SPECIAL

植木理子のイングランド挑戦4カ月。「自分の良さ」で「勝負できる」実感を胸に【現地取材】

2024.01.17

準々決勝で涙を呑んだ女子W杯から1カ月後の昨年9月、全5試合に出場して2ゴールを挙げた日本代表の背番号9、植木理子のウェストハム・ウィメン移籍が発表された。アカデミー時代の2012年から所属する日テレ・東京ヴェルディベレーザを離れ、初の海外挑戦を選んだ昨季WEリーグ得点王(19試合14得点)は、イングランドの地でどのような成長を遂げているのか。ここまで公式戦13試合3得点、なでしこジャパンのチームメイトでもある清水梨沙、林穂之香(いずれも2022年夏に加入)とともに“異国”で奮闘中の24歳を、ロンドン在住の山中忍氏が現地で取材した。

“らしさ”を披露しにくい「ハードワーク集団」の一員として

 1月14日の女子FAカップ4回戦、“なでしこトリオ”が先発したウェストハム・ウィメンは、延長戦でチェルシー・ウィメンに敗れた(●3-1)。内容的には、敵地で格上を相手に善戦したと言える。チェルシーは、ウィメンズ・スーパーリーグ(WSL)とFAカップの昨季2冠王。今季のリーグ順位も、10試合を消化して11位(勝ち点5)の自軍に対して、向こうは首位(同25)。にもかかわらず、ボールは支配されても決定機はなかなか作らせず、70分までは虎の子の1点リードを守っていた。チーム力の差を得点差に反映されたのは、延長戦前半の101分以降のことだった。

 この“惜敗”の中では、ともに120分間をこなしたDF清水梨沙とMF林穂之香を含む、[3-5-2]の後方2列の奮闘と同等以上に、前線で80分間ピッチに立ったFW植木理子の姿が今後への期待を感じさせた。

 ウェストハムのレイアン・スキナー監督は「(日本のピッチとは)かなり違う環境なので、少し時間が必要になっても当然でしょう」と、植木が置かれた状況を説明している。ただし、だから現状には目を瞑るというネガティブな意味ではない。自身も昨年7月に就任した新監督は、その翌々月に日テレ・東京ヴェルディベレーザから獲得された新戦力について、「素晴らしい適応ぶりで、プラス材料の1つ」とも言っているのだ。試合後の会見で、移籍後4カ月の評価を尋ねたこの日本人に対するリップサービスでないことは、他ならぬ植木自身のプレーからも理解できた。

 10月の今季WSL開幕で正式に始まった海外初挑戦が、決して易しい道のりでなかったことは事実だ。移籍後の初ゴールは早かった。ヘディングでネットを揺らした第2節ブライトン・ウィメン戦(○0-2)、植木は自らのミドルシュートで先制点のきっかけを生んでもいた。だが指揮官が触れたように、イングランドの女子トップリーグでは「かなりタフなフィジカルバトルや、異なる戦術面での適応」を常に強いられる。翌節からウィンターブレイク直前の第10節まで、リーグ戦8試合で先発を続けたがゴールの上乗せは計2点止まり。白星が途絶えたチームの順位も全12チームの下から2番目へと落ちていった。

……

残り:2,562文字/全文:3,917文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

TAG

WSLイングランドイングランド女子スーパーリーグウェストハムウェストハム・ウィメンなでしこジャパン女子日本女子代表林穂之香植木理子清水梨沙

Profile

山中 忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。

RANKING