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「10代が長文を読まない」はウソ。長文で若者を虜にするUUの戦略

2017.06.01

急成長イタリアサッカーメディアの創始者が語る

「WEBでは長文は読まれない」がもはや常識となりつつある中、長文コンテンツばかりを取り扱い注目を集めているスポーツ総合WEBマガジンがイタリアにあることをご存知だろうか。なぜこの時代にあえて長文にこだわり、そして受け入れられたのか。創始者であるティモシー・スモールに誕生の経緯から急成長の理由、今後の展望まで大いに語ってもらった。

L’Ultimo Uomo|ウルティモ・ウオモ(イタリア)

http://www.ultimouomo.com

──『ウルティモ・ウオモ』(以下『UU』)のフォーマットは、WEBマガジンとしては非常に珍しいものだと思います。ほぼすべて長文の記事だけで成り立っており、しかも分析・考察とストーリーが大部分、ニュースや情報だけの短い記事は一切ないし、オピニオン的な記事も少ない。こういうWEBマガジンをイタリアで始めようと思った理由、状況認識はどういうものだったのでしょう?

 「共同創始者のダニエーレ・マヌシアと私が以前から作りたいとイメージしていたものを、そのまま形にしたという部分がかなりあります。私は2006年から2012年まで、サブカルチャーWEBマガジン『バイス』(注1)イタリア版の編集長をしていたんですが、それも含めてずっと雑誌畑で仕事をしてきました。ダニエーレもフリーランスのライターとして『バイス』にサッカーの記事を寄稿していました。

 イタリア版の立ち上げから編集長として関わっていた『バイス』を辞める頃に私が思っていたのは、イタリアにはこういうタイプ、つまり分析やストーリーなどの長文を扱うようなスポーツジャーナリズムのマーケットが、大きな空白地帯として残っているということでした。アメリカ、イギリス、ドイツなどでは、こういうタイプの雑誌やサイト、取り上げるテーマについて腰を据えて分析したり考察したりするメディアがすでに存在していましたが、イタリアにはなかったんです」
注1:1994年にニューヨークで創刊されたサブカルチャーマガジン。現在はWEBメディアとしての展開が主体で、世界24カ国のエディションを持つ

──ただ、サッカーが文化として定着し、マーケットが成熟しているイタリアで新しいことを始めるのは容易ではありません。

 「私は以前から、イタリアには大衆レベルで凄く進んだスポーツ文化があると思っていました。人々はみんなスポーツ、とりわけサッカーをよく知っている。よく『イタリアには5500万人の代表監督がいる』と言われますよね。実際私たちはみんな、テレビでコメンテータが何か言うたびに、なんて間抜けなことを言っているんだと内心思う。自分の方がずっとよくわかっていると考えているんです。バールに行ってテレビで試合を見ていても、誰もがそれぞれ一家言持っていますからね。イタリアで一番読まれている新聞は『ガゼッタ・デッロ・スポルト』、スポーツ新聞です。スポーツ、サッカーについての知識欲は大きいのです。

 にもかかわらず、長文で掘り下げた分析を扱うメディアはまったく存在していなかった。ポール・ポグバが昨日の試合でどんなプレーをしたかという技術・戦術的な分析だけではなく、ポール・ポグバとはどんな人物なのかというストーリーテリング、アメリカ的なスポーツライティングも含めてね。長い記事を専門的に扱うことで、テクニカルで専門的な世界と、文学的にスポーツを語る世界を一つに統合したメディアが成立し得るはずだと思ったんです」

──なぜ紙ではなくWEBで?

 「WEBマガジンならば紙メディアとは違って、常にすべての記事が閲覧できる一つのアーカイブとして機能しますから、“ブレーキングニュース”や“トレンディングトピック”ばかりを追う必要はありません。1年後に読まれてもいいような内容の記事を載せることができる。

