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なぜカタルーニャは独立を望む?カタルーニャ人記者が胸中を吐露

2017.11.21

住民投票の結果がイエスでもノーでも、私にはさほど重要ではない

footballistaでは「独立問題のサッカーへの影響」というテーマで、カタルーニャ生まれでスペインを代表する新世代のサッカージャーナリスト、アクセル・トーレスへロングインタビューを行った。直近と将来のクラシコはどうなる? バルセロナの加盟リーグは? スペイン代表の戦力ダウンと新生カタルーニャ代表の実力は?など気になる問いへの答えは、12月発売の本誌に掲載するのでお楽しみに。ここではそのインタビューのイントロとして、そもそもなぜ独立なのか?をカタルーニャ人としての心情を交えて説明してもらった。スペインメディアでは語ることすらタブー視されるデリケートな話題に、日本のメディアだからこそ答えてくれた貴重な現地の声。

問題の根本にあるもの

私たちの母国語が2流扱いされているという感覚は確かにある

――なぜカタルーニャのかなりの部分の人たちが独立に賛成しているのでしょう?

 「理由はいくつかある。それに、みんなが同じ理由で独立を望んでいるわけではない。実際、これだけ独立支持者が増えたのは、当初からの理由に新たな理由が加わったからだ。私にとって重要な理由が一つある。複雑なテーマでかいつまんで語るのは難しいのだが……。これから説明することはスペインの人たちの間には異論があるだろうと思う。

 根本の問題はスペインの成立にある。つまりどうやってスペインができたかなのだが、それについての合意はない。私にとってスペインとは様々な民族が集まってできた国だが、多くのスペイン人にとってスペインとは単一民族による単一国家だ。彼らはスペインという国籍があり、スペインという文化があると考えている。だけど私たちがしゃべっているのは別の言語だ。

 はるか昔、イベリア半島ではラテン語が話されていたが、他民族や侵略者との交流によって別々の言語が発達していった。今日カタルーニャ語と呼ばれるものは、この地域でスペインの成立前にはすでに話されていた長い歴史を持つものだ。もちろん昔のカタルーニャ語と今のそれとは異なっているが、そこにこの言語の起源があった。

 ある時カタルーニャの伯爵がアラゴンの王女と結婚。今のアラゴン州とカタルーニャ州を合わせた領土を持つアラゴン連合王国が生まれた。そのアラゴン連合王国の王がカスティージャの女王と結婚してできたのが、スペイン王国だ。テレビドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』と同じだよ。王族の婚姻によって領土を拡大した新しい国が生まれていく。

 こうして生まれた連合国だから、スペインの中央権力が異なる伝統や文化、民族をスペインの統一と継続の脅威として受け取ってきたことは理解できる。だからこそカタルーニャを想う感情が力を持たないようにしてきた。もし、なぜ人々は独立を願うのかと問われれば、最も重要な原因は連合国家の成立の仕方が公平でなかったという点に根本原因がある」

9月11日、カタルーニャの日に独立を訴える人々

――「独立すれば豊かになれる」という声もあります。

 「経済の問題は、私は主因だとは思わない。独立を望む人たちの多くは君に言うだろう。『私たちが独立主義者なのは、カタルーニャは多くの富を生み出し多くの税金を払っているにもかかわらず、ほんの少ししか受け取っていないからだ』と。だが、私がこれを主因だと思わないのは、もし人々がスペインに満足していたら『みんなで助け合う』という発想になるはずだからだ。富める者が税金を負担して貧しい者を助けるのは当たり前だろう? それこそ民主主義だ。つまり、もしスペインに不満がなければ経済的な問題はここまで顕在化していない。
それよりも根本的な問題は、スペインがカスティージャ王国になってしまったことにある。カスティージャ王国の言葉だったカスティジャーノがスペイン語になってしまった。もし最初の連合がバランスの取れたものだったらすべての言語がスペイン語だったはずだし、より支配的でより重要な言語というものはなかったはずだ。今、すべての地域で唯一の主要言語はカスティジャーノである。カスティージャは連合時には民族の一つに過ぎなかったのに。

