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『蹴球ヒストリア』の世界に魅せられて――なぜ蹴球人たちは、土屋雅史にだけ「とっておきの話」をしてしまうのか?

2023.08.09

<コーナータイトル>
『蹴球ヒストリア』書評#2

好評発売中の『蹴球ヒストリア 「サッカーに魅入られた同志たち」の幸せな来歴』は、元Jリーグ中継プロデューサーで「最強のサッカーマニア」でもある土屋雅史が、「私がどうしても話を聞きたいと思った」12人の蹴球人の歴史を紐解いた一冊だ。書評企画の第二段は、ベガルタ仙台のピッチリポーターを務めるなどマルチに活躍する村林いづみさん。同業者が見たインタビュアーとしての凄さに迫る。

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出会いはNACK5。
「突然話しかけてきた陽キャのディレクター」

 彼と初めて会ったのは確か、2009年、NACK5スタジアム大宮の記者席だったと思う。

 天皇杯3回戦、大宮アルディージャ対ベガルタ仙台の取材をしていると、突然“知らない男性”に話しかけられた。

 「ハーフタイムの夫婦漫才、見ていますよ。あれ最高ですね!」

 「スカパー!」の中継リポーターとして、ベガルタ仙台の取材ばかりしており、中央のメディアの方と話す機会がなかった私は、“気さくに話しかけてくるイケメン記者”に戸惑った。名刺を交換し、そこで彼が「J SPORTS」のディレクター(当時)である土屋雅史さんだと知る。

 「あのベガッ太君のいたずら、本当に全部ガチなんですか?」

 初対面の“陽キャ・爽やか業界人”にあれこれ畳みかけられて、しどろもどろになった。なんとなく話を合わせたが、ベガルタの話題以外、彼が話していることはその頃の私にはほぼわからなかった。ちょっとマニアックな話もしていたかもしれない。

 「東京って、おっかねぇところだな」

 そこは大宮だったけれど。根っから東北人の私は、彼とろくに目も合わせられず、愛想笑いを浮かべながらそんなことを感じていた。

 梁勇基選手が延長戦で鮮やかな直接FKを決めた試合だった。

 土屋さんの“本当の恐ろしさ”を、この頃の私はまだ知らなかった。

 J SPORTSのJリーグ中継で、年間何度かユアテックスタジアム仙台を訪れていた土屋さん。お会いするたびに、ピッチサイドで近況や中継の感想を伝え合い、たわいもない話をするようになった。2014年、ご縁があってJ SPORTSのJリーグ中継でインタビュアーを担当させていただき、本格的に仕事をご一緒させてもらった。以来、土屋さんが2021年にJ SPORTSを退社されるまでは「凄腕プロデューサーと出演者」として、現在は「footballista WEB」の「敏腕編集者とライター」としてお付き合いをさせてもらっている。中継や番組、連載記事の打ち合わせをする時も、彼との「楽屋サッカートーク」をするのは本当に楽しい時間だ(前室での話が盛り上がり過ぎて、私自身、本番ではそこまで面白い話ができたためしがないことも合わせてお伝えしておこう)。

「そのエピソード、初耳です」
史上最強の「サッカー人の履歴書」がここに

 そんな彼が、7月28日、ついに初の単著蹴球ヒストリア「サッカーに魅入られた同志たちの幸せな来歴』を世に送り出した。土屋さん、本当におめでとうございます!表紙の手触り、彼がその制作に長年魂を捧げてきたJ SPORTSの人気サッカー情報番組「Foot!」でもおなじみの内巻敦子さんのイラストが温もりと優しさを伝えてくれる。

 『蹴球ヒストリア』は様々なポジションの「12人の蹴球人」のキャリアに、土屋さんが深く迫っていくインタビューだ。登場人物たちの顔ぶれに、彼のこの世界における「守備範囲の広さ」がうかがえる。Jクラブの監督、選手、広報(後方)部長から、サッカー日本代表の森保一監督まで。監督や選手についても「そこに行くのか」と、つい唸らされるようなメンバー選考。彼が「話を聞きたい」と思ったサッカー界の人たちだもの。面白くないわけがない。今回選ばれた「12人の蹴球人」の他にも、この本には大勢のサッカー人が登場する。つながったり、すれ違ったりする彼らの存在もまた魅力的だ。……

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蹴球ヒストリア

Profile

村林 いづみ

フリーアナウンサー、ライター。2007年よりスカパー!やDAZNでベガルタ仙台を中心に試合中継のピッチリポーターを務める。ベガルタ仙台の節目にはだいたいピッチサイドで涙ぐみ、祝杯と勝利のヒーローインタビューを何よりも楽しみに生きる。かつてスカパー!で好評を博した「ベガッ太さんとの夫婦漫才」をどこかで復活させたいと画策している。

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