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子供の成長に「休み」は不可欠。まさかの事態、でも譲れないもの

2018.02.14

指導者・中野吉之伴の挑戦 第五回

ドイツで15年以上サッカー指導者として、またジャーナリストとして活動する中野吉之伴。彼が指導しているのは、フライブルクから電車で20分ほど離れたアウゲンとバイラータールという町の混合チーム「SGアウゲン・バイラータール」だ。今季は、そこでU-15監督を務めている。この「指導者・中野吉之伴の挑戦」は自身を通じて、子どもたちの成長をリアルに描くドキュメンタリー企画だ。日本のサッカー関係者に、ドイツで繰り広げられている「指導者と選手の格闘」をぜひ届けたい。

第四回「敗戦もゴールを狙い1点を奪った。その成功が子どもに明日を与える」に引き続き、第五回をお楽しみいただけたらと思う。

▼1月の休み明けに言い渡された二文字。

 メディアを生業としている私にとって、それはとてもなじみのある言葉だった。ウィンターブレイク明けに見出しを踊るその二文字はいつもインパクトがあって、だからすぐに記事にされていく。

 「解任」

 プロの世界なら日常茶飯事だ。結果が出ない、内容が悪い、選手との確執……。様々な理由で毎シーズン多くの指導者が職を失い、新しい指導者がその席をめぐってしのぎを削る。私も、そうしたテーマで何度も記事を書いたことがある。批判的だったり、同情的だったり、その時々でテイストを変えるが、サッカー界においては当然のプロセスだととらえていた。

 まさか自分にそれが襲いかかるとは思ってもみなかった。

 1月の日本への一時帰国から戻った私を待っていたのは、ユース責任者を交えての緊急会談だった。そして、1時間以上の話し合いの末、そこで下された決断は私の解任だった。

 寝耳に水、だったわけではない。

 前半戦チームは低迷し、不振に陥っていた。どうすれば勝てるようになるのか迷走してしまっていた。残留を目指すことが難しい状況になっていたのは否めない。私もこの世界は長いから、そうした話が出ても不思議ではないとは思っていた。それでも、選手個々の成長には手ごたえを感じていたし、落ち着いて冬の準備期間にトレーニングを積めば、またいい状態に戻すことができると自信を持っていた。

 そのために蒔いておいた種が必ず芽吹いてくる、と。

 それは指導者として過去の経験からもそうだし、選手の現在地からもそれができるだけのものが見て取れていたからだ。10月下旬から加わってくれたアシスタントコーチのトーマスのことも信頼していた。大きな助けになってくれる、と。だから1月中に3週間ほど日本に帰国した。

 だから、今回は「なぜシーズン途中に日本に戻るだけの時間を作ることができるのか」を書くつもりだった。ただ自らの解任によって、少々その予定が崩れてしまった。

 シーズン途中で解任された指導者の言うことに誰が耳を傾けるのか。

 そう思わないわけではないが、この「指導者・中野吉之伴の挑戦」は私の指導者としての生き様を通して読み手に様々なことを感じてもらうことが意図であり、主旨であるため、私が強くこだわる「子どもの休みと成長の関係」についてはしっかりと記したい。また、ドイツをはじめとするヨーロッパで指導者として人生を歩むことの意味を、日本の指導者たちに考えてもらう機会になればと思う。

 12月の1週目にリーグ前半戦は終わった。16日までは週1でトレーニングを行い、そこから1月2日までは完全に休みになる。その後のスケジュールでは、また週2回の練習が再開されることになっていた。監督として日本に帰国せず、チームに残ってやるべきこと、やれることももちろんあった。

 が、それ以上に大事なのは様々なケアをすることだった。

 私は、1月の帰国中に「ドイツにおけるジュニアサッカーの在り方」をテーマに多くを話した。その中で、特に強調したのが「休み」に関することだ。「ドイツでは、長期休暇時にトレーニングを行わない」というと、皆一様に驚く。

 「夏休みは1カ月から1カ月半チームの活動をしません。夏休みは『休み』の時間です。家族や友達との時間であり、遊ぶ時間ですから。サッカーが好きな子は子どもたち同士で連絡を取り合って、空き地やグラウンドでボールを蹴ります。それこそ彼らにとって大事な遊びの時間であり、そうした時間を通して健やかに成長していきます。冬休みも同様です。私のチームも12月16日から2週間は完全オフを取りました」

 効果的な練習を行うためには整ったコンディションが必須条件だ。だが、整ったコンディションとはどんな状態を指すのだろうか。何が整っていればいいのだろうか。私は4つのコンディションに分類して考えるようにしている。


1.フィジカル的コンディション
2.メンタル的コンディション
3.思考的コンディション
4.人間関係的コンディション


 フィジカル的コンディションはイメージがつきやすいだろう。育成年代の子どもたちを見る上で「健全な体の成長に目を向ける」のは非常に大切なことだ。負荷がかかると筋肉が傷つく。休みを取ると復元され、強化されていく。その時間をしっかり取れるスケジュールがまず求められると、私は考えている。そうしたサイクルができ上がった上で大事にしてほしいのが食事だ。