 確かに私たちの生活は悪くない。深刻な経済的な問題に直面しているわけでもない。もちろん困窮している人はいるがそれはカタルーニャに限ったことではない。だが、私たちの母国語が2流扱いされているという感覚は確かにある。例えば、君がマドリッドへ行き法廷に立つとすれば、そこではカタルーニャ語を話すことはできない」

――でも、あなたたちはカタルーニャ語もカスティジャーノも両方操るではないですか。 実用面では問題はないのでは?

 「私たちは確かに2つの言語を操れる。だけどカタルーニャを離れて公式な場に行くと言葉を変えることを強制される。カタルーニャ以外でカタルーニャ語をしゃべると良い顔をされないことさえある。私たちの印象を描写すると『こいつらにはカタルーニャ語をしゃべらせてやっている。だけど、もし私たちが嫌ならしゃべらせない。なぜなら、彼らの言葉はスペイン語ではないのだから』という感じだ。この言葉を消滅させないためには国の保護が不可欠だ、とまで考えることがある。

 私は、国がすべての言語の知識をサポートしようとするならスペインに所属し続けることを絶対的に支持するだろう。スペインのどこにいてもすべての言語を習得することができ、すべての言語の文学が学べるようであれば。ガリシア語やバスク語だって学んでみたい。だけど、国はそれに関心がない。

 国営放送のニュースでカタルーニャ人がごく簡単なことを語っているのに、吹き替えるか字幕をつけるしかない。人々がカタルーニャ語を理解できるように、国として力を入れてこなかったからだ。基礎知識さえない。国営放送でカタルーニャ制作の連続ドラマを放送する時も字幕つきのオリジナルバージョンではなく、すぐに吹き替えてしまう」

――でも、スペインでは映画もほとんどが吹き替えだし、それはカタルーニャ語に限らずすべての言語にも言えることですよ。

 「確かにそうだ。しかし他の言語や他の文化の知識を促進することは重要だ。それをしないのなら、カタルーニャでカタルーニャ語をしゃべっている者は“火星人”のままだろう? 問題はそこなんだ」

10月1日、独立投票での政府の武力も辞さない制圧に対し声なき抗議を表明する学生たち

――感情的な問題のように聞こえますが……。

 「それもある。しかしすでに経済的な問題について話したように、私が今説明したことは文化的あるいは言語的な理由と呼びたい。だが、国家アイデンティティの問題ではない。なぜなら国家アイデンティについて話すことは危険な領域に踏み込むことになるからだ。私はカタルーニャ人が他の民族より優れた人種だとはまったく思わない。もし独立国が誕生したとしたらカスティジャーノを排除してほしいとも思わない。馬鹿げているだろう? 誰もそんなことは考えることはできない。

 その他、独立運動が盛んになった理由として、スペイン政府のカタルーニャの問題への対応に怒っている人たちが大勢いる。カタルーニャ自治憲章が議決されたにもかかわらず、それがスペイン政府によって取り消されたことがあった(2010年)。その時の人々の要求は独立ではなく合法的な自治権の拡大であったのに。巻き起こった一連の抗議活動へのスペイン政府の対応も人々を激怒させた。ここ7年で独立主義者が急増したのはそれが理由だ。すべてはあの自治憲章に対する違憲判決と取り消しがきっかけだった」

マリアーノ・ラホイ首相(左)と、国民党のカタルーニャ支部代表を務めるシャビエル・ガルシア・アルビオル

複雑に絡み合う理由

君は独立を支持する様々な人々と出会うだろう

――ちょうど経済危機とも重なりました。

 「そう。すべてが追い風になった。経済危機は君を絶望させ、革命に近い運動に加わらせた。君が困窮していて問題は解決していないところに、同時に新しいカタルーニャを建国しようという運動があった。国をゼロからスタートするということは憲法をこれから制定するということであり、もっと社会的で国民のための経済政策を持つ国作りに関与できるという意味でもある。おそらくこう考えて運動に加わった人々は多かったろう。『もし今からやり直せるなら、より公平な国を作ることができるかもしれない』と。

