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花柄とタピオカからの脱却 ジェンダーニュートラルなスタジアムへ

2019.11.08

Jリーグにおけるスタジアム来場者の約40%は女性だ。これは世界でも最高レベルの比率であり、女性サポーターがフォーカスされる事例も増加傾向にある。一方、各クラブが彼女達のニーズを正しく理解しているとは言い難い。改善にむけたポイントはどこにあるのか。ささゆか氏が実体験もふまえて考察する。

その「女性像」正しいですか?

 毎週水曜の映画館はレディースデーでお得に映画が見られたり、ランチにはデザート付きのレディースセットが用意されたりと街は女性向け施策で溢れている。Jリーグもガールズフェスタをはじめとした女性向け施策が盛んだ。「サッカーを女性層に浸透させよう」「ファンを増やそう」とする気持ちが伝わってくる。

 しかし、ターゲット層に入るはずの私には刺さらない。むしろ企画発表の段階で「この企画炎上しそう」と肝を冷やし、「なぜチームカラーと違う色のユニフォームにしたのか」とハテナマークで頭をいっぱいにしている。どうしてこのような齟齬が生まれてしまうのだろうか。

 原因は「女性はこう考えているだろう」という決めつけ・思い込みにある。女性ならピンク色が好き、タピオカが好きなど……。もちろん好きな人も多いが、多様な嗜好を持つ女性がいるにも関わらずひとくくりに捉えてしまっているのだ。

 筆者も上記の嗜好にもれなく当てはまるのだが、ことサッカー観戦においては別である。

 普段ピンク色の服が多い分、試合日は持ち物全てを応援クラブのカラーに統一したい。タピオカは甘さや氷の量をカスタマイズ出来ることや茹で具合を重視するので、女性向けのスタジアムグルメとして出されていても「専門店のタピオカと値段が同じなら今飲まなくてもいいかな……」と感じてしまう。スタグルではしょっぱいものを食べて応援の力をつけたいのだ。

 決め付けや思い込みを向けられた側は困惑してしまう。「お前、静岡出身?じゃあFWをやってくれ」「こんまりと同じ日本人なら君も片付けが上手いはずだ」と言われることを想像してみて欲しい。人は属性によって気質が決まるわけではないことが分かるだろう。

 企画された施策やペルソナが自分に当てはまらなかった時「自分はクラブの求めている女性サポーター像に当てはまっていないのではないか」と静かに落ち込んでしまう人が多い。せっかく「女性向け」と自分の属性に寄り添ってくれているのでありがたく、全力で喜びたい気持ちがあるのだが、年齢制限のある企画や自分の趣味とは違う花柄や大きなリボンのグッズを見た瞬間に困惑が起きる。自分は対象外と言われているような気持ちだ。その感情を上手く言語化できずに「自分は客だと思われていないのか。このままファンでいていいのだろうか……」と悩んでいる。

 女性は確かにSNSを更新する率も高く、1人行動よりは友人を誘って来る傾向があるから席も埋まりやすい。しかし、もっともらしい理由をつけて誰かの居場所をなくしていくようなマーケティングは健全ではないだろう。年齢を重ねた人も子供も男性もお誘いチケット企画で人を連れてくるのを何度も見ているし、ハッシュタグ企画は老若男女みんなが楽しんでいる。お金さえ落とせば、応援の声さえ出せばファンを名乗っていいだろうと踏みとどまれる人だけがサポーターとして生き残っていき、それ以外の人が離れていくのを見るのは心苦しい。どんな人とも歓喜を分かち合いたい、と言ったら甘い考えだと思われるだろうか。少しの意識改革ですれ違いを減らせるのならば改善すべきだ。

 また、せっかく女性の声を汲み取ろうとアンケートを取っても「スタジアムのお手洗いをキレイにして欲しい」という声が挙がった時に「彼氏に連れて来られた女性が化粧直しをする為だろう」と間違った連想ゲームに繋がってしまうことも起きている。お手洗いの内部の構造や滞在時間の違いはあれ、衛生的な場所を求めるのは男女共通の願いだと思うのだが、なぜか「女性ならでは」に引っ張られすぎて難しい解釈をしていないだろうか。

