SPECIAL

「9秒カウンター」を延々と議論。イタリアは日本の悲劇にも学ぶ

2018.07.09

大会不出場イタリアメディアはW杯をどう伝えているのか?


 1958年大会以来の予選落ちとなり、ロシアW杯出場はならなかったイタリア。本大会前のテストマッチとして6月1日にベルガモで行われた国際親善試合エジプト対コロンビアを訪れたイタリア人記者のほとんどはメルカート取材目的で来ていたし、本大会に派遣する新聞記者の数もだいぶ少なくなると聞いた。イタリアの人たちはW杯には関心を払わないようにして過ごすのかなと思いきや、そんなことはなかった。さすがにアズーリの出場時と同じようなムードとまではいかないが、サッカーファンはW杯の1試合1試合を注意深く追い、メディアは関心に応える報道をするのである。

 本大会は民放TV局『メディアセット』の独占中継となっているが、視聴占拠率などのデータはこれまでの大会よりも良い数字を叩き出しているというのだから驚きである。グループステージが終了した6月29日、同局が公式WEBサイト上で発表したところによると、48試合の合計視聴者数は推定で1億7500万人。国営放送『RAI』と衛星放送『スカイ・イタリア』が放映権を分け持っていた頃よりも2000万人ほど増えているのだという。


TV:豪華ゲストによるディープな戦術分析

 もちろん全試合を地上波で中継。試合開催日の夜には特集番組を組み、しかも元イングランド代表監督のファビオ・カペッロ氏やロベルト・マンチーニ現イタリア代表監督、インテルのハビエル・サネッティ副会長などの豪華ゲストを日替わりで呼んでくるのだ。民放のTV番組らしく絵面はバラエティテイストで、イタリアらしくセクシー要素も無駄に挟み込まれたりはしている。しかし、戦術分析はディープにやる。普段のセリエAのシーズン同様、リプレイをたくさん流しながら、試合を分けたプレーや守備のメカニズムを解説。ジャッジの検証もしっかりと行われる。

 日本対ポーランドでは、例の終盤の時間稼ぎとフェアプレーポイントで通過したことを非難するコメントもゲストの中からは出てはいた。一方で、スタジオ解説を務めていたベルナルド・コッラーディ氏は「イエローカードの数(の差)で上に進んだ日本だが、実際にファウルも少ない。これは守備においてボディコンタクトよりも、予測に基づくインターセプトが重んじられていたという証拠でもある」としたうえで、「その分体力的な消耗は大きかったはずで、結果的に西野朗監督はポーランド戦でああいうマネージメントに出たのでしょう」と、日本の6人替えについて自身の推論となぜそう結論づけたのか、理由を一つひとつ丁寧に説明していた。

会場でもブーイングが起こるなど物議をかもしたポーランド戦終盤の日本の試合運びはイタリアのテレビ番組でも議論になったという


新聞:一般紙が見た日本対ベルギー

 バラエティテイストの強い地上波放送でこれなのだから、新聞はさらに凄い。日本対ベルギーから2日後の4日には一般紙の『ラ・レプッブリカ』が、ベルギーが試合終了間際に決めた3点目のカウンターについての「ベルギー、ティキタカの終焉を綴った9秒間」という記事を掲載していた。94分、日本のCKからカウンターへと持っていき、最後はナセル・シャドリが押し込んだあのゴールについて、解説図つきの戦術分析記事を出していたのである。繰り返すが、国内外の政治、経済、文化の記事を載せる一般紙が、である。

 「スペインがロシアから1点を挙げるにとどまった128分間1137本のパス回しと、ベルギーが日本を破るに至った9.35秒間7本のボールタッチの間には、世界の半分ほどの開きがある。それぞれサッカーの世界では両極に位置し重心は変わるが、今回ロシアではその磁極が変わりつつある。一時代を築いたティキタカは終焉を迎え、新たなものを見出す必要に直面している」

