンデラーに始まり、“マジック・マジャール”のCFヒデクチ、トータルフットボールのクライフ、そしてメッシへと連なる「偽9番」の系譜。もう1つが“ディキシー”・ディーンに代表される長身頑健な重戦車の系譜。ゲルト・ミュラー、ロマーリオ、ファン・バステンといったエリア内の異能者たちだ。この2つの流れが組み合わさり、時代に合わせてそれぞれ形を変えながら継承されてきた、というのが西部氏の解釈だ。

 アーサー・フィッツジェラルド・キンナード卿――フットボール黎明期のスーパースターである。「スター」という表現はふさわしくないかもしれない。なにせ「卿」なのだ。

 スコットランド貴族でイートン校の出身、ケンブリッジ大学卒。上院議員、1890年からはFA会長もやっていた。

 「すべての心正しき人は、この大衆的な国技の発展について、神に感謝を捧げる十分な理由を持っている」

 フットボール万歳、と言っているわけだ。ある日、チームメイトがキンナード卿の邸宅を訪れた時、夫人が「夫が骨折するのではないか」と心配していた。訪問客はこう答えたという。……

残り:4,898文字/全文:5,418文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

TAG

ストライカー

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

RANKING