 これら様々な理由が絡まっている。複雑な問題だと言った通りだ。君は独立を支持する様々な人々と出会うだろう。カタルーニャ民族の純粋性が大事だという者もいるし、自治憲章が大事だという人もいるし、経済的な問題が一番重要だという人もいる」

――つまり、あなたたちにとっても困難な問題だということですね。

 「もちろんだ。独立を推進している3つの政党はまったく似ていない。カタルーニャ政府を率いる政権党は自由経済を主張する保守だし、彼らと一緒に独立を主張しているCUP(カタルーニャ人民連合)は社会主義、PSOE(スペイン社会労働党)よりももっと過激で言わば共産主義に近い。だからもし新しい国が誕生すれば、どういう国にするかで激しい議論になるのは間違いない」

カタルーニャ自治州の前首相カルラス・プッチダモン。カタルーニャ自治州による独立宣言の承認を受け、10月28日に中央政府によって任を解かれた

――最後の質問になりますが、もしあなたがこの独立問題を解決できるとすればどう解決しますか? どう解決してほしいですか?

 「最善の解決策は、2つの政府が合意しみんなが投票できる真の住民投票をすることだ。たぶんそうはならないが……。そのためには様々な条件をつけなくてはならない。最低限の投票率や何%の賛成で可決するか、どちらが勝っても今後50年間は再投票をしないなどの条件だ。『今回は勝てなかったが、来年もう1回挑戦しよう』なんて状況を避けるために住民投票の繰り返しは長期間禁止しなければならない。

 それと重要なことは、住民投票がどんな結果になってもそれによって誕生する社会が誰も排除しないこと。もしカタルーニャ共和国が誕生したら、カタルーニャ人ではないと感じる人たちを排除すべきではない。スペイン人だと感じている人たちを軽蔑したり、無視したり、差別したりすることはあってはならない。同様にもし独立主義者が敗れた時は、彼らがスペイン政府によって犯罪者扱いされることはあってはならない。

 住民投票の結果がイエスでもノーでも、私にはさほど重要ではない。大事なのは、その結果できる社会の方。みんなが幸せに生活できるものであれば良いと思う。投票に敗れた方に敗北感を味わわせるべきではない。『私は生まれてこの方独立賛成だったのに敗れた』。でも君は敗北者ではない。『私は独立反対なのに今望まない国に住まねばらない』。違う。君が敗北者とならないような努力をみんなでしよう。これが私にとって最も重要だ」

10月1日、独立投票では武装警官と住民との間で多くの衝突が起こり800人を超える負傷者が出た。また、同日カンプノウでのバルセロナ対ラス・パルマスは異例の無観客開催となった

――あなたは独立に賛成ですか? それとも反対?

 「現時点でスペインの様子を見れば、もし明日、独立の意思を問う住民投票があれば賛成に票を投じざるを得ない。でも、もし明日新しいスペイン政府が誕生し、『すべての民族が公平だと感じる、すべての文化が認められるスペインを作ろう』と言えば、もしそれが真剣なプロジェクトであれば『このスペインに住もう、住みたい』と間違いなく言うだろう。

 しかし今、そんなに楽観的にはなれない。なぜなら、スペインの4大政党の中で似たような考え方をする唯一の政党はポデモスだが、彼らが選挙に勝って政権を握るのは極めて困難だからだ」

――いずれにせよ、暴力のない解決を祈っています。今日はどうも貴重なお話をありがとうございました。

■プロフィール
ÁXEL TORRES
アクセル・トーレス

30歳半ばにしてスペインで一、二を争う海外(スペイン外)サッカーの権威。ラジオ、新聞を経て現在、サッカーチャンネル『be-INSPORTS』で司会、コメンテーターを務める。

Photos: Getty Images

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Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。