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乾貴士の現状を象徴する、3つのポイント。ベティスで定位置を奪い返せるのか?

2018.11.26


 2018年11月12日のFCバルセロナ戦。87分、途中交代でカンプノウのピッチに立った乾の姿には、現状の彼が抱える問題点が集約されていた。以降、その3つについて解説を試みたい。


1.周囲との信頼関係を築けていない
2.プレー可能なポジションが比較的少ない
3.ボールを保持できず、被カウンターの要因に


1.周囲との信頼関係を築けていない

 1つ目のポイントは、首位バルセロナ相手に敵地での勝利という歴史的な快挙――それもクライフに心酔するキケ・セティエン監督によるポゼッションサッカーで本家バルセロナを上回る。3-4というスコアもクライフへのオマージュとなった――を達成し、成長するチームに「遅れてついていっている」という現実である。

 ここ5試合で先発はコパ・デルレイ、ラシン戦の1試合だけで、3試合がベンチスタート、1試合が招集外で、ロスタイムを除くプレー時間は通算82分間。シーズン当初の5試合で全試合出場、うち3試合は先発でプレー時間は246分間だったから、3分の1になってしまった計算だ。

 チームはリーガ、EL、コパ・デルレイの3つのコンペティションを戦っており、優先順位もこの順だ。この先勝ち上がれれば別だが、今の段階では最も優先順位の低いコパ・デルレイの先発要員、リーガとELではベンチ入りはしてもなかなか出番は回ってこない、という状況になっている。

 乾がリーガにやって来て4年目になるが、ケガもなく代表招集による疲れもないのにここまで試合に出られないのは記憶にない。ベンチ入りしているのだから練習内容は良いのだろうし、ファイトも失っていないのだろう。だが、練習と試合は違う。特にボールを介したコンビネーションが重視されるセティエンのスタイルでは、周囲から特徴を理解され周囲から信頼されないと、チームのパフォーマンスを落としてしまう。

 統計を取っているわけではないので感覚に過ぎないのだが、ずっと気になっていることがある。それは、新加入でレギュラーとなったカナーレスからなかなかボールが回ってこないことだ。

 乾がマークを外して動き、パスコースがあるのに、カナーレスは乾を使わず別の選手とプレーを選択する。カナーレスと乾の位置関係はカナーレスが常に後ろであり、乾は使われる側、ボールをもらう側なのだが、なかなかパスを出してもらえない。仲が良いとか悪いとかというレベルでものを語るのは、プロに失礼だろう。カナーレス側からすれば別にベター、ベストの選択肢があるということなのだろうが、彼と乾の間にはプレー上の理解・信頼関係が築かれていないように見える。

 エイバル時代はチームメイトが乾を探し、ボールを必ずもらえるパターンが戦術的に確立していた。だが、流動的なベティスでは乾に必ずボールが入るというパターンがない。試合に出られないのは監督の采配であり、チームの優先順位の問題だとして納得するしかない。だが、献身的に動きながらもボールをもらえない現状は、タフな乾にしても心理的にかなり厳しいだろうと想像する。

 カンプノウでの勝利で一部メディアとファンの間にあった雑音――パスばかりで点が取れないサッカーへの疑問――が消え、セティエンの座は安泰となった。4試合ぶりのリーガ勝利で順位は下位から中位に上がり、上向きの流れに乗っていることがはっきりした。だが、実戦の場が与えられていない乾は、そのダイナミズムに乗り切れていない。

 ベンチ入りしながら出番がなかったEL、ミラン戦の前の記者会見でセティエンがこんなことを言っている。

 「タカは、みんなが期待するレベルにはいない。心理的な問題もある。W杯に出場した多くの選手が、彼と同じ様なプロセスをたどっている。姿勢は素晴らしい。プレーが重そうなのは心理面で行き詰まっている、と言ったらいいのだろうか。

 適応するのにはもっと時間が必要だ。彼はグラウンドで貢献できる選手なのだが、主役の座を失った。クオリティの高い選手たちの中で、絶対的なレギュラーになるのは難しい。だが、信頼はしているし当たり前のプロセスでもある。我われが知っている選手に少しずつなっていくだろう」

バルセロナ戦で、チームのゴールにガッツポーズするセティエン監督


2.プレー可能なポジションが比較的少ない

 今の乾を象徴するものの2つ目は、ロ・チェルソの交代要員だったという点。試合に出られないのはすでに言った通り優先順位が低いからなのだが、現状のポジション別優先順位は次のようになっている。

 システムは1ボランチ、2トップなどのバリエーションはあるが、今後はミラン戦、バルセロナ戦で結果を出した[3-4-2-1]が今後メインになっていくのだろう。このうち乾がプレー可能なのは2列目の「2」うちのどちらか。このプレー可能なポジションの少なさが、まずは壁になっている。

 3列目の「4」のうち2人はウイングバックでここには乾と似たタイプのテージョが起用されてもいるが、問題は運動量なのか守備力なのか今のところ乾は試されていない。2ボランチはウィリアム・カルバーリョは絶対で、その相棒はグアルダードがファーストチョイス。カナーレスは2番手、ロ・チェルソが3番手という順だ。

