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ハーフDFでも偽SBでもない。「補助CB」がサッカーを変える?

2019.11.15

TACTICAL FRONTIER

サッカー戦術の最前線は近年急激なスピードで進化している。インターネットの発達で国境を越えた情報にアクセスできるようになり、指導者のキャリア形成や目指すサッカースタイルに明らかな変化が生まれた。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つのは、どんな未来なのか? すでに世界各国で起こり始めている“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代サッカーの新しい楽しみ方を提案したい。

「ハーフディフェンダー」とは異なる

 ドイツでもレネ・マリッチを輩出した戦術ブログ『Spielverlagerung.de(シュピールフェアラーゲルング)』が発端となって広がった「Halbverteidiger」(ハーフディフェンダー)という名称が存在するが、この「補助CB」とは若干意図が異なる。直訳すると「中間に位置するディフェンダー」となるハーフディフェンダーは主に「3バックの両サイドに位置するCB」を意味しており、彼らがボールを持ち上がる動きでハーフスペースの入り口を攻略する役割が着目された。元インテルのウーゴ・カンパニャーロやユベントスのジョルジュ・キエッリーニが例示されるように、このポジションに置かれるのは「ボールを持ち運ぶ能力に優れるCB」であることが多い。彼らは3 バックの一角として守備組織を形成しながら、状況に合わせてゲームの構築に参加する。

 一方で「補助CB」は、もともとサッカーの統計データを扱うサイト『StatsBomb』が「2019のSBとは?」という記事内で使用した単語だ。端的に言えば、「補助CB」は本職がSBの選手なのだ。

 それでは「補助CB」とはどのようなプレースタイルのSBを指し示すのだろうか。このタイプの選手はいわゆる「偽SB」のように中盤へと移動してセントラルMF的にプレーするのではなく、最終ラインに残りながら3バックの一角となる。このタイプの選手として、1つの理想形となっているのがマンチェスター・シティのカイル・ウォーカーだ。ペップ・グアルディオラの指導でプレーの幅を飛躍的に広げた右SBは流動するチームで柔軟に組み立てに参加することで、変幻自在の崩しを支えている。イングランド代表でもCBとして起用されたのは、彼の成長を示唆している。

 マンチェスター・ユナイテッドルーク・ショーも、機動力を武器に同様の役割に対応。チェルシーセサル・アスピリクエタは若干彼らと比べると守備に重きを置いたプレーヤーだが、同じタイプの選手として捉えるべきだろう。バイエルンヨシュア・キミッヒは典型的な「ハーフディフェンダー」でもあり、「補助CB」としてもプレー可能な万能型だ。

左右非対称が生み出す「読みづらさ」

 もともとの3バックとは異なり、一方のSBが上がり4バックがスライドするタイプのビルドアップは「左右非対称」な状況を作りやすい。これは一見アンバランスではあるが、近年多くのチームが「守備の狙いを外す」意図で採用している。片側の「補助CB」が中央に絞れば、逆サイドのSBは高い位置までオーバーラップ。そうなれば、まず上がったSBが明確な起点になる。

 CLでリバプールを破ったナポリが好例で、彼らの場合は左SBのマリオ・ルイが攻撃を主導した。一方、逆サイドは「補助CB」が動いたスペースが空く。このスペースにどの選手が入ってくるかによって、いろいろなパターンが使えるのがポイントだ。マンチェスター・シティではウォーカーが動くことで生まれる右サイドのスペースにイルカイ・ギュンドアンやケビン・デ・ブルイネが入ってくることが多いが、ウイングが引いて来ることもある。

 人がいなくなったように見えるスペースに他の選手が流れ、奇襲するアタックは成立しやすい。特にSBが高い位置を取るサイドは警戒されやすく、守備側も密集を保とうとする。だからこそ逆サイドへの展開は奇襲に繋がりやすく、そのスペースは手薄になりやすい。ナポリでは2トップの一角としてプレーしたドリース・メルテンが相手のSB裏を意識させることで左SBのアンドリュー・ロバートソンを足止めし、ホセ・カジェホンが下がりながらボールを受ける。この連動によって、右サイドのカジェホンはフリーマンとなることに成功した。どうしても前線の選手はスペースよりも目の前にいる選手を追う意識が強くなってしまうので、背後のスペースには気を配りにくい。そこに状況に応じて流れるような動きは、予想外の好機に繋がりやすいのだ。

 上図は一例だが、赤色のチームの左SBは水色のチームの右ウイングに足止めされている。左のウイングは右の「補助CB」に釣り出されており、自分の背後の状況が見えていない。当然、彼は中盤へのパスを切ることを目的に内側から寄せていく。水色のチームはセントラルMFを右サイドに走らせるが、赤色のチームは中央が手薄になることを避けたい。3センターの一角がサイドの高い位置まで追いかけることは、彼らとしては好まない局面だ。

 このように「補助CB」は理想として縦並びの2枚でサイドを守りたいチームにとって、悩ましい質問を投げかける。サイドにもう1枚を費やすべきなのか、中央を固めるべきなのか。迷わせることができれば、攻撃側としては儲けものだ。

グアルディオラの実験

 マンチェスター・シティでは、グアルディオラが壮大な実験に挑んでいる。左SBのオレクサンドル・ジンチェンコが「偽SB」となることから、「偽SB」と「補助CB」の併用という複雑なシステムとなっており、両SBが中央に入ってくることも少なくない。両サイドの幅はウイングが担当し、ジンチェンコが「偽SB」となることで「セントラルMF」を前に押し上げる攻撃的な陣形を作り出す。

 中央に過剰に寄ってしまうことで、バランスが崩れやすく思えるシティの布陣だが、サイドにフリーマンを作る手段が緻密に計算されている。鍵となっているのは、左右で異なる選手が「SBのピン止め」を担当していることだろう。右サイドはウイングが高い位置で相手SBを足止めすることが多いが、ジンチェンコが内側に移動する左サイドでは、セントラルMFを押し上げることが多い。基本的には右はウイングがスペースを使い、左はセントラルMFがスペースを使う。右サイドからデ・ブルイネがセンタリングを狙うことが多いのも、このようなメカニズムと関係している。

 状況に応じて、左SBのジンチェンコが本来のポジションに戻ることで外のパスコースを確保する方法や、デ・ブルイネがフリーランで相手SBのピン止めを担当し、マレズが連動して下がってくる方法も備えているので、相手の出方に合わせて調整することが可能となっている。連動のスイッチとして機能し、相手の動きに合わせて役割を切り替える「補助CB」には、ビルドアップ時の正確な判断力が求められる。SBのプレーとCBのプレーを常に使い分けながら、判断の基準を調整する能力が不可欠だ。カウンターを浴びる際はCBとして最終ラインに加わることから、対人の強さも欠かせない。守備時に穴になってしまう選手には、この役割は難しい。

ジンチェンコ(左)が「偽SB」として輝けるのも「補助的CB」ウォーカーのおかげだ

 さらにウォーカーはビルドアップに関与しながら、圧倒的なスピードで一気にオーバーラップすることも少なくない。最終ラインから長い距離を走ってくる選手を捕まえることは守備側としても簡単ではなく、数的優位を創出することに繋がる。CBとSBの両方に適応する能力が求められることから、「補助CB」としてプレー可能な選手は多くない。彼らのようなプレーヤーが増えてくれば、指揮官は戦術的な幅を広げることが可能になる。急速に発展するフットボールの世界において、数年後には「補助CB」が珍しくない役割になっているかもしれない。


Photos: Getty Images

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カイル・ウォーカーマンチェスター・シティ戦術

Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。