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全員で新しい大分トリニータを作る。キーワードの“共創”は建前ではない

2023.01.26

「1年でのJ1復帰」を目標に強気の予算を組んだ昨季のプロジェクトは、目標達成に届かなかった。大分トリニータが置かれている状況はかなり厳しい。しかし、だからこそチームとフロント、そしてファンも巻き込む形で、新しいクラブ像を築くチャレンジが始まろうとしている。

 昨季、「1年でのJ1復帰」を目標に掲げながら、J1参入プレーオフ1回戦・熊本戦に敗れて目標を果たせなかった大分。コロナ禍の影響を濃く受ける中、目標達成のために背伸びした予算を組んだクラブとしても、昇格を逃したことは痛かった。

 ただ、開幕と同時にスタートしシーズン前半のほとんどを覆い尽くした異例の過密日程による大幅な出遅れを、連戦終了後は10戦無敗、その後も2度の3連勝を含む8戦無敗と巻き返して5位フィニッシュしたV字回復ぶりは、特筆に値する。連戦中は全員が揃ったコンディションでトレーニングすることも叶わず、戦術練習もできない状態。負傷者が多発する中、戦力をかき集めるようにして目の前の試合をこなすのが精一杯で、片野坂知宏前監督が6シーズンかけて確立したスタイルを下平隆宏監督新体制へとどうシフトするのかでも手間取ったが、連戦を終えて本格的にチーム作りに取り組める態勢が整うと、そこからの勢いは目覚ましかった。

サッカースタイルも、集客増のアイディアも、選手を巻き込む

 下平監督2シーズン目の今季は、昨季の積み上げがある分、スムーズなスタートになった印象だ。

 昨季に背伸びした分、予算は大幅に削減せざるを得なくなり、主力を含む13名の戦力が流出。4シーズン在籍して昨季も全試合先発出場した三竿雄斗(→京都)、キャプテンの下田北斗(→町田)、プロ2年目で急成長を遂げ右サイドの攻撃起点となっていた井上健太(→横浜FM)、呉屋大翔(→千葉)、増山朝陽(→長崎)、金崎夢生(未定)ら、同カテゴリーのチームへの移籍も含め、様々な意味でスリム化を強いられた。ただ、大分U-18からトップ昇格した保田堅心と佐藤丈晟のU-19代表コンビや大卒ルーキーの松尾勇佑ら有望な新人をはじめ、大分U-18OBで経験豊富な茂平(←秋田)、池田廉(←琉球)、安藤智哉(←今治)など実績豊富な即戦力候補を獲得。初来日の左利きCBデルランを完全移籍で獲得した他、3シーズン目のペレイラの完全移籍も実現し、ネームバリューや経験値では昨季ほどではないものの、粒揃いでバランスのいい編成となった。

 その新加入選手たちを、梅崎司や高木駿、長沢駿、町田也真人、野村直輝といった経験豊富なメンバーがリードする形で、指揮官はチーム作りにあたって“共創”というキーワードを掲げた。昨季就任した際に「指示待ちの選手が多い」と感じ、その自主性や当事者意識を引き出すために一時的に戦術的指示を封印するなど大鉈を振るった経験も踏まえ、今季はスタートからより強く選手たちにそれを求めた。

 「僕が言うと、もうそれになってしまうから」と言って自身の指示は最小限にとどめ、初めてのミーティングでは「このチームでどんなサッカーをしたいか」という問いを投げかけて、選手全員に一人ずつ発表させた。……

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大分トリニータ

Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg

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