 『UU』は当初、スポーツとポップカルチャーを両方取り上げていました。大きな影響を受けたのは、アメリカの『グラントランド』(注2)というブログマガジンです。そこでは、あるテレビ連続ドラマについての長いテキストと、バスケットボールについてのテクニカルで専門的な長い分析が当たり前のように同居していました。読んだ後には何かを学んだような充実した気持ちになれる記事です。私は『グラントランド』の大ファンだったので、そのイタリア版にあたるようなWEBマガジンを作ってみたかった。そうやってスタートした後、2年前にポップカルチャーの部分を分離して『プリズモ』というWEBマガジンを創刊したので、今の『UU』は純粋にスポーツに関する長い分析や考察だけで成り立っています。今後の目標は、長文形式だけでなくさらに別のタイプのジャーナリズムにも枠を広げてより多くの読者を獲得し、イタリア最高のスポーツマガジンになることです」
注2:2011年から15年までアメリカの『ESPN』が運営していたスポーツとポップカルチャーをテーマにしたブログマガジン。主宰していたビル・シモンズは現在、『ザ・リンガー』という別のWEBマガジンを運営中

──『ウルティモ・ウオモ』(最後の1人=オフサイドラインの基準となるDFのこと)という名前を選んだ理由は?

 「最初にいくつかの名前を考えました。『L’Avversarioアッベルサリオ』(敵)とか『Rigoreリゴーレ』(PK)とか。最終的に『UU』という名前を選んだのは、その名前に込められたコンセプトが気に入っていたからです。『UU』というのは最後の一線を守る存在であり、最も困難な状況における最後の頼み、最後の希望ですよね。ファウルを犯せばレッドカード、抜かれたらゴールを決められてしまう。もしその状況を救うことができれば、試合そのものを救うことになるかもしれない。私たちもそういうふうに、良きジャーナリズムを最後の一線で救う存在になりたいということです。ちょっと傲慢な考えだということはわかっていますが、『ウルティモ・ウオモ』という名前がその響きも含めて気に入ったんです」

広告に頼らないビジネスモデル

企業のデジタル戦略を専門にするコンサルティング会社の傘下に入った

──最初はどういう体制でスタートしたのですか?

 「そもそも私たちは、スポーツについて書く仕事をしている7、8人のグループに過ぎませんでした。『ガゼッタ』のようにメジャーなスポーツメディアでは300人が働いていて、それぞれのチームに番記者を張り付けて毎日50~60のニュースを配信しています。私たちがそれに対抗することは不可能です。でも私たちは、長い文章を書いて掘り下げるアメリカ的なスポーツジャーナリズムに対する情熱を持っていた。そしてイタリアにはまだそれがなかった。自分たちが書きたいものを書くことが、同時にビジネスチャンスにもなり得るという状況だったわけです。実際始まりは、私たち自身が書きたい記事、読みたい記事を発表していくためのWEBサイトを作ろうということしかありませんでした。最初の何カ月かは収入も一切なかった。その後最初の広告主を見つけて、そこからやっとビジネスとして動き出したんです。スタートした最初の月は2万7000ページビューしかありませんでしたが、先月は150万ページビューまで行きました。2年間でこれだけ伸びたというのは信じられないことです。

 創刊当時にも、WEB上には似たようなコンセプトのブログがいくつも登場していましたが、そこからさらに大きなメディアになる可能性を持っているわけではありませんでした。私たちが少し違っていたとすれば、それはWEBメディアを作り運営するパブリッシャーとしてのノウハウを持っていたことでしょう」

──サイトには広告が入っていませんが、運営資金はどうやって調達しているのでしょう?

 「ページビューが伸びて行くにつれて、いくつかの出版社が『UU』に関心を示してくるようになりました。でも私はちょっと別の、見方によっては普通ではない決断を下しました。出版社やメディアグループではなく、企業のデジタル戦略を専門にするコンサルティング会社の傘下に入ったんです。『アルケミー』という名前で、企業のデジタル戦略をあらゆる角度から支援する会社です。今企業のデジタルコミュニケーションにとって最も重要なのはストーリーテリング、つまり“物語”ですよね。私たちはその部分を担うセクションとして『アルケミー』に吸収されました。

 『UU』は、『アルケミー』がこの分野で何ができるかという一つのサンプルとして機能しています。会社から『UU』に求められているのは、直接利益を生み出すことではなく、クオリティを生み出すことです。上から、あるいはクライアントからああしろこうしろと言われることなく、私たちが作りたいものを作る。そしてそれをサンプルとして企業にデジタルコミュニケーションのプロジェクトを売り込んで、利益はそこから生み出します」

