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日本が戦う“仮想ポーランド”ウクライナ代表の正体に迫る

2018.03.26

紛争はいまだやまず…それでも実力は“W杯出場国”クラス

 3月27日に日本代表と親善試合を行うウクライナ代表の顔と言えば、選手ではなく指揮官のアンドレイ・シェフチェンコだろう。指導者としての経験はなかったがロシアW杯出場を期待されて2016年7月に代表監督に就任。EURO2016で躍進を遂げたアイスランドが勢いそのままに首位通過を果たしたグループで最終節まで強豪クロアチアと2位を争った。ホームでの直接対決でクロアチアに敗れ本大会出場は逃したものの、予選全体を通じた戦いぶりは高評価を得た。メディアにオープンな姿勢も好評で、ウクライナ指導者協会会長のニコライ・パブロフが「代表は彼のような選手としてトップレベルだった人物が率いるべき。シェフチェンコはサポーターのアイドルだ」と語るように多くの国民の支持を受けて続投が決定した。

ウクライナを率いるシェフチェンコ監督

 ウクライナと日本が対戦するのは2005年10月12日のキエフでの親善試合(1-0でウクライナの勝利)まで遡るが、当時と現在ではウクライナという国が置かれている状況は大きく異なっている。2014年、ウクライナのEU加盟をめぐるキエフでの政変劇やロシアのクリミア併合により国内で紛争が勃発。欧米とロシアの対立の渦に巻き込まれながらドネツクなど東部では緊張状態が続いており、この街を本拠地とするシャフタールやオリンピックといったクラブはハルキウやキエフでいまだに避難生活を送っている。

 政治や経済は現在も混乱状態にある。多くのクラブはスポンサー収入がほとんど見込めず欧州カップ戦の常連だったメタリスト・ハルキウなど複数のクラブが経営難により消滅。2015年のELファイナリストであるFCドニプロが今は3部リーグに落ち込むなど信じられない速度で衰退が進んでいる。

 国内トップリーグは12クラブに縮小され、シャフタールとディナモ・キエフの2強とその他のクラブとの格差が際立ち、リーグ全体の弱体化が顕著に。人気低下に拍車がかかり、平均観客数は騒乱前の1万2572人をピークに今季は24節を終えて3696人にまで落ち込んでいる。観客が1000人に満たない試合も珍しくない。

 「選手のレベルが低下している。リーグがそもそもまともなレベルになく、こんな状況から代表を作るのは難しい。主力選手たちの替えがまったく見当たらない状態だ」

 ウクライナの元祖英雄であるオレグ・ブロヒン元代表監督はシェフチェンコに同情的なコメントを寄せている。今回の招集メンバーを見てもほとんどの選手が国内2強からの選出で、クラブで満足な出場機会を得ていない若手も多い。国外組もエースのヤルモレンコ(ドルトムント)やベルギーのヘントで今季9得点と好調なヤレムチュクが故障離脱、司令塔のコノプリャンカはシャルケで控えに甘んじておりコンディションに不安が残る。

06年にウクライナを初のW杯出場に導き、ポーランドと共催したEURO2012でも指揮を執ったオレグ・ブロヒン監督も母国の窮状を嘆く

指揮官はポゼッションスタイルを模索中

 とはいえ、シャフタールとディナモはそれぞれ今季の欧州カップ戦でベスト16まで進出し強豪クラブを苦しめており、ウクライナがW杯に出場してもおかしくはない実力国であることは間違いない。現在はヤルモレンコ、コノプリャンカ、ラキツキ、ステパネンコ(いずれもシャフタール)ら1989年生まれの主軸選手たちが円熟期に入り、経験豊富なレギュラー陣と次世代の若手選手たちとの融合を模索している段階だ。

エースFWヤルモレンコを欠く今回の日本戦、コノプリャンカがウクライナ攻撃陣のけん引役となる(右はクロアチア代表MFモドリッチ)

 仮想ポーランドという意味ではウクライナは最終ラインから中盤における「デュエル」の強さが売りで、守備に比重を置いたチームのため、攻撃力が自慢のポーランドとは戦術が異なるが、選手の体格やプレースタイルは似ているだろう。シェフチェンコが現役でピッチに立っていれば絶好のレバンドフスキ対策になっていたが、残念ながら現在のウクライナは点取り屋の不在による得点力不足が深刻で1トップの人選に苦労している。

 「最大の目標はEURO2020本大会出場。サポーターは今からチケット手配の準備をしておいてほしい」

 今後への強い意気込みを見せるシェフチェンコ監督はこれまでのカウンターを主体とした攻撃に加え、フィニッシュをより確実な形で創出できるように、ビルドアップから丁寧にパスを繋ぎ相手を崩すスタイルも取り入れようとしている。今回のテストマッチでは若手選手を積極的に起用し、使える戦力の見極めを図る。

 代表歴代2位となる33得点を記録し(1位はシェフチェンコの48得点)、チームの得点源であるMFヤルモレンコを欠く今回の試合、注目は21歳のMFオレクサンドル・ジンチェンコ(マンチェスター・シティ)だ。18歳で代表デビューを飾り、シェフチェンコの代表最年少得点記録を19歳で塗り替えた逸材は、今季グアルディオラ監督の信頼を徐々に得て先発に名を連ねることも。左SBでの起用にも応え、プレーの幅を広げている。代表ではコノプリャンカとともに中盤でゲームメーカーとして攻撃を牽引する役割を担う。

15年に18歳でA代表デビューしEURO2016(写真)でもプレーしたウクライナ期待の星オレクサンドル・ジンチェンコ(右)。所属するマンチェスター・シティでは左SBとして起用されている

 「監督の仕事は選手時代とは根本的に違う。自分の頃に比べてサッカーは大きく変化した。今はこの代表を強くすることだけを考えて生活している」

 シェフチェンコ監督には指揮官としての経験不足も指摘されているが、「誰もが経験を積んで名監督となる」と協会や関係者は温かい目で見守る姿勢だ。自国サッカー界の窮状を目の当たりにしてすべてを背負うことを覚悟したウクライナのレジェンドは、指導者としても輝かしい実績を積み重ねることができるのだろうか。厳しい時代に少しでも希望を見出したい国民の期待は大きい。


Photos: Getty Images

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アンドレイ・シェフチェンコウクライナ

Profile

篠崎 直也

1976年、新潟県生まれ。大阪大学大学院でロシア芸術論を専攻し、現在は大阪大学、同志社大学で教鞭を執る。4年過ごした第2の故郷サンクトペテルブルクでゼニトの優勝を目にし辺境のサッカーの虜に。以後ロシア、ウクライナを中心に執筆・翻訳を手がけている。

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