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ブレーズ・マテュイディ。チームの歪みを調和させる、圧倒的な個人能力。

2019.04.22

 ロシアW杯で優勝したフランス、18-19シーズンのセリエAで首位を独走したユベントス。ともに優れた結果を残している2チームを支えるのが、ブレーズ・マテュイディだ。

 180cmと決して大柄ではない彼の長所は、無尽蔵のスタミナとボール奪取能力にある。この2つの武器がチームにもたらすものは、「変化」と「調和」だ。これは、ユベントスにクリスティアーノ・ロナウドという世界的スターが加入したことでよりわかりやすく表れるようになった。

 期待に違わぬ活躍でゴールを量産するロナウドであるが、彼をメインに据えるマッシミリアーノ・アレグリ監督の戦術上のキーマンとなっているのはこのフランス人インサイドハーフである。組織を活かす、「走る選手」のロールモデルとも言えるマテュイディの働きにスポットライトを当てる。

攻撃の全行程に「変化」をもたらす

 昨年夏のロナウド加入に伴い、彼を中心にアレグリが構築した攻撃の中で特に練られているのが、クロスボール戦術だ。ロナウドに加えマリオ・マンジュキッチという圧倒的な打点を持つ2人をターゲットに据えたクロスボールは、ユベントスの最大の武器となっている(最近では次代のスター候補、モイゼ・ケーンも台頭しており、迫力が増している)。

 しかし、いくら圧倒的な高さを持つ2人を中央に据えても、単調なクロスでは守備側も対応が容易となり、停滞の原因となる。このクロスボール戦術に「変化」を加えるのが、マテュイディの役割だ。

 マテュイディは左サイドからの攻撃の際、SBとCBの間である「チャンネル」と呼ばれるスペースに走り込む。この動きには、ゴール前の情勢を「変化」させる効果がある。

 例えば、マテュイディの動きに相手のCBが対応した場合。これは高さのあるCBをゴール前から引きずり出す「変化」に繋がる。ロナウドとマンジュキッチの「高さ」という優位性をより輝かせ、空中戦の勝率を上昇させるのだ。

走り込むマテュイディに相手CBが対応した際の図解

 もう一つ考えられるのが、セントラルハーフやアンカーがマテュイディに対応した場合だ。このケースでは、高さのあるCBをゴール前から引きずり出すことはできない。その代わり、DFラインと中盤のラインの間にスペースを生む効果を得られる。このスペースにトップ下やウイングを担うパウロ・ディバラなど、高さでの勝負をかけられない選手が侵入し、マテュイディからマイナスのクロスが送り込まれる。メインターゲットをオトリとした別オプションを選択することができるのだ。

走り込むマテュイディに相手のセントラルハーフやアンカーが対応した際の図解

 ユベントスのクロスボール戦術の強みは、上記だけにとどまらない。こぼれ球、セカンドボール回収にも力を入れている。

 どんな攻撃でも、成功より失敗の方が多いのがフットボールである。ただ、セカンドボール回収率が高まれば攻撃の試行回数は増える。つまり、クロスからセカンドボール回収の流れをパッケージ化してチームに落とし込むことで、エンドレスにクロスボールを送り続け、ロナウドとマンジュキッチの高さという脅威にさらし続けるのがユベントスのクロスボール戦術だ。

 セカンドボール回収においてメインになるのは、アンカーのミラレム・ピャニッチである。彼が前進してボールを回収し、次のクロスに繋げる。では、ピャニッチが前進しやすいのはどういった配置だろうか? それはボールとは逆サイドのインサイドハーフが脇を固め、かつ敵をゴール前に押し込み、カウンターの脅威を小さくした状態である。

 マテュイディの深い位置へのランニングは、敵の守備の重心を下げる効果を持つ。つまり、ユベントスのクロスボール戦術の全工程で、彼のランニングによる「変化」が効果を発揮していることになる。加えて、右サイドからのクロスにおいてはアンカー脇でのリスク管理とゴール前への侵入を、状況に応じて切り替えるという柔軟性もマテュイディは持ち合わせている。

強烈な対人プレーに目がいきがちだが、攻めに変化をもたらすフリーランも彼の特徴の一つだ

守備に「調和」をもたらす高い技術

 ロナウドという、最強の矛を手に入れたユベントス。メインターゲットのロナウドは、ある程度守備が免除されている。それによる穴を埋めるのも、マテュイディの役割だ。

 ユベントスのプレスにおいて、ロナウドが先鋒となることは少ない。ディバラやマンジュキッチなど、守備意識の高い選手からプレッシングが始まる。ユベントスのプレッシングは敵に制限をかけながら行なうため、ディバラのサイドからプレスが開始されれば必然的にロナウドのサイドへと追い込むこととなる。

