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ベルリンの壁崩壊30周年に初昇格 “鉄のウニオン”の熱源をたどる

2019.11.11

ドイツサッカー誌的フィールド

皇帝ベッケンバウアーが躍動した70年代から今日に至るまで、長く欧州サッカー界の先頭集団に身を置き続けてきたドイツ。ここでは、今ドイツ国内で注目されているトピックスを気鋭の現地ジャーナリストが新聞・雑誌などからピックアップし、独自に背景や争点を論説する。

今回は、ちょうどベルリンの壁崩壊30周年となる今季、1部初昇格を果たし注目を浴びる“東ドイツの雄”ウニオン・ベルリンについて。フットボール界に押し寄せるビジネス化の波に徹底的に抗う特異なクラブの熱源をたどる。

 クラブソングの1フレーズ目がすでに、このエキゾチックなブンデスリーガ新メンバー、ウニオン・ベルリンについて興味深く語っている。

 「我ら東の人間は、いつでも前進する」

 それから少し、ロシア国歌を思わせるメロディが続く。加えてロックのようなギター音と、「パンクの聖母」ニナ・ハーゲンの野太い歌声。不思議なミックスである。一抹の社会主義、ロック的抵抗のエネルギー、そして東ドイツという自己理解。

クラブソングの20周年を記念し、2018年にウニオンの公式チャンネルで公開された動画

 「これって何? サッカーのこと?」と問う人は、ウニオンを理解していない。

 ベルリンのクーペニック地区に居を構える小クラブの人々の地平線は、ピッチでの90分や順位表といった領域を超越している。「一つのクラブが、これほど多くのシンボリックを有しブンデスリーガ1シーズン目をスタートしたことはかつてない。そして、これほどハイプが大きかったこともない」と書いたのは『ベルリナ新聞』だ。ここには、よく“オーセンティック”と描写される魔法がまだある。ファンたちの情熱、スタジアムの濃厚な雰囲気、社会政治的な態度、そしてウニオンの特別な歴史はまだ、商業主義によって消し去られてはいない。例えば、ドルトムントの“真実の愛”のようには。

 ニナ・ハーゲンは歌う。

 「西に買われないのは誰? アイザーン・ウニオン (鉄のウニオン) !」

 しかし、その歴史にとってこの新シーズンは、そう簡単にはいかないだろう。

1部デビュー戦で「抗議活動」

 2019年5月、ドイツサッカーは魔法のような瞬間を味わった。ウニオンとシュツットガルトが対戦した昇降格プレーオフ。1戦目は2-2、そしてウニオンホームの2試合目で0-0が続き、1部昇格が近づいてくる。アルテン・フォーステライの小さなスタジアムは恐れと希望、そして最大の“インテンシティ”で満ちていた。『エルフ・フロインデ』誌はこの状況を「堪えがたいまで緊迫した、神経が壊れそうなファイナル」と描写している。

 そして、終了の笛とともに爆発した。人々は叫び、慟哭。緊迫感に耐えられなくなって最後の数分間をトイレで過ごしたディルク・ツィングラー会長は、その状況を「奇妙だ」と形容した。『エルフ・フロインデ』の記者は「人々は意識を高揚させるドラッグを使った集団実験をしている最中か、あるいは宗教的な現象を目にしているところかのようだった」と記している。

昇格決定の瞬間の「爆発」

 ウニオンはこれまでに何度か、惜しいところで昇格に失敗していた。それだけに、人々は目眩のするような歓喜に満たされた。しかし、このスポーツ的な成功には陰もある。なぜならこのクラブのDNAには、ブンデスリーガの日常を貫く商業的腫瘍の拒否が刻まれているからである。2年半前に2部で首位に立った時、ファンがスタジアムで「シャイセ(くそ)、昇格しちまう」というバナーを掲げていたくらいなのだ。

 そして、本当に昇格し迎えた最初の試合を、彼らは抗議活動に使った。ゲストのRBライプツィヒがスポンサーの大金で、伝統なしで作り上げられたクラブだからである。世話係が運転するミニバスには、自嘲的なステートメントが書いてあった。

 「我らは自分たちの心を売りはする。でも誰にでもというわけではない!」

 その横には、踏みつぶされたレッドブルの缶が描かれていた。

  ウニオンには以前から、権力者や金持ちたちに対し猜疑心を向ける人間たちが集まっていた。その反権力的な歴史は、クラブ創立時まで遡る。彼らはDDRオーバーリーガ(東ドイツの1部リーグ)時代に属する3つのベルリンのクラブのうちの一つだった。国家保安省の権力者たちのクラブであるBFCディナモ、国家人民軍のクラブであるフォーバーツ・ベルリン、そしてクーペニックの労働者クラブであるウニオン。風刺雑誌『オイレンシュピーゲル』はこう書いたことがある。「ウニオナー(ウニオンファン)の誰もが国家の敵というわけではない。しかし国家の敵はみんなウニオナーだ」。DDR時代、ファンはFKのたびにこう叫んだ。

 「壁は失くさなければならない!」

11月2日、ブンデスリーガ第10節では1部で初となるヘルタとのベルリンダービーが実現。一時ピッチを煙が覆いつくすほどの発煙筒が焚かれる異様な雰囲気の中、ホームのウニオンが1-0で勝利しスタジアムは歓喜に包まれた

 こういった側面は今なお健在である。ごく普通の立ち見席のファンだった男が今や会長を務めている。破産の危機から救ったのは文字通り“血を捧げた”サポーターたちだ。献血によって得たお金を寄付したのだ。スタジアム改修資金が足りない時には、自らの手で工事も手伝った。今度は「1部でプレーしながらも、型にはまらない“アイザーネン”でい続けるつもりだ」と『フォーカス』誌。

「ウニオン詣で」するファンも

 ホームでの圧倒的な雰囲気にも助けられ、第3節ではドルトムントに勝利。ドイツ全国の冒険心あるファンたちは、このピュアで原始的なスタジアム体験を求めて、アルテン・フォーステライへの旅を計画している。しかし、このハイプがこのクラブに何をもたらすのかは誰もわからない。「ウニオンが居心地良く過ごしていた“隙間”には今、新鮮な映像を探してテレビカメラの光が射し込む」とは『ベルリナ新聞』の懸念である。

 「このシーズンがこのクラブを変えるのに間違いはない。しかし、どのように?」


Photos: Bongarts/Getty Images

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ウニオン・ベルリン文化

Profile

ダニエル テーベライト

1971年生まれ。大学でドイツ文学とスポーツ報道を学び、10年前からサッカージャーナリストに。『フランクフルター・ルントシャウ』、『ベルリナ・ツァイトゥンク』、『シュピーゲル』などで主に執筆。視点はピッチ内に限らず、サッカーの文化的・社会的・経済的な背景にも及ぶ。サッカー界の影を見ながらも、このスポーツへの情熱は変わらない。