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白黒縦縞の廃止は伝統との決別? CI戦略で見るユーベのユニ変更

2019.12.25

ユベントスの今季ファーストユニフォームから伝統である白黒の縦縞が消えた。2年前にはクラブを象徴するエンブレムを変更するなど、大胆な視覚的な変化が続いている。急激な変化ゆえに外見の評価に目が行きがちだが、その裏にある戦略からユベントスの狙いを考えてみたい。

 少し前「Jeep」とのスポンサー料増額と契約延長交渉の開始が発表されたユベントス。ユニフォームのスポンサード金額だけでなく、特にアジアのスポンサーを増やしており、クラブのマーチャンダイジング収入は増加傾向にある。

 サッカークラブの収入は「TV放映権料」、「チケット収入」、スポンサー料やグッズ売上による「マーチャンダイジング」の3つに大別できるが、前者2つが頭打ちの状況で、欧州のメガクラブは「マーチャンダイジング」の収入増を求めてグローバル市場への進出を狙っている。そのため世界規模でのイメージ戦略が繰り広げられており、その中でユベントスが特に力を入れているのがアジアだ。今夏にはアジアツアーでシンガポール、中国、韓国を訪れ、リーグ戦のキックオフ時刻を早めることでアジアでの視聴数を増やそうともしている。8月にはアジアの拠点として香港オフィスを開設した。

今夏南京で開催されたICCのユベントス対インテルに駆けつけたサッカーファンたち

 近年のユベントスのユニフォームやエンブレムに代表されるクールなビジュアルイメージは、言語に依存しないコミュニケーション手段として有効で、グローバル進出と密接に結びついている。ただしユニフォームだけならともかく、クラブの象徴であるエンブレムの変更までもマーケティングの文脈のみで説明するのはやや強引かもしれない。その背景にはユベントスという企業全体の戦略に基づいた判断がある。

CI戦略=企業理念を起点とした改革

 ユベントスの真の狙いを知るヒントになるのが、日本企業がかつて採用していたCI(コーポレート・アイデンティティ)戦略だ。最近ではほとんど見ないが、「企業固有の価値と個性」を意味するCIが1970年代に登場した背景には高度経済成長があった。当時の日本は高度経済成長を経て商品が余る時代を迎えていたため、企業は他社製品との違いを消費者に訴求する必要があった。機能で明確に違いを打ち出せれば良いが、そうでない場合は商品デザインで差別化せざるを得ない。こうして企業の個性が目に見える形で現れ始めた。

 商品レベルでは足りず徐々に企業レベルでの差別化が求められ、各企業がCIの開発、つまり個性の明確化に取り組み始めた。そしてCIをビジュアルイメージに落とし込んでいった結果、イメージと実体とのギャップに直面せざるを得なくなった。打ち出すイメージが虚像にならないよう企業はギャップを埋めるように努め、自社改革に着手し始める。こうして商品デザインによる差別化プロモーションから始まったCI戦略は、企業文化見直しなどの企業内部の改革をも含んだ企業戦略へと発展していった。

 当時CI戦略の第一人者だったPAOSの中西元男は「松屋銀座店をともかく救ってほしい」との依頼に対して、企業理念の策定と経営体質の改善を提案。そしてロゴのデザインだけでなく、広告から売り場、包装紙までのデザインを統一することで企業イメージを徹底した。このようにCI戦略は対外的には統一された自社イメージを打ち出して他社との差別化を、社内的には企業文化の見直しなどの企業改革を、CIを軸に一貫して行う戦略であった。

 このCI戦略を踏まえてユベントスが歩んでいる道を見ていく。2017年にユベントスは3つの要素(「盾」、「白黒の縦縞」、「クラブの頭文字J」)を持つ新しいエンブレムを発表した。ただこれは「ブランド拡張プログラム」の中で視覚的に表れる部分でしかない。

ユベントスの本拠地アリアンツ・スタジアムに掲げられている新エンブレム

 このプログラムを担当したインターブランドのマンフレディ・リッカいわく「ユベントスの哲学である “妥協なき卓越性の追求” を実現するために策定された」という。あくまでもこの哲学を実現するために、ユベントスはエンブレムのデザインを変更したのだ。つまり哲学や理念が先にあり、実際との乖離を埋めるというアプローチだ。この点ではCI戦略に重なって見える。

 またユベントスが多角化戦略を見据えていることもCI戦略と近い。ユベントスはファッションアイテムやホテル運営に事業を広げているが、その際に新たなエンブレムを用いることで複数の事業を企業レベルのイメージで統一しようとしている。これは1980年代にキリンが多角化戦略を取った時に「KIRIN」と麒麟のマークで複数事業のイメージを統一したのと似ている。

 CI戦略の視点からも、ユベントスは彼らのアイデンティティを軸に企業戦略を進めているように見える。マーケティングから事業ポートフォリオ、組織改革までの幅広い活動を包括するのが彼らの哲学であり、それを表現しているのが、あの新エンブレムである。

なぜ、白黒の縦縞が消えたのか?