──広告収入に頼らないビジネスモデルが確立しているわけですね。

 「そうです。ただ、その一方で『UU』としてもいくつかの広告クライアントを持ち、売上を上げてもいます。『UU』が凄い勢いで成長する中で、一定の読者層を獲得しメディアとしての信頼も高まってきました。その流れで、アディダス、スカイ・スポーツ、ナイキ、コカコーラといったクライアントから、彼らの広告やメディアのために記事を書いたり、あるいはネイティブアド(記事広告)を作って『UU』に掲載したり、重要な試合がある時に彼らのTwitterアカウントでライブツイートをしたり、といったデジタルコミュニケーションの仕事を請け負うようになりました。『UU』は日々売上を上げることを求められてはいませんが、その点でも成長する可能性を持っていると思っています」

──『アルケミー』の傘下に入るという決断を下したのはいつですか?

 「スタートしてから16カ月目です。1年目は、最初の大口クライアントになってくれたアディダスの予算で何とか運営していましたが、十分とは言えませんでした。というのも、多くのスポーツブログが原稿料を支払わないボランティア方式で運営されているのに対して、『UU』はすべての記事に対価を払うという方針を最初から持っていたからです。単なる趣味としてではなく、一つの仕事として成立することが私にとっては非常に重要でした」

WEBならではの表現法

YouTubeに行けば見られるゴールを描写することにもはや意味はない

アレグリの戦術を分析した記事。ピッチ上の戦いが高度になればなるほど分析サイトのニーズは高まっていくはずだ

──メディアとしてのあり方が旧来のスポーツジャーナリズムとは明らかに違っていますよね。書き手の選択やサイトの作りなども含めて、カルチャーの側からスポーツにアプローチしたという印象を受けます。

 「ええ。ジャーナリストだけでなくブロガーや小説家からプロのアナリストまで、いろいろ異なった視点を一つのメディアの中に入れたいと思っていましたから。言ってみれば、『UU』が目指しているのは『ガゼッタ』がやらないことをすべてやることかもしれません。『ガゼッタ』には、風刺的でコミカルな記事も、長文の技術・戦術分析記事も、長いストーリー記事もないし、ポップカルチャーについて取り上げることもありません。『UU』はそれを全部やっています。

 とはいえ、最近は時事的な内容も少しずつ取り上げるようになってきています。当初は編集兼ライターが5人、アートディレクターが1人でスタートしましたが、今はずっとたくさんのスタッフがいる。ディレクター(編集長)のマヌシアとエディトリアルディレクターの私に加えて、編集キャップ、サッカー、バスケットボール、野球それぞれの担当チーフ、さらに編集部員がミラノとローマ、合わせて10人ほどいますから。物理的には、ミラノのオフィスに私を含めて3人、ローマのオフィスにマヌシアを含めて3人が常駐していて、残りのスタッフは自宅からリモートワーキングしています。私は『UU』だけでなくいろいろなプロジェクトを抱えて進めていますが、マヌシアはローマのオフィスで『UU』だけに集中しています。彼はローマ生まれのローマ育ちなので、私たちはそれぞれ別のネットワークを持っていました。それが『UU』にとってはプラスになっています。それぞれのネットワークからより多くの有能な書き手を巻き込むことができますから。今では延べ400人の書き手が『UU』に寄稿しています」

──『UU』の記事は、動画やSNSの埋め込みを積極的に使うなど、WEBマガジンというフォーマットを効果的に活用していますよね。長文というフォーマットだけではなくマルチメディアを駆使したアプローチというのも、それまでイタリアにはありませんでした。

 「旧来的な紙のジャーナリズムのやり方は、我われから見ると今や奇妙に思えることも少なくありません。例えば、ゴールの場面がどんなふうだったかを文章で細かく描写する。でも今は、それが知りたかったらYouTubeに行けば見られることを誰でも知っていますよね。だから、もうゴールを描写することにはあまり意味がないんです。その一方で、WEBマガジンというフォーマットを使いながらマルチメディアを積極的に活用しないということ自体、無意味なことですよね。だからインターネットの可能性を最大限に活用することは常に意識しています。あるサイトを見に行って、そこには1枚の写真とテキストだけしかなかったら、体験としては紙のメディアを読んでいるのと変わりません。WEBマガジンで動画を活用しないというのは、ラジオからテレビになった時に映像を使わないのと同じでしょう。戦術を説明する時には写真だけでなくgifのショートフィルムやYouTubeの動画も多用しますし、TwitterやInstagramも記事の中にどんどん埋め込みます。戦術分析の記事にとって動画は根本的な重要性を持っていますし、ストーリーテリングにおいても動画やソーシャルネットワークのポストを効果的に使うことで理解を深めたりより強い共感を作り出したりすることができます」

