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濃密な数十ページの物語の結晶。『蹴球ヒストリア』の世界へ、ようこそ

2023.07.28

好評発売中の『蹴球ヒストリア「サッカーに魅入られた同志たち」の幸せな来歴』は、元Jリーグ中継プロデューサーで「最強のサッカーマニア」でもある土屋雅史が、「私がどうしても話を聞きたいと思った」12人の蹴球人の歴史を紐解いた一冊だ。その発売を記念して、本書への想いを込めた「まえがき」を特別公開!

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 以前から少ないなあと思っていた。監督や選手のキャリアをじっくりと振り返るようなインタビューのことだ。この選手とこの選手がこの高校で同級生だったとか、この監督とこの選手はこのチームでも一緒だったとか、もともと”人間相関図”のようなものにかなり興味があり、そういう関係を調べることも好きだった私にとっては、その過程でなかなか濃密なインタビューに巡り合わないなと感じていたのだ。

 ならば自分で聞きに行くしかないと決意し、前職のJ SPORTS でJリーグのプロデューサーを務めていた2015年にアクションを起こした。その週末に中継する担当カードの、どちらか一方のチーム(できればホームチーム)の監督か選手に、「試合への意気込みを語ってもらう」というマッチプレビュー的な”動画”パートの撮影と、そのあとにキャリアの話を伺うという”テキスト”パートのインタビューに応えてもらうため、ビデオカメラとICレコーダーを携えながら、2シーズンに渡って1人で全国を駆け回った。

 我ながらメチャクチャな企画だったと思う。それはスケジュール的にも、予算的にも。たとえば週末の中継カードがアビスパ福岡のホームゲームだった時は、水曜日に福岡まで飛行機で飛んで、雁の巣の練習場で神山竜一のインタビューを行い、木曜と金曜で動画とテキストの編集を進め、会社のホームページにその動画とテキストを掲載して、日曜には中継担当プロデューサーとして再び福岡へ向かった。

 あるいは水曜に広島は吉田サッカー場へと赴き、森﨑和幸のインタビューを敢行。帰京後はすぐさま編集作業に取り掛かり、金曜までに動画とテキスト掲載を完了させた上で、土曜にはエディオンスタジアム広島から、サンフレッチェ広島のホームゲームを視聴者へ送り届けたこともあった。2シーズンでJ SPORTS が中継を行ったJ1の試合数は68。そのすべてに紐づける格好で、監督ないし選手の誰かしらのインタビューをひたすら発信し続けた。よく各クラブが毎回必ず協力してくれたものだと、今になって実感している。

 言うまでもないが、”動画”パートはいわゆる大義名分だ。私の中での本丸は”テキスト”パート。30分近い時間を掛けて、その人が歩んできたキャリアを辿っていくと、やはりすべての人に紆余曲折のドラマがあり、新鮮な驚きもあれば、大いに共感することもあった。そして、知られざるエピソードに触れた各クラブのサポーターからも、好意的な感想を多く戴くことができた。要はその一連がとにかく楽しかったのだ。

 本書はその時の原体験のようなものを、より深く推し進めた形のインタビュー集になっている。2021年にJ SPORTS を退社し、フリーランスの道を歩み出した直後から、『フットボリスタWEB』で監督や選手のインタビューを掲載する機会を与えていただいたが、今回はその中から11人のお話を改めてまとめつつ、新たに日本代表を率いる森保一監督にもインタビューに応えていただく形で、総勢12人の濃厚なキャリアをご紹介している。

 ”ミレニアム”というフレーズがあちこちで踊り、時代が21世紀へと変わった頃、ごくごく普通の大学生だった私には、楽しみにしていたインタビュー記事があった。音楽雑誌『ROCKIN’ON JAPAN』の2万字インタビューだ。誰もが知るアーティストが自らの人生を赤裸々に語っていく企画であり、読み進めていく中でスターの素顔が少しずつ明らかになっていく感覚に、ワクワクしながらページをめくっていたことを今でもハッキリと覚えている。

 今回のインタビューで意識したのは、やはり『ROCKIN’ON JAPAN』のように、話してくれる方の素顔が垣間見えるようにしたいということだ。その方を知っている人なら、文字にされた言葉を目で追っているうちに、まるで本人のしゃべっている声が脳内再生されるような、その方を知らない人にとっても、文字を通して人柄が伝わってくるような、そんな感覚を味わってもらえるように、限りなくインタビュー時そのままの雰囲気を再現することに注力した。

 一見するとその人選は脈絡がないように思えるかもしれない。確かに顔ぶれを見渡してみても、年齢も、クラブも、肩書も、実にバラバラだ。けれど、絶対的な共通項が1つだけある。それは、『私がどうしても話を聞きたいと思った人』だ。

 5年間通った大学を卒業し、サッカーメディアの世界に身を投じて、今年でちょうど20年が経った。ありがたいことにさまざまな場所で、さまざまなサッカー人との出会いに恵まれたことで、何となくではあるが、私も鼻が利くようになってきた気がしている。この12人はいずれも「サッカーに魅入られた同志たち」だ。ただサッカーのある日常に生きているだけではなく、自分の中に確固たる軸を持って、このシビアな世界を時には力強く、時にはしなやかに泳ぎ回っている、本物のサッカー人の匂いがする人たちだと、私は確信している。

 サッカーに生きている人たちが、サッカーと生きてきた人生を振り返る、それぞれがそれぞれに濃密な数十ページの物語の結晶。『蹴球ヒストリア』の世界へ、ようこそ。

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<書誌情報>

定価:1,760円(10%税込)
発行:ソル・メディア
発売日:2023年7月28日
仕様:四六判/並製/352頁
ISBN:978-4-905349-72-3

Photos: Getty Images

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蹴球ヒストリア

Profile

土屋 雅史

1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!

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