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『カルチョ再生計画』から見えたJリーグの近未来

2017.01.20

 「我われはW杯が与えてくれたチャンスを逃した。世界のスタジアムが向かっている方向、すなわちサッカーと他のスポーツをはっきりと分離するという方向を理解しないまま、ただお金を注ぎ込んだ」

 「スタジアムはより快適で、もっとファミリー層を受け入れられる設備を整えていかなければならないんです。ドリンクスタンドがあり、ショップがあり、レストランがあり、小さな子供たちが楽しめるようなスペースがあるような環境です。ところが残念ながら、ほとんどのスタジアムは自治体の所有物になっていて快適ではなく、あまりにも古過ぎます」

 この言葉を聞いて日本サッカーとJリーグの話だなと思った人もいるかもしれないが、そうではない。前者は『スカイ・イタリア』オピニオニストのパオロ・コンドー氏の言葉であり、後者はかつて鹿島アントラーズでも活躍し、パリ・サンジェルマンのスポーツディレクターなども務めた元ブラジル代表MFレオナルド氏の言葉である。ともにイタリアサッカーとセリエAに対する発言だ。

「嘆き」に感じた妙なシンパシー

 『カルチョ再生計画』と題されたフットボリスタ第41号の特集は、イタリアサッカーの病根をあぶり出すような内容が巻頭から盛りだくさんである。彼らのサッカーに対するプライドの源が、もはや「戦術」しかなくなっている現実を突き付けられるようで、90年代に『WOWOW』のセリエA放送にかじりついて観ていた一人としては非常に寂しい限りだ。イタリアサッカーの戦術に関する魅力は、あくまで傑出した選手との対峙の中にこそあったと思うのだが、「セリエAの戦術はこんなに凄い!」と言われたところで、それは戦術的な壁をぶち抜けるようなタレントがいなくなっていることの裏返しなのだ。

 一方で、イタリアサッカーの嘆きに妙なシンパシーも感じてしまった。誠に遺憾ながら、ちょっと僕ら日本サッカーとJリーグの現状に似通った部分があるのだ。

 スタジアムの話は象徴的だ。コンドー氏が「スタジアムにホテルやショッピングセンターが併設するのは普通のことだ。公共施設なのに商売をするのは良くないという似非モラリスト的な考え方は受容できない」と嘆くようなスタジアムの現状は日本のそれと通底する部分があるし、その打破を考えたチャレンジがいろいろな形で始まっている点も日本と共通する(それがうまくいったり、いかなかったりという点でも)。

 そう考えていくと、TV放映権料収入に依存するようになり、その既得権にしがみつくだけになっているクラブばかりだというイタリアの現状は、日本の近未来にも起こり得る怖さを実感させてもくれる。なにせ似ているから。そもそも既得権を広くシェアすることで利害の一致を作り、それを団結して防衛していくことに情熱を燃やしてしまうマインドからして、日本と似た部分がある。

 背景として国自体が衰退傾向にあり、相対的な経済力の後退が起きているという点でも、抱えている課題やそこに至った理由が同じとは言えないものの、起こっている現象としては似通ったものがある。読みながら「痛み」を感じたのも一度や二度ではない。

育成」が抱える共通の悩み

Calcio&J-sub

 個人的には「育成」に関するイタリアの現実の話も大変に興味深かった。元イタリア代表FWデル・ピエーロの昔話からインテルの育成責任者であるロベルト・サマデン氏までが語る内容は、なかなかに生々しい。

 「この20~30年で子供が日常的に身体活動を行う機会は明らかに減少している。私たちが子供の頃には、学校から帰って来た後は日が暮れるまで毎日外でボールを蹴っていたものだが、今やそういう場所は減ってきているし、また子供をそういうふうに外で遊ばせておくことのできない社会になってしまった。(中略)基礎的な運動能力やコーディネーションのレベルで、イタリアの子供たちの平均レベルは明らかに下がっている。おそらく日本もそうだろうけれどね」(サマデン氏)

 また「日本と同じ」話である。ストリートサッカー主体(日本でも、かつてはチームに所属するのは小学4年生からなんてことが一般的だった)の時代が終わり、日本でもサッカースクール文化が花開いた。そこでは貧富の格差による「そもそもサッカーを始められるか」という段階からしての開きを生んだし、大人の監視の下で行われるサッカーは遊びの要素も戦いの要素も乏しくなり、ある種の弊害が存在している。

 サマデン氏は「Bチームのリーグ戦への登録」がスペインやドイツのように進まなかったこともイタリアの育成が停滞した要因として挙げているが、この点に関しては昨年からJ3にガンバ大阪、セレッソ大阪、FC東京のU-23が参入した日本がちょっとばかりマシかもしれない。面白いのは年代別代表の改革まで日本と似ていることで、イタリアが6年前から手をつけたという「U-15からU-21まで統一したプレーコンセプトとプレーモデルの導入、それに合わせた監督人事」は、日本でも2年前から始まっている施策である。

 特集の最後を締めくくるコラムでベテランジャーナリストの片野道郎氏は「逆境でこそ輝くのがイタリア」とした上で、ネガティブな現状とピッチでの惨状が、逆に未来への歩みを早める力になる可能性を挙げた。これもまた、AFCチャンピオンズリーグで勝てなくなり、W杯で惨敗したことから、変革の必要性をシェアするようになった日本の現状と通底するものがあるかもしれない。

 願わくは「逆境に強い日本」でありたいところであるし、そこに向けてどう改革するのかという意味においても、イタリアに学ぶものは(反面教師含めて)大いにありそうだ。

Photos: Getty Images

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Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。