「若者の文章離れ」はウソ

『UU』の読者の40%が18~24歳80%の読者が35歳以下だった

──スタートから2年あまりが過ぎた今、『UU』のマーケット、読者はどんな構成になっているのでしょうか。

 「今『UU』の読者は毎月10~15%のペースで増え続けています。当初はそれが10万人から11万人、1万人増ということだったわけですが、今は120万人から140万人へ、1カ月で20万人増えている計算です。とはいえ、我われのマーケットには限界があります。『UU』はイタリア語のメディアなので読者はイタリア人にほぼ限られます。英語のメディアなら、世界中に30億人の潜在読者がいますし、日本にしても人口はイタリアの倍以上いますよね。イタリアの人口は5500万人で、しかもその何割か、とりわけ高齢者はインターネットにアクセスすらしません。ネット人口は2000万人というところでしょう。そのうちスポーツに興味があるのは、まあ半分としましょうか。その1000万人の中で、『UU』が取り上げているような記事を興味を持って読んでくれる人はどのくらいいるか。おそらく半分以下でしょう。イタリア人の中で、読むことを習慣にしている人はあまり多くありません。マーケットが言語と人口という条件に制約を受けているわけです。

 というわけで、近いうちに英語の記事も載せていくように準備しています。我われの記事、とりわけ技術・戦術分析はすぐに英語に翻訳できますし、例えばマンチェスター・シティのサッカーを分析したクオリティの高い記事があるならば、イングランドのファンも喜んで読んでくれるでしょう。中国やインドや日本にも読者を広げることができるはずです。新しい読者を開拓する上で英語版への展開は必然だと思っています。でもそれ以上に、イタリアで成長を続けたい。しかしそのためには、今までやってきたことをそのまま続けるだけでは不十分です。例えば、毎日1万5000字の長文記事を5本更新しても、読者にはそれを全部読む時間がないでしょうから」

──最近サイトのデザインを一新したのもそれを意識してのことですか?

 「ええ。2カ月前から、比較的短い記事も上げやすいようなデザインに変えました。実際、それ以降は短い記事もどんどん更新するようになりつつあります。ちょうど先週の日曜日から、メールで配信する週刊のニュースレターもスタートしました。ポッドキャストも近いうちにスタートします。これまでのやり方を掘り下げるよりも、幅を広げていくべき時期にさしかかっているということです。ラジオで番組を持つ構想もありますし、紙の本も作り始めました。今回のEUROに合わせて作った分厚いガイドブックがその第一弾ですが、販売が好調で2週間で3刷まで行きました。9月と12月にも書籍を出す予定です。高いクオリティと信頼性を持ち、権威がありながらも楽しめるスポーツマガジンという『UU』のアイデンティティを守りながら、コンテンツを提供するチャンネルをインターネットの外にも広げ、より多くの人々に届けていこうというのがこれからの戦略です。ラジオがそうですし、テレビの可能性もあるかもしれません」

──現時点でのページビューやユニークユーザー数を教えてください。

 「今は月間150万ページビュー、ユーザー数はおよそ70万人というところです。これはWEBマガジンとしてはなかなかの数字ですし、『UU』の内容からすれば凄くいい数字だと言えるでしょう。誰でも読める軽くて短い記事を載せているわけではありませんからね。この数字をもっと伸ばしていきたいと思っています。『UU』のようなメディアというのは、ある種教育的な機能も持っています。若い読者がたまたま、イブラヒモビッチの髪形についての記事を見つけて『UU』を読むようになって、そのうちに戦術の分析に情熱を見出すことになるかもしれませんよね。そういうきっかけになり得る。今、サッカーを風刺的な切り口で取り上げているいくつかのFacebookページ、例えば『Calciatori brutti』には100万を超える『いいね』がついています。『UU』は10万以下ですからね。でも、我われの読者はロイヤリティが高い。『UU』を一度好きになった人はそれこそ毎日、長い時間『UU』に張りついています。そういう読者が数十万人いるというのは大変なことです。これからもっとチャンネルを増やして読者を広げていきたいとは思っていますが、そういうコアな読者は大事にしていかなければなりません。数は多くないかもしれませんが、本当のファンですからね」

──年齢層など読者の内訳はどうなっていますか?