 こうした戦略の下で統一したイメージを拡散しようとしているユベントスだが、ユニフォームに関してはある困難を抱えているように見える。ユニフォームは最も視覚的に他クラブと差異化できるポイントである。一方でマーチャンダイジング収入を増やすには毎年ユニフォームを売らなければならず、そのため多少なりともこれまでと違うデザインを施す必要がある。しかしそのユニフォームがファンに与えるイメージは統一しなければならない。

19-20シーズンのファーストユニフォームを身に纏うファンたち

 すなわちユニフォームのデザインにおいては、他社との差異だけでなく過去の自分たちとの差異を生み出さなければならず、かつ自分たちの哲学を一貫して表現していなければならない。「イメージを統一しなければならないが、売るために変えなければならない」ことが、サッカークラブのユニフォームデザインが直面する困難の本質だ。この点は過去のCI戦略と異なるポイントと言える。

 それゆえクラブがイメージを統一しながらユニフォームを売るためには、ある程度のデザインの揺らぎは仕方がないと考えるべきだろう。哲学との一貫性を保ったデザインであれば、その表現は複数あり得るからだ。

 さてこれらの前提条件を踏まえた上で、伝統の縦縞について考えてみよう。エンブレムには白黒の縦縞の要素が入っており、すなわちユベントスの哲学から消えたわけではない。事実、エンブレム変更後2年間のユニフォームは白黒の縦縞だった。

左のファンはエンブレム変更後の18-19シーズン、右のファンはエンブレム変更前の16-17シーズンのファーストユニフォームを着用している

 であるならば今回のユニフォームにおいても白黒の縦縞は廃止されたわけではなく、その表現を変えたと捉える方が適切であろう。実際、サプライヤーであるアディダスのデザインディレクター、イニゴ・ターナーは伝統との決別ではないと否定している。となると考えるべきは、ユニフォームのデザイン表現が哲学からブレていないか。ユベントスは今年“LIVE AHEAD(時代の先)”をイメージ統一の新たなコンセプトに打ち出している。クラブ自身も強調しているように、これは2年前のエンブレム変更の流れを汲んだものだ。妥協なき卓越性の追求を目指すクラブは常に革新的でなければならない、そんなメッセージが新ユニフォームには込められている。

 さらに今年のユニフォームに込められたスローガンは”Be the stripes”で、PVではユニフォームを着たサポーターが集まることで白黒の縦縞が現れている。1人のユニフォーム単体ではなく、集団になって初めて白黒の縦縞が現れるという仕掛けだ。これは「ブランド拡張プログラム」の根幹にあった“Don’t own an identity, be an identity”の思想を別な形で表現したものと考えられる。

ユベントスが19-20シーズンのホームユニフォームを発表した動画

 もちろんこうした表現に納得しないサポーターもいるだろう。しかし「イメージを統一しなければならないが、売りために変えなければならない」サッカークラブの困難を考えると、このユニフォームのデザインは1つの解決策として評価できるのではないだろうか。

「時代の先」に何があるのか?

 最後に、ユベントスはストリートファッションブランドのPALACE SKATEBOADERSとadidasによるトリプルコラボレーションを先日発表した。気になったのはユニフォームに白黒の縦縞が復活していることだ。“LIVE AHEAD”を掲げてサッカーの見た目を前進させると意気込み、大胆な変化に踏み切ったにもかかわらず、このコラボレーションで白黒縦縞を復活させたことは現在の文脈と矛盾して見える。

セリエA第10節ジェノア戦でお披露目となったコラボレーションユニフォーム

 ここにコラボレーションの難しさがある。長期的なイメージ戦略においては一貫性が重要であるが、複数社の協業でかつ途中からの参画となると理念を共有しきれず、戦略の一貫性を維持するのが難しい。

 もちろん意図的に縦縞を復活させた可能性もある。ターナーいわく、すでに来季のユニフォーム構想は始まっているそうだが、もしかすると次のファーストユニフォームは白黒の縦縞に戻るのかもしれない。それが「時代の先」であるならばだが。


Photos: Getty Images

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文系大学院で「浮世から離れて文化とは何かを考える日々、に戻りたいと思う毎日。川崎フロンターレのマッチレビューと書評を書きながら、サッカー文化を手探っている。最近はツイキャスもやってるとのこと。ユベントスの記事は「文化とは組織による運動である」の持論に基づいて執筆。