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「友情」「努力」はあっても「勝利」がない。徳島ヴォルティス、2023シーズン総括

2023.11.27

ベニャート・ラバイン監督の後を受けた吉田達磨監督体制で残留に成功した徳島ヴォルティスだが、難しい1年を強いられたことは間違いない。今季の収穫と課題、そしてそれを踏まえた今後の方向性とは? チームを追い続ける柏原敏氏に2023シーズンの総括をお願いした。

 シーズン総括としては『“特殊なことをしてはいない”=自然な原点回帰。吉田達磨監督新体制の徳島はどう変化しているのか?』の記事で記載した内容と現在の解釈も大枠は変わっていない。

 ボール保持型を土台にしてきた徳島に、ボール非保持型を志向するベニャート・ラバイン前監督を招聘して新たな開拓を進めようとした。狙いや目的は理解でき、将来的に徳島もきっと向き合わなければならない。ただ、今季に限って言えば効果的に機能はしなかった。

生真面目さゆえに、コインの「表」と「裏」に揺れ過ぎた

 原因を1つに絞ることはできないが、反動で明らかに後退してしまったものは1つに絞れる。

 再びボール保持を主体にした原点へ立ち返ろうとした時にクオリティが下がっていた。ラバイン監督もそこを修正する引き出しは多くなかった。あらためて練度や鍛錬といった日々の継続がどれほど重要なのかを突き付けられた。地味すぎて維持率や成長率は見え辛いが、見え辛いからこそ当たり前だったものを取り戻す難しさを学んだことが今季の収穫と言えば収穫なのかもしれない。

 また、ボール保持に再び向き合い始めたものの、今度は極端にボール保持に固執するような時期も出てきて逆に大胆さや積極性が失われた。

 表か裏に向き合おうとする生真面目さはあったが、コインが転がっている瞬間のような表でも裏でもないファジーな状態は上手に立ち回れなかった。結果、正直すぎて相手は狙いを絞りやすく、同じパターンで失点を繰り返すようになって指揮官交代という結末に至った。その後は吉田達磨監督が降格圏から勝ち点1差で残り11試合という状況で託され、残留の逆算をした整備で来季も再び同じカテゴリーで戦える結果へ導いた。それはプロフェッショナルの仕事だった。

 “成績が悪くても残留はできるだろう”。

 そう思っていた人は一定数いるかもしれないが、シーズンを通して本当にどちらに転んでもおかしくないほどのギリギリだったと思う。

 柿谷曜一朗は早くから危機感を持っていながらも不安を煽るような形にはならないように努めていただろうし、第4節時点で“例年のように夏以降に成熟するか”を問われた西谷和希も「上手くいけば、ですね。上手くいかなかったら逆の可能性もありえるので要注意ではあります」と半分は危惧をしていた。そう思うと収穫や課題やなんぞやらを考察する前に、まずは今だけでも残留できたという喜びを噛みしめていいと思う。仮にそれが当初掲げていた目標とは対極のような結果であったとしても。言葉以上にそれだけ危機的な1年だった。

Photo: TOKUSHIMA VORTIS

明らかな課題は、セットプレーの攻守

 それらの前提はある上で未来に目を向けて考察する。

 まずは明確な課題として、セットプレーの攻守について。

 解決する術は方法論なのか、選手の能力なのか。何だかんだ言ってもフィジカル的な強さがものを言う部分も大きいと思うが、徳島は技術の高さはありながらも小柄なタイプが多い。比較的大柄なCBにも技量が求められ、強靭なフィジカルを武器にしているタイプはいない。これらを仕方がないと割り切るのか、それとも妙案に辿り着くまで追究するのか。

 まずは失点面だが、セットプレー絡みで19失点。総失点に対して約35.8%を占めている。

 シーズン序盤は試合終了間際にセットプレー絡みの失点で勝ち点を失ってきただけに印象値としては最悪のイメージがあった。シーズン途中までは事実としてトップクラスの失点数だった。しかし、意外だったのは最終的な数値はリーグ内で中央値に落ち着いていたこと。イメージが先行していたので意外な実数ではあったが、1年というスパンで見れば修正や改善が図れたと言える。

 主にCKの話になるが、方法論を振り返ると今季はゾーンディフェンスに挑戦してスタートしたが機能しなかった。修正としてマンツーマン+ストーンの比較的オーソドックスな方法に戻し、その直後は機能したように見えたが少しずつ穴が露呈を始めた。最終的に落ち着いたのは高さのある選手をゾーンに配置し、小柄な選手が相手の主要選手にマンツーマンで体を当てるなどしてシュート精度を下げさせるような手法だった。身長差のギャップというマイナス側面は捨てて、全体のバランスで失点を防ぐような言わば確率論で陣形を取った。これらをどう分析して、来季の編成や方法論を選択するかに注目する。