 「面白い話があります。『UU』を立ち上げてスポンサーを探すために大手のスポーツウェアメーカーに営業に行った時、面白い企画だけど読者層は30歳以上だね、若い連中は文章を読まない、動画しか見ないから、と言われました。マーケティング部門のトップがそう言うんだから、きっとそうなんだろうと思いました。ところが、実際にスタートしてみると、『UU』の読者の40%が18~24歳だったんです。40%ですよ。さらに40%が25~35歳です。合わせて80%の読者が35歳以下だったんです。そして他のサイトとは違って、私たちは残る20%の成熟した読者も持っています。潜在的には『UU』のコンテンツに向いてはいるんですが、インターネットとの親和性が低いのでWEBマガジンというフォーマットではリーチできない。例えば私の父は65歳ですが、インターネットを使いこなしているとは言えません。一方若者にとってインターネットはもはや体の一部のようなものです。驚かされたのは、ティーンエージャーの中にも長くて難しいテキストを進んで読む層は決して少なくないということです。

 スポーツジャーナリズムだけではなくジャーナリズム一般について言えることですが、一般大衆は知性が低いと決めつける傾向が強い。これは大きな間違いだと思います。メインストリーム向けのプロダクトはバカにでもわかるものでなければならない、という考えが強過ぎる。コミカルだったり、馬鹿げていたり、軽薄だったり、“トラッシュ”なものでないと売れないというね。その一方で、知性の高い人々に向けたプロダクトは高尚で知的でアカデミックでなければならないとも考えられている。しかし実際には、60歳のインテリ紳士も時にはトラッシュなものを求めるし、Tシャツをだらしなく着て歩いている18歳も時には知的なものを求めるのです」

──マーケットの現実はそうした先入観やステレオタイプとは大きくズレているということですね。

 「ええ。大事なのはそういうステレオタイプに惑わされず自分の信じるものをしっかり作ることだと思います。読者は多いかもしれないし、少ないかもしれない。でも間違いなくそこにいるのです。若者をターゲットにしたポップなメディアなのだから、軽薄でコミカルなことをやるというようなアプローチは避けるべきです。それは、受け手はバカだと最初から決めつけるようなものです。逆に、誰にも理解できないくらい難解な文章が書かれた、誰にも読まれたくないような雰囲気を醸し出しているブログも私は好きではありません。知的なコンテンツとポップなコンテンツがごく自然に共存しているような場所を作りたかった」

編集長のダニエーレ・マヌシアが『スカイ・スポーツ』に出演。『UU』は大手メディアに認められる権威になりつつある

──多種多様なものを共存させる考え方のルーツは紙の雑誌ですか?
「私は月刊誌の世界で仕事をスタートしました。『バイス』はもともと月刊の雑誌ですからね。しかしイタリアには歴史的に、月刊誌というカルチャーがあまり育っていきませんでした。メジャーな雑誌はほぼすべてが週刊誌で、それと日刊の新聞がジャーナリズムを担っています。私は半分イギリス人だということもありますし、月刊誌の世界にいたこともあって、アメリカの月刊誌が好きでたくさん読んできました。中には凄く長くて面白いスポーツの記事が必ずあって、いつか私もこういうことがやりたいと考えていました。でもイタリアでは、読者は長文の記事なんて読まないし読みたがらないというのがジャーナリズムの世界の通り相場だったんです。でも、読む機会を作らずにどうしてそう言い切れるんでしょう。
例えば私は、マッツァーリ時代のナポリについての非常に長くて興味深い記事を、アメリカの雑誌で読んだことがあります。それを書いたのはオクラホマシティに住んでいるアメリカ人のライターでした。イタリアにはこういうものを書ける記者やライターがいないのか?そんなことはない。山ほどいますよ。でもイタリアのジャーナリズムは記者たちに、明日の朝出る新聞に載せる短い記事を書くことばかりを求めてきた。じっくりと掘り下げて考察するようなテキストは書く機会がなかったんです。私はイタリアのジャーナリストがイギリスやアメリカよりも劣っていると思ったことは一度もありません。ただそういうタイプの文章を書く機会、発表する場所がなかっただけです。じゃあそういう機会と場所を自分たちで作ろうというのが、私たちが『UU』をスタートした動機の一つです。
これは非常に『バイス』的なアプローチです。どうすればいいかわからない?だったらとりあえず始めてみてやりながら覚えよう、というね。『バイス』のイタリア版で『バイス・ビデオ』を始めた時、私はビデオの作り方なんて何も知らなかった。でもとりあえずセクションを立ち上げて、自分でも作り方を勉強しながら始めました。『UU』も基本的には同じです」

