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ヴィッセル神戸リージョ監督との“掛け合い漫才”インタビュー秘話

2018.09.28

先日、ヴィッセル神戸監督就任を受けて掲載したファンマ・リージョのインタビューに続き、当時の取材秘話を明かした木村元編集長のコラムを公開。「ここ10年で一番思い出深い」(木村さん)という“掛け合い漫才”のようなインタビューの裏側をご覧ください。


 女性読者のみなさん、ここから5行ほど目をつむってください。いいですか?

 「統計値というのはTバックと同じなんだよ」

 「はぁ?」

 「Tバック。女性の」

 「知ってますよ。僕は好きですが」

 「ほとんど見えているが、肝心なところが見えない」

 はい、開けて!

 こういうところで私の関心をがっちりつかみ、あとは「統計とは何か?」「どう読まないと誤解するか?」という、真面目な説明が展開されるのである。

 マンチェスター・ユナイテッドのCL決勝までの失点が4で、「最高の守備力を誇る……」と口を滑らせた時だった。「また、君は数字か!」と怒られ、失点数で守備力を判断することがいかに浅はかであるか、と解説してくれたのだった。

 リージョの名誉のために言うと、エッチなネタはこれくらいのもので、お話も2時間を過ぎて気心も知れていたので、私の知的レベルに合わせてくれたのだと思う。彼のメディア批判に、一いち私が反論したり言い訳したりするので、場はインタビューというよりも掛け合いの漫才のようになっていた。

 インタビューは「対話」なので、何でも「はい、はい」と聞いている訳にはいかない。疑問があればぶつけるし、矛盾があれば突くし、批判されれば言い返す。でないと話題が膨らまず、テーマが深まらない。もちろん、すべて失礼にならないようにやるのである。

 「……というわけなんだが、確かにマンチェスター・ユナイテッドの守備は堅い」

 と、さらっと言われたりして。あのねぇリージョさん、結論同じじゃないですか。


知るほど、わからなくなる

 彼の言わんとしていることはよくわかる。

 我われジャーナリズムは、データなりの一つの数字、一つの局面を取り出して90分間を語ろうとする。それを20代でリーガエスパニョーラの監督を務め、自らプレースタイルを決め、選手を動かしながら、勝利と敗北の間で苦悩してきた彼は、許せないのだ。サッカーはそんなに単純ではない。フォーメーションや頭数、単純な図解だけでサッカーがわかった気にならないでくれ、と。

 リージョはサッカーを知れば知るほど、サッカーがわからなくなったのだという。いいプレーをする法則というのはある。だが、勝利の法則は見つからない。89分間、圧倒的に攻め、シュートの雨を降らせても、1分以内の1本のCKにやられてしまう不条理さに、11人の素晴らしい組織が1人のタレントに台無しにされる理不尽さに、頭を抱え続けたのだと思う。

 そうして、それなのに、結果のみを根拠に勝者をもてはやし、敗者を叩くマスメディアの姿勢を「不当だ」と訴えているのである。スコアだけで、プロセスつまり試合を見ていないではないか、と。何にもわかっていないではないか、と。

 その代表が私である。

 彼の好きな東洋哲学の源の一つからやって来て、どっちが勝つと思うかとか、スコアを予想してくれとか、のん気に頼んでくる。優劣は予想できる、だけど、あれだけ不可解で運が大きく左右するスポーツのどうして勝敗がわかるだろう? 優位はバルセロナだ。盟友のグアルディオラがいるチームに勝ってほしいとも思っている。だが、勝敗は「わからない」が、最も誠実な答えなのに。

 憧れの東洋世界はいつの間にか、即物的で、短絡的で、ビジネスライクで、拝金的に変わってしまっていた。「新しいものが良くて、古いものは悪い。しかも新しくて良いものは、常に欧米から来ると教えられましたよ」とうそぶく、この男にひと言、言ってやらねばならない、と奮い立ってくれたのだろう。雑誌作りの中で時間と金と効率に追われる男に、哲学を取り戻してやらねばならない、と。


この人、並ではありません

 私は私で、最後はジョークに大笑いする余裕ができたが、最初は青くなっていた。

 「どうしよう?」。必勝法も戦術分析も予想もなくては誌面にならない。さすがに一つの思想に貫かれている彼は、どんな変化球をぶつけても食いついてくれない。

 しかし、聞いているうちに、この話の面白さを伝えられないなら編集者ではない、と思い始めた。

 ページを移動し、意味合いを変え、最終的に2ページから3ページに増ページし、掲載することにした。私には耳の痛いことも多いけど、普段から葛藤していた部分でもあるので、ぜひ、みなさんも彼の言葉に耳を傾けていただきたい。

 最後に一つだけ、ひどく感動させられたフレーズを紹介したい。

 「チームとしてサッカーを個人の内面に効果的に取り込み共有できている点で、バルセロナを上回るチームはない」

 「その共有にどうやって成功したのでしょう? やはり反復練習ですか?」

 「君は日本人だねぇ! 人間を機械化することはできない。なぜなら、人間が作り出す状況には一つとして同じものがないから。反復よりも大事なのは、意識づけの方だ。特に、利益に対する意識づけには強力な学習効果がある。好結果が得られる理論をまずは知的に納得させ、次に体験を通して実感させていくのだ」

 これはなかなか言えませんよ。


Photos: MutsuKAWAMORI / MutsuFOTOGRAFIA

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ヴィッセル神戸ファンマ・リージョ

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。