 今回、高松で開催したイベントでは大塚製薬の協賛があり、選手や指導者、保護者に「食育」に関する講義をしていただけた。体を回復させるのに必要な要素はタンパク質。それも練習後30分以内の摂取が望ましく、この時間内に必要な分のタンパク質を補強すると、体は理想的な補修工事を行える。そういう指導をしていただいた。

 次にメンタル的コンディションだが、選手のモチベーションと直結して考えるとわかりやすいだろう。子どもがトレーニングを楽しみにグラウンドに行けているだろうか。トレーニング後に「早く次のトレーニングの日が来ないかな」との思いで帰路につけているか。外的要因で「やらされている」メンタル状態ではプレーの質は上がらない。

 頭を使うと、疲れるのは道理だ。疲れた頭では考えたくても考えられない。頭が働かないと、やるべきプレーへの反応が遅れてしまう。日常生活での疲れが残っていると、プレーのパフォーマンスにも影響を及ぼすのは想像がつくはずだ。

 さらに、人間関係は育成年代では重要視されるポイントだろう。どれだけフィジカルコンディションが良くても、メンタル状態が整っていても、頭がすっきりしていても、友達と喧嘩をしたり、出かけ際にお母さんに怒られたり、監督との関係がぎくしゃくしていては思い通りのプレーをすることはできない。

 これらすべてが完璧に整っている状態はそうそうない。だから、常にすべてに「気を配れ」というのはやり過ぎかもしれない。ただ選手の調子が悪い時に、どんな原因があるのかを考えるポイントとして、こうした多角的な視点を持つことはとても重要であるはずだ。

▼「休み」が子どもの成長にもたらすことの意味。

 体のケア、メンタルのケア、頭のケア、人間関係のケア。この4つを大事にするためにも、私は長期的な休みが定期的にあることは選手にとって、また指導者にとって大きな意味があると思っている。そういう理由もあって、1月は「私がいない状態」を意図的に作った。

 明確に「休み」を狙ったわけだ。

 うまく物事が運んでいない時だからこそ、そうした時間が大切だ。私の頭の中には、休みの間にアシスタントコーチのトーマスとの時間が、子どもたちに新鮮な風を吹かせ、リフレッシュした状態で後半戦に向けた準備に持ち込むことができるという計算があった。

 それは、過去にもそうしたやり方でうまくいったことが何度もあったからだ。指導者だからと、すべてを引き受けて、一人でやらなければならないわけではない。それぞれが役割を担い、より良い関係を築くことで、全体としてのバージョンアップを図ることが可能だ。

 ただ今回、私は大きなミスを一つ犯していた。

 アシスタントコーチのトーマスが私のやり方に不満を抱いていたことを見抜けなかったことだ。自分の哲学は何度も伝えていた。結果論だが、表向きには賛同してくれる様子を見せてくれていたのだろう。ただ本当には届いていなかった。

 彼はキャプテンの父親だった。我が子を持つ親としての思いが強かったのだろう。負け続けるチームを何とかしたいという気持ちは理解できる。「このままではダメだ。俺がチームを変える」と感じたのだろう。

 勝ちを求めた。変化を求めた。

 「早急な成功がなければならない」、と。そして、それを自分でやろうと思い、そのための準備を私の不在時に着々と実行していたようだ。練習日以外の活動にも精を出し、選手との距離を縮めていった。他の親に連絡を取り、「あらゆることを変えなければならない」と納得させていったと伝え聞いた。それからユース責任者に詰め寄った。

 「このままでは残留はできない」

 この一言だけで大きな説得力となる。緊急会談の時点には、すべての準備が整えられていた。すでにチェックメイトだ。私には、他の選択肢はなかった。この会談が1か月前に行われていたら、また別の方向に話は進んだことだろう。いずれにしても、前半戦の間にチームを浮上させることができなかったのは事実なのだ。

 考え過ぎていたのかもしれない。あるいはアシスタントコーチも同じビジョンで見てくれていると思い込まず、もっと原点から話し合えば良かったかもしれない。だが、時間は戻らない。ドイツでは、ヨーロッパでは、誰にでも起こり得ることが私にも起こった。

 今はただ、この監督交代が子どもたちにとってプラスに働き、後半戦の好成績へと繋がってくれることを切に願うばかりだ。そして、彼らがその後もサッカーとともに人生を歩んでいってくれることを。

Photos: Kichinosuke Nakano
※今企画について、選手名は個人情報保護のため、すべて仮名です


■シリーズ「指導者・中野吉之伴の挑戦」
第一回開幕に向け、ドイツの監督はプレシーズンに何を指導する?
第二回狂った歯車を好転させるために指導者はどう手立てを打つのか
第三回負けが続き思い通りにならずともそこから学べることは多々ある!
第四回敗戦もゴールを狙い1点を奪った。その成功が子どもに明日を与える

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ドイツ中野吉之伴

Profile

中野 吉之伴

1977年生まれ。滞独19年。09年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)後、SCフライブルクU-15チームで研修を受ける。現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-13監督を務める。15年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行っている。 17年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。