 実際、女性用お手洗いの鏡の数が足りていない。個室から出て手を洗おうとしても鏡が占拠されていて鏡の前に並ぶようなことも何度も経験している。しかし、そのほとんどは化粧直しが原因ではなかった。自分が見てきた中では子供連れの女性が子供の手を洗わせ、タオルを渡し、自分の手を洗い……と、タスク過多から来る混雑である。彼女たちの負担が大きいのだ。

 では、手伝わない男性が悪いのだろうか。それは断固として否定したい。男性も子供のお手洗いを介助したいのに、男性用お手洗いにベビーシートがないという問題がある。そうして必然的に女性だけが子供の介助をすることになり、女性用お手洗いのキャパを越えてしまうのだ。システムを作る側がジェンダー差に縛られていてはいつまでも「すべての人にとって居心地のよいスタジアム」は作れない。

いま本当に必要な「女性向け施策」とは

 性別は男女の2つしかないと考えられていた時代が長かったが、近年ようやく多様な性別があることが認知されてきた。性別違和や、性自認が分からない人もいるし性別の枠組みに縛られない生き方をしたい人も存在する。Jリーグには性別が「紙」というジェンダーレスなマスコットも登場した。いわてグルージャ盛岡のキヅールは男でも女でもなく紙なのだ。だからこそ考え方や行動を性別にあてはめるのは無理があるように思える。イケメン選手が好きな男性もいるし、戦術に詳しい女性もいるだろう。初心者向け施策だとしてもそれは同じだ。

 そこで「性別で区別をつけることなく男女平等にする」「多様なニーズに合わせて沢山の施策を用意する」という選択肢が思いつくが、実際に性差はあるものだから完全な平等は成し遂げられないだろう。また、無限の嗜好に合わせて選択肢を用意しすぎるのもコストや労力の面から難しい。

 私が考える現時点でのベストな施策は「それぞれの性差から起きるマイナス面をフラットにして快適な環境を作る(Equity)」という方法だ。

 身体性差は手術などの手段を得ないと変えられない。社会的な性差もあるだろう。その性差をないものにせず、お互いを理解すれば、ストレスが減り、満足に繋がる。この考え方で海外の「これがJリーグにもあったらいいな!」と感じた事例を2つご紹介したい。

スタジアムの暴力通報アプリとお手洗いのボランティア

 1つ目はブラジルのECバイーアの「#MeDeixeTorcer」という取り組みだ。

 ECバイ―アは人種差別をはじめとしたあらゆる差別問題の解決に取り組んでいる。最近はBBMPというクラブ公式アプリの中でサポーターが異性からのキャットコールを受けたり、体を触られたりなどの被害があった際にその場で通報できる機能が追加された。

 Jリーグでも同じようにスタジアムで嫌な思いをした経験談を耳にする。しかし、被害を受けてもファンコミュニティを壊してしまうからと我慢してしまう人や、ネット上で変なDMを受けても「モテるんだから良いことだよ」と励ましにならない苦しい言葉を受けてしまうことがある。スタジアムで異性と出会うことは否定しないが、それはあくまでも関係性が出来てからの話だ。男性も女性も年齢や容姿に関係なく被害に遭う可能性がある。優しい言葉で断ってもしつこくされ、むしろ逆上される危険性がある恐怖がある中でクラブ側のこういった寄り添う姿勢に励まされる。

 2つ目は「On the ball」というスタジアムの女性用お手洗いに無料で生理用品を置く取り組みだ。スコットランドのセルティックFCに3人の有志の女性ボランティアが掛け合い始まった取り組みで、今では104ものクラブが賛同している。

欧州各クラブに広がる「On the ball」(写真はフルアム)

 この取り組みは筆者が今年の2月にイングランドでリヴァプールFCの試合観戦をした際お手洗いで見かけ知ったのだが、ホームスタジアムであるアンフィールドは街の中心地から少し離れているので飲料水でもティッシュでも日用品が手に入りづらいと感じていた。