 乾がプレーする2列目の「2」はファーストチョイスがロ・チェルソとカナーレス。そのすぐ後にホアキンが続き、次に距離があってブデブスと乾が並ぶ。この5人で、2枠を争っている。バルセロナ戦ではロ・チェルソとホアキンが先発、61分に入ったのがカナーレス(ホアキンOUT)、87分に入ったのが乾(ロ・チェルソOUT)であり、投入の順番にも時間帯にも序列が明確に表れていた。

 1トップはファーストチョイスがローレン、2番手がセルヒオ・レオンかサナブリアの調子の良い方。ここで乾にとって問題なのは、対戦相手や試合展開によっては2列目の「2」のうち1枠がFWに与えられ、2トップになること。2トップ+トップ下という組み合わせになると、トップ下の「1」をロ・チェルソ、カナーレス、ホアキン、ブデブス、乾で争うという超難関状態となってしまうのだ。

バルセロナ戦後、マテウ・ラオス主審に挨拶するカナーレス。この日は途中出場から決勝点となった4ゴール目を奪い、格上撃破に大きく貢献した


3.ボールを保持できず、被カウンターの要因に

 3つ目のポイントにして、最も大きいのはボールが収まるか収まらないかだ。

 ロ・チェルソ、カナーレス、ホアキンの3人にボールを渡せば、攻撃的なチャレンジによってそれを失うことはあっても、トラップミスやパスミスで失うことはほぼない。エイバル時代に高く評価された乾の守備は、ポジショニングの良さと献身的なプレスに支えられていた。今もこの2つではロ・チェルソ、カナーレス、ホアキンよりも上だ。だが、ボールをキープして守るベティスにあって重要なのは「ボールを失わないこと」だ。ボールを失う=守備力がないという評価になってしまうのだ。

 ここがバルセロナ戦で見えた、今の乾を象徴する3つ目のポイントである。

 カンプノウでのロスタイム4分を加えた7分間で、乾は3つのボールロストをした。最初のボールロストはメッシのゴールに結びついた。ラキティッチ退場で相手は10人、前がかりでスペースがあり、ボールキープして時間を使い試合終了を待てば良い、という状況では最悪のプレーだった。久しぶりの登場で体も温まっておらず、数分間ではボールやグラウンドの感覚がつかめないというハンディはあるものの、彼に求められていたものの水準は決して高くなかった。

 ボールロストの原因は、ボールを受ける瞬間に当たられた時の弱さ――トラップが大きくなりパスの精度が下がる――に尽きる。

 ロ・チェルソ、カナーレス、ホアキンは少々当たられてもボールを失わない。だから、彼ら3人にはカルバーリョの1ボランチ時に1列後ろのインサイドMFとして起用されるオプションもあるのだが、ボールを失ってしまう乾を1列下げるのは怖い。

 ロ・チェルソ、カナーレス、ホアキンとはプレーの幅の広さも違う。

 ボールをもらって反転してドリブルで突っかける、というプレーが最大にして強力な(ファウルでしか止められず、かなりの確率でイエローを誘えるのがその証拠)乾の武器であることは誰でも知っている。だが、それは今乾が見せられている唯一の武器でもある。よって、乾に対する背中に張り付いて前を向かせないDFの仕方は、相手にとっては長所(ドリブル)を封じ短所(ボールロスト)を誘える一石二鳥となってしまっているのだ。

 ロ・チェルソ、カナーレス、ホアキンは間も作れるし、ワンタッチでさばけるし、ボールを持って運ぶこともできるし、ドリブルもできるし、大きなサイドチェンジもできる。攻撃に自由度の高いベティスだからこそ多彩さ、意外性はでは特に重視される。もう1つ、トップ下に求められる視野の広さもスルーパスの能力もロ・チェルソ、カナーレス、ホアキンには劣っている。

 乾のスピードはロ・チェルソ、カナーレス、ホアキンにはない。スタミナも献身性も運動量でも上回っている。要は、特徴が異なる選手たちが同じポジションで競い合っているわけだが、そうなると一芸に秀でた者よりも多芸多才の者が有利なのは道理だろう。

 だが、成長を目指してセティエンのベティスを選んだ乾は、このくらいの覚悟はしていたはずだ。あらためて、リーガは甘くない。バルセロナの足をベティスがすくったことがその証明であり、同時に、挑む壁の高さの証でもある。幸いプレー外の適応では問題なく、練習態度や試合に臨む姿勢も評価されているし、セティエンはローテーションを積極的にする監督だからチャンスは必ずある。今がおそらく一番の底、バルセロナ戦を経たチームが上向きになっていくとともに、乾にも上向きしかないと信じたい。

インターナショナルマッチウィーク明けとなったリーガ第13節ビジャレアル戦ではベンチ入りするも出場なしに終わった乾。チャンスが来るその時のために、しっかりと準備をしておきたい


Photos: Getty Images
Edition: Daisuke Sawayama

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ベティスリーガエスパニョーラ乾貴士

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。