──『バイス』での経験があらゆる面で生きているわけですね。

「私にとってはジャーナリズムの学校でした。あそこには8年間いました。イタリア版をゼロから立ち上げて育てた経験、そしてその過程でたくさんの雑誌を読みまくってそこから学んだことが、今の私を作ったと言えるでしょう。ジャーナリズムに携わるなら、あらゆる新聞や雑誌に目を通してそこから知識やビジョン、価値観を得たり築いたりしていくことがとても重要です。まったく畑違いの、例えばドイツの料理雑誌からだって、情報の見せ方や写真の使い方、レイアウトなどで学ぶことがあるかもしれない」

デジタル時代の大きな波

中小規模の集団の方が新しいイノベーションを生み出しやすい

──ここまでの歩みの中で直面した最大の困難は?

 「こういうタイプのプロジェクトにとって、一番大きな困難は『続けること』そのものだと思います。そこには経済的な問題も絡んできます。そういう問題もクリアして、もしある一定の期間存在し続けることができたとしたら、それだけですでにその国における文化の一部になっている。そういう存在として認められるところまで来れば、読者、チャンネル、スポンサー、そしてお金も自然と集まってくるはずです。多くのメディアプロジェクトは、1、2年で潰れていきます。今言ったような意味で一つの位置を占めるためには、少なくとも3年は続かなければならないと思います。5年続けばそれなりのエスタブリッシュメントになれる。その意味で、最大の困難はどうやって潰さずに続けていくかという道を模索していた時期にあったと言えるでしょう。思ったほどの結果が出ないとか、経済的に厳しいとか、問題は次々とやって来る。それを乗り越えるために模索しながら続けていた時期がありました」

──やはり一番のターニングポイントは、『アルケミー』と組むと決断したことですか。

 「そうですね。その頃が一番難しい状況でした。当初は支払っているギャラも不十分でしたが、それでもスポンサーからの収入だけでは回らなくなってきていました。続けていくためには、『UU』というプロジェクトを支えてくれる誰かを見つける必要がありました。そして『アルケミー』を見つけたというわけです。ただ、決断は簡単ではありませんでした。メディア企業ではなくデジタル企業の一部になるというのが正しい選択かどうか、100%確信があったわけではありません。実際少なくともイタリアでは誰も試したことがないソリューションでした。あと2カ月粘ればもっといい買い手が見つかるかもしれないという思いもあった。そういう迷いの中で、周りを、そして私自身を納得させなければならなかった。でも結果的には、これは凄く幸福な決断だったと言えます。『アルケミー』は『UU』というプロジェクト、そして私たちを強く信じてくれて、常に大きなサポートを与えてくれています」

──『アルケミー』の中ではどのようなポジションにあるのでしょう?

 「社内にアルケミー・コンテンツという新しい部門を作り、私がその責任者として加わりました。社員ではなく役員という立場です。『アルケミー』のクライアントに対してデジタルコミュニケーションのコンテンツを提供するという業務を担っています。ネイティブ広告の記事を作ったり、企業アカウントのSNSやブログを運営したり、新しいブランデッドコンテンツを一から作ったり、そういう仕事です。『UU』に関して、私は今はエディトリアルディレクターという立場で、サイトの方向性を決め、最近のデザイン変更のようなプラットフォーム作り、他のチャンネルへの展開を進めるなど、戦略的な部分を担っています。具体的な編集作業は編集長のダニエーレ・マヌシアが仕切っています」

──資金的にはどのような仕組みになっているのでしょう?