2023シーズンJ2最終節ブラウブリッツ秋田戦では右サイドのコーナーキックから失点を許してしまった(2:28~)

 攻撃面について。

 セットプレー絡みで12得点(内訳はFK5点、CK5点、PK2点)。この値はリーグ最少タイ。文字化するとPK以外で10点入っているが、狙い通りの得点がいくつあったのかという視点で数値は見なければならない。そうなると圧倒的に少ない。

 セットプレーからの得点が少ないことはいくつか切り分けて考えなければいけないと思うが、そもそもCKの獲得数が少ない。これはリーグワースト2位だった。必ずしもCKを多く獲得しなければいけないわけではないので、この数字が良いか悪いかはチームの志向した戦い方とリンクするため是非は問い辛い。

 しかしながら、CK獲得本数が少なくなる現象は思い当たる節がある。相手陣地で奥行きを取れているプレーまで至っている回数が少なく、深い位置からのクロスやシュート数に直結していないからこそ相手に当たってCKを獲得できていなかったように思う。事実、シュート数はリーグワースト3位。相手守備者からすれば自分たちの視野内でボールが動いている場面が多く、後ろ向きの守備を強いられた場面が少なかったり、ゴールを狙われた回数が少なかったのではないだろうか。そうだとすれば脅威を与えられていない。

 そう結論付けるためには他の可能性も探る必要がある。

 CK獲得本数が少なかったのは、外側をブラフにしながら中央で人数をかけて得点を狙おうとしていたのかもしれないと仮定する。それでも総得点がリーグワースト6位ということは、仮に狙いがあったとしても機能はしなかったという立証になる。

 シーズンの振り返りをおこなう際に、システム変更や戦い方や人選の変更が多すぎたがゆえに残された数字が参考材料になり辛い所ではあるが、いろいろな条件を加味していくとセットプレー云々だけでなく根本的な攻撃の改善が必要なのは事実だろう。

「試合に出れるキッカー」を考慮した編成

 次に、それらは棚に上げておいてセットプレーのみに焦点を当てた考察。

 シーズン途中に加入した永木亮太が11試合出場した中でセットプレー絡みでキッカーとして3得点を生んだ。単純計算すると1試合あたり約0.27得点。42試合換算で永木は約11.5得点をセットプレーから生み出せたという期待値になる。当然、シーズンを通した中で想像すると永木のキック以外で得点も生まれるだろうし、PKやスローインなども含めたセットプレーからも得点が生まれる期待値を考えれば悪くはない数字ではある。そう考えるとキッカー次第でリーグ全体の中央値手前までは改善されそうだが、戦い方を考慮しながらそのあたりで手打ちにするのか、もう1つ異なるスパイスを加えて高みを目指すのか。そこは戦い方のバランスも出てくるであろうから検討材料だろう。

 いずれにせよ、キックの質を有した選手を先発候補に組み込められる編成になっているかは課題解決の最優先事項だ。

 素晴らしいキックの質を保有している編成になっていたとしても、サブであったり、ベンチ外であったとすれば数値には反映されない。負傷の影響やチーム内競争も関係するが、おおよそ軸になる選手は想定されて編成が組まれている。そこにキッカーになりうる先発という想定も加味されているかどうか。セットプレーの攻撃面は昨季も15点(内訳はFK4点、CK5点、PK4点)という課題が残り、その主たる原因は今季同様にキッカー不在だった。やはり、今季の永木亮太しかり、過去の藤田征也や岩尾憲や梶川諒太や野村直輝しかり、主力級の選手でキッカーになりうる編成を計算する必要がある。

 ここまでの考察が正解からさほどズレていないとすれば、守備面では比較的小柄な編成になっていたとしても何名かのフィジカルを備えた高さのある選手と方法論が合致すれば失点数は減らすことができるはずだ。攻撃面でも同じく比較的小柄な編成になっていたとしても、主力級選手に質の高いキッカーさえいれば得点の期待値は決して低くはならないとも仮説を立てることはできる。

Photo: TOKUSHIMA VORTIS

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徳島ヴォルティス

Profile

柏原 敏

徳島県松茂町出身。徳島ヴォルティスの記者。表現関係全般が好きなおじさん。発想のバックグラウンドは映画とお笑い。座右の銘は「正しいことをしたければ偉くなれ」(和久平八郎/踊る大捜査線)。プライベートでは『白飯をタレでよごす会』の会長を務め、タレ的なものを纏った料理を白飯にバウンドさせて完成する美と美味を語り合う有意義な暇を楽しんでいる。

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