 ロナウドは「最低限1人をケアする」という役割が与えられているため、最終的なボール奪取を行なうのはロナウドの後方を担当する選手、つまりマテュイディとなる。パスコースを予測し、素早い出足で敵の背後から一気に距離を詰め、ボールを刈り取る技術。横から腕を使い、腰をぶつけ奪い取る技術。どちらも高いレベルを誇る彼をボール誘導の終着点とする、よく練られたプレッシング戦術である。

 守備範囲も広く、システム上浮いてしまう敵のアンカー、戻りの弱いロナウドがカバーできないSB手前、アンカーの空けたスペース。この全てに、途轍もないスライドの速さで顔を出す。

 浮いてしまうアンカーはシステム上の問題、ロナウドのカバーは選手起用的問題、アンカーが空けるスペースは、その時々の状況による問題。試合中は予期できるもの、できないもの含め様々な問題が発生する。これらどの問題も、類稀な運動量とボール奪取能力で塗りつぶし、いわば個人の持つ力技で解決に導く。

 原因の異なる複数の問題を解決できる選手は、世界的に見ても数少ない。様々な要因で生まれてしまうチームの「歪み」を、自身の力で「調和」してみせるマテュイディは、圧倒的な能力の持ち主である。

 また、試合中に発生する問題に対し、システム変更という手段で解決に導くのも現代では珍しくない。インサイドハーフだけでなくサイドハーフとしてもプレー可能な彼は、システム変更という面でもチームを助けることができるのだ。

課題は、チャンネル侵入後の打開力にあり

 マテュイディの課題は、チャンネルに侵入してからのプレー精度である。

 同様に侵入するプレーを得意とする、マンチェスター・シティのケビン・デ・ブルイネを例に出す。デ・ブルイネは、侵入後の選択肢として強烈なシュート、さらに深くえぐるドリブル、剛柔のラストパスと、複数の選択肢を携えている。

 対してマテュイディは、どの選択肢もクオリティの面でワンランク劣る。減速や切り返しという選択肢をとると、そこから先のプレーが続かない。そのためトップスピードからのクロスが多くなるが、当然精度を保つのが難しくなる。チャンスの生まれやすいエリアに侵入する役目であるにもかかわらず、彼自身による打開が難しいというのが課題である。

 また低い位置でのパス回しに関わるという点にも強みはないため、攻撃面で色を出すためには深い位置まで侵入する必要がある。そうなった場合、チームメイトによるリスク管理が不可欠となる。ユニットを組む中盤の選手がリスク管理能力に乏しかったり、パス回しが不得手な選手であったりすれば、持ち味が出しにくくなる可能性が出てくるのだ。

効果的なランニングの“先”での質を高めることができれば、相手にとってますます脅威的なプレーヤーになれる

組織に生き、組織を活かす。

 打開力の低さは課題ではあるが、上述の通り彼の役割は中央の状況に変化をもたらすことである。つまり、彼自身での打開はさほど求められていない。なぜなら変化をもたらした先(=中央)で、世界トップクラスの打開力を持つ選手が3人、虎視眈々とゴールをうかがっているからである。

 システム上、起用上、そして状況によって空いてしまうチームの歪みを「走り」で調和し、圧倒的な打開力を誇る攻撃陣を活かすため、「走り」で変化を加える。組織としての機能性を最大限発揮させるために働く彼はまさに「走る選手のロールモデル」だ。

 決して派手な存在ではないが、組織で見た時に欠かすことのできない貴重な存在である。

Photos: Getty Images
Edition: Daisuke Sawayama

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ブレーズ・マテュイディユベントス

Profile

とんとん

1993年生まれ、長野県在住。愛するクラブはボルシアMG。当時の監督ルシアン・ファブレのサッカーに魅了され戦術の奥深さの虜に。以降は海外の戦術文献を読み漁り知見を広げ、Twitter( @sabaku1132 )でアウトプット。最近開設した戦術分析ブログ~鳥の眼~では、ブンデスリーガや戦術的に強い特徴を持つチームを中心にマッチレビューや組織分析を行う、戦術分析ブロガー。