 つまり、このW杯を通しポゼッションからカウンターへと志向が変わりつつある一例として、このプレーを挙げたわけである。守備組織に対する遅攻とセットプレーの守備からの速攻という状況の異なるプレーを一緒くたに比較し、流行り廃りを問う論理構成はやや強引ではあるかもしれない。ただ恐れ入るのは、W杯非出場国の新聞が第三者的な立場から、むしろベルギーや我われ日本のサッカーファンが欲するであろう鋭い分析を載せたことだ。

 「アディショナルタイムの最後の1分でのベルギーのプレーは完璧で、10秒足らずの間にサッカーが要求することがすべて詰まっていた。まずはボールキープで延長戦へという安全策を選ばなかったティボ・クルトワの勇気、追いすがる日本の4選手よりも速くボールを運び、トーマス・ムニエにミリ単位の正確なパスを通したケビン・デ・ブルイネの技術、ムニエとシャドリのスタミナ、フェイントをかけたルカクの発想、そして走り込む完璧なタイミング。9秒間でタッチは7つ、日本の選手が持ち得ていなかった、足の速さとシンキングスピードの両方を見せた」

 こうした分析は、ベルギーの選手のコメントを的確に拾って補強されている。「(CKキャッチからのカウンターは)アントニオ・コンテ監督の下、チェルシーで練習していた。一度点を奪ったこともあった」とクルトワが言い、「これをやり切る自信は一瞬で浮かんだ」とデ・ブルイネが語る。さらにムニエは、守備か攻撃かの判断を瞬時に行ったうえでのプレーだったと述べていた。「(逆サイドの)シャドリがすでにダッシュしていて、守備のバランスを崩すのも良くないから上がるべきか一瞬悩んだ。ただ時間を考えればゴールが決まるか、試合終了の笛が吹かれるかのどちらかだろう。じゃあもう上がっちゃえと」。個々のイメージと判断が瞬時に噛み合った結果、あのゴールが生まれたというわけだ。

 試合ではディテールが勝負を決めるといわれる。セットプレーで点を取りに行った結果キックをGKに確保され、カウンター阻止のマネージメントも適切でなかったところを突かれた日本。一方で個々が適切な判断をして瞬時にイメージを共有し、高速カウンターを成功させたベルギー。延長に行くという安全策を放棄しリスクを冒したという点は一緒ながら、些細な時間のプレーにおける詳細の詰めの違いが、決勝点となって現れた。そしてそれを明確に解説していたのは、W杯に出られなかったサッカー大国の一般紙という事実がまた重い。

日本対ベルギー、勝負を決めたシャドリのゴールシーン

 なおこの記事は、フランス対アルゼンチンでGKが起点となったカウンターから最後はキリアン・ムバッペが決めたチーム4点目のゴールなども引き合いに出し、「ポゼッション率の高かった上位5傑のうち4チーム(スペイン、アルゼンチン、ドイツ、サウジアラビア)が、単調さがもたらす死ぬほどの退屈さを記憶に残しながらすでに家路についた」と論じている。「スペインは1試合平均848本のパスと、優勝した2010年大会時の平均から200本以上となる数字を挙げながら敗れた。彼らはパスが過去のものになったことに気づいてなかったのだ」という締めが真実を表しているかはさておき、とにかく恐ろしいのは、イタリアのメディアは一般紙でこの分析を出し、そしてそれを読む人がいるということなのである。

 技術、戦術、フィジカルを鍛える方法論、そして試合運びのノウハウ。強豪国はこういった要素を全方位で伸ばしていき、絶え間ないアップデートを続けている。それはサッカーを取り巻く人々の関心の高さと深さに支えられているからであり、言うなればもう“文化”と言っていいものだ。日本が今後W杯で8強以上を目指そうとするのであれば、詰めるべき差、学ぶべきものはたくさんあるという認識はやはり持つべきなのだろう。

Photos: Getty Images

footballista MEMBERSHIP

TAG

FIFAワールドカップイタリアメディア文化

Profile

神尾 光臣

1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。

関連記事

RANKING

関連記事