 元は「生活必需品であるはずの生理用品を買う金銭負担が大きいので改善しよう」というメッセージを出すためのキャンペーンなのだが、急な需要もある生理用品が周辺にドラッグストアなどがないスタジアムでも手に入れられるという利便性や気遣いに感動したことを覚えている。

 この取り組みをクラブに掛け合う際、圧倒的に男性サポーターからの署名が多かったというのも興味深い。サッカーは社会的なメッセージが発信されると注目が集まりやすい場所だからこそ、この女性向けの取り組みが社会に広がると考えスタジアムから活動をはじめたという。

 身体的な性差は「恥ずべきこと、隠しておくこと」「気まずいので話を茶化してしまう」などの反応をしてしまいやすいが、無知によって負担を強いているケースも多い。オープンにすることに抵抗がある人もいるので、それぞれの気持ちは尊重しつつ相互理解に向けて過度なタブー視が緩和されてもいいと感じている。

思いやりと、無知の知が性差を埋める

 身体的・社会的な性差はどうしても見えづらく、その立場に立つことも難しいので想像力と繰り返しの対話が必要になる。しかし「こちらの方が辛い」を強調するばかりでは対立構造になってしまう。サッカーファンの仲間という共通点をもって「違う属性を思いやる気持ち」「想像しても想像が追い付かない部分があるという認識」を持つことで、それぞれが過ごしやすい空間作りが出来るはずだ。

 筆者の想像だが、男性は「強くあるべき」という目線を外部から向けられるために夏場のゴール裏で熱中症気味になっても休みたいと言えず、重症化してから気が付くケースもあるだろう。また「可愛いものが好き」と言いづらくマスコットグリーティングの列に1人では並びづらいなど悩んでいる男性もいるかもしれない。性差で起こりえる問題をJリーグ、クラブ、サポーターそれぞれが解決していく方法を考えたらみんなが幸せになれる。

 「声が高くて迫力が出ないから女性はこのチャントを歌わないで」「女性はこのエリアに入らないで、これは気遣いだから性差別じゃないよ」と言われてきた時代もある。しかし、それももう平成のうちに終わったことだと信じている。令和はみんなでスタジアムの雰囲気を作っていきたい。

スタジアムは世知辛い社会から逃げられるユートピア

 サッカー観戦の魅力の1つは日常の中の非日常だ。会社ではスーツを着て平静を装っているけれど、不思議なことにスタジアムの中では感情をむき出しにして叫んだり泣いたり出来る……本来の抑えていた自分を解放出来るのがたまらなく好きなのだ。その”非日常”は”社会が自分の属性に向けてくる目線から逃げられる安心感”でもある。

 私は小さい頃から落ち着きがなくておしとやかなふるまいが出来なかった。そんな自分が嫌いだったが、サッカー観戦は映画みたいに椅子に2時間座っていなくても怒られない。ユニフォームにスニーカーとデニムで歩いていても「今日の服装手抜きだね、女子力低い」だなんて言われないユートピアなのだ。それが居心地の良さになって、通い続けたい場所に変わる。物事が継続できない私も立派なJリーグのリピーターだ。また来週からも頑張ろう、という力は試合からだけでなくスタジアムの雰囲気からも得ているのだ。現地観戦の魅力ってまさにこの居心地だと思っている。

 社会って息苦しいけれど、息苦しい分だけ週末の試合で力をチャージ出来る。スタジアムは色んな属性の人が集まる場所だからこそ、お互いの見えない苦しみや社会からの圧力を和らげるフラットな場所であってほしい。そうしてサッカー文化から社会のネガティブな基準をも変えられると信じている。


Photos: Getty Images

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Profile

ささゆか

1988年東京生まれ、フェリス女学院大学卒。 外資インフラ広報経験を活かしたマーケティング考察やサッカーマスコット情報を中心に執筆・イベント登壇など活動中。2019年7月より「サポーターに寄り添うサッカー雑誌」をコンセプトにした共同運営マガジンesteem chant編集長を務める。夢は沢山の海外クラブストアを巡り、世界中のマスコットと会うこと。