 「『アルケミー』は『UU』に対して年間の予算をつけており、それを私たちが自由に使ってプロジェクトを運営しています。その大部分は原稿、イラスト、写真などに支払うギャラとして使われています。WEBマガジンのいいところは、紙や印刷といった部分にコストが一切かからないことです」

──具体的な予算の金額を教えていただけますか?

 「それはお答えできかねます。たっぷりあるとは言えませんが、『UU』というプロジェクトを納得できる形で進めていくには十分とだけ言っておきましょう」

──最後に、今後の『UU』のビジョンを聞かせてください。

 「未来を予測することは簡単ではありません。とりわけデジタルの世界では。インターネットはすべてを変えてしまった。ビデオにしても、かつてフォーマットは必ず横長だったけれど、iPhoneが生まれて何年かしたら縦長のフォーマットが当たり前になりました。テクノロジーがプラットフォームまで変えてしまうんです。私たちにできるのは、そうした変化をいち早く読み取ってそれに対応していくことだけです。2年後にはまた何か新しいテクノロジーが出てきて、すべてが変わってしまうかもしれない。これはジャーナリズムだけでなくデジタルの世界全体に当てはまることですが、大事なのは変化に対応できる体制を常に保っていることです。現実を偏見のない目で見つめ、変化には素早く、そして躊躇(ちゅうちょ)なく対応してこちらも変化する。旧来的な雑誌のほとんどは、インターネットが生まれてから10年、ほとんど何もせずに過ごしてきました。そして自分の足下が危うくなってから慌てて付け焼き刃的な対応に走った。とはいえそれは彼らだけの責任ではありません。図体の大きな出版社の動きが鈍いのは仕方ないことです。半年や1年でそれまでの仕組みをすべて変えることは不可能ですからね。タイタニック号を旋回させるようなものです。

 旧来的なジャーナリズムの世界で私が嫌いなのは、コラボレーションがとても少ないことです。似たようなメディアなのにライバル関係ばかりが強くて、みんな横並びで同じことをやって、小さな違いに一喜一憂している。ですから重要なのは身軽であること、変化に素早く対応できること。その意味では中小規模の集団の方が、新しいイノベーションを生み出しやすいと言えるでしょう。実際に今でも、私たちが立ち上げた当時の『UU』のように、新しくて興味深い動きを見せているところは少なくありません。大きな資本を持つ大手がそうした動きに気付いて、それをサポートしたり取り込んだりしていくようになってほしいと思っています。『UU』に関して言えば、今よりもずっとずっと有名で権威あるメディアになってほしいと願っています。イタリアでスポーツジャーナリズムと言えば、『ガゼッタ』と『スカイ・スポーツ』と『UU』が人々の頭に浮かぶようになりたい。野心的な目標ですが、不可能ではないと思っています」

──10年前には影も形もなかった『バイス』のイタリア版が今では若い人たちのバイブルになっているわけですから、まったく不可能ではないと思います。

 「その経験が私の野心の支えになっている部分はありますね。小さな現実を成長させていくやり方は、それなりに知っているつもりです。まずは潰さずに続けることが何よりも大事ですけどね」

──もうその心配はないでしょう。

 「まあね(笑)」


■プロフィール
Timothy Small
ティモシー・スモール

『ウルティモ・ウオモ』エディトリアルディレクター

ミラノ出身。イギリス人の父とイタリア人の母を持つ。2004年からロンドンの『バイス』に就職し、翌年帰国しイタリア版の立ち上げを任される。06年の創刊から12年に編集長を降りるまで、WEBマガジン、動画部門、ブランデッドコンテンツ、ネイティブ広告、月刊のペーパーマガジン、ブログなど、現在のフォーマットとチャンネルをすべて手がけた。当初3人だったスタッフは50人にまで急成長。その後ミラノレビューという会社を立ち上げてWEBマガジン『ウルティモ・ウオモ』を創刊し、今は企業のデジタル戦略を専門にするコンサルティング会社『アルケミー』の役員も兼任する。


Photo: Orsola Sofia Giunta

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。