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CB、アンカー、ウイング以外が自由に動き相手MF-DF間を制圧。ポステコグルー率いるセルティックの“実質6トップ”

2022.07.02

ポジショナルプレーの中でも異色と言えるのが[アジア型]だ。その生みの親は、元横浜F・マリノス監督のアンジェ・ポステコグルー。現在率いているセルティックでも猛威を振るったオーストラリア人指揮官仕込みの、自由度の高い選手間の移動の中にある原則とそれによってもたらされている現象を、東大ア式蹴球部で分析官を務めるきのけい氏に詳らかにしてもらった。

※『フットボリスタ第90号』掲載記事を一部修正し公開

 スコットランドの地で激しい優勝争いの末にリーグタイトル奪還を遂げたセルティック。昨シーズン、9連覇していたリーグ王者のタイトルを同じ街のライバルであるレンジャーズに奪われた彼らが、捲土重来を期し監督に招へいしたのがアンジェ・ポステコグルーだった。2019年、横浜F・マリノスを率いてJ1優勝に導いたことは記憶に新しい。

 2021-22シーズンはヴィッセル神戸から古橋亨梧が加入しただけでなく、冬に川崎フロンターレから旗手怜央、ガンバ大阪から井手口陽介、そして横浜F・マリノスから指揮官の教え子前田大然と、日本人選手を次々に獲得。これにより日本での注目度合いも高まった彼らは、非常に魅力的なサッカーを披露している。ポステコグルーの志向は日本にいた頃と大きくは変わっておらず、ポジショナルプレーを基調とした攻撃的なサッカーだ。前線に多くの人数を送り込みつつも、それでいて動きが被らないように適切な距離感を保ちながら立ち位置を調整し、サイドを有効に使って丁寧にショートパスを繋ぎ相手を敵陣に押し込んでいく。アタッキングサードではウイングの質的優位を生かしてバーティカルにゴールを目指し、ボールを失っても強度の高いゲーゲンプレスにより即時奪回を狙うテンポの速い試合を展開する。セルティックの特徴を簡潔に述べると、このように言えそうだ。

動的な選手と静的な選手の特性を最大限に引き出すタスク分担

 近年のサッカー界では戦術的ピリオダイゼーションなどの学術的な方法論が普及し、ゲームモデルやプレー原則を設定して選手の意思決定基準をそろえることによって、選手同士の創発的な相互作用を期待できるような適度な自由を選手に与えつつもレジリエンスを保つ(全体としてバランスを崩さない)配置変換を行うチームが増えている。この自由度はチームによって様々で、そのチームが抱える選手の特性、どのエリアで、そのタスクをこなすことに長けているかに左右される場合が多い。セルティックの自由度は中間より高い方に位置付けられる。つまりポジションチェンジを積極的に行い多くのタスクをこなし、相手の認知負荷を高められる複数の選手と、固定的なタスクを担い得意とするプレーで相手に打撃を与えられる選手とをうまく共存させている。

 攻撃時の配置は[2-3-2-3]。ボールを前進させるビルドアップの局面ではビッカーズ、スタンフェルトのCB2人がやや広めに開き、アンカーの位置にはキャプテンのマグレガーが入る(守備的なオプションとして井手口が選ばれることもある)。タッチライン際で立ち幅と深みを取るのはウイングのアバダとジョタだ。以上3つの立ち位置は「そこから人がいなくなってはいけない場所」として設定されており、その立ち位置を担う選手はあまりポジションチェンジを行わない。

 そしてもう1つ、「そこから人がいなくなってはいけない場所」が存在する。それは相手MF-DFのライン間だ。しかし、ここを誰が使うかということに関しては自由で、セルティックの大きな特徴として挙げられるのは、このスペースにできるだけ多くの選手を送り込むことである(最低でも2人)。主にSBとインサイドハーフの選手たちが流動的にポジションを入れ替えながら使うことが多い。

 特徴的なのはSBのタスクだ。CBがボールを持つと、SBのユラノビッチ、テイラーはハーフレーンをスルスルと駆け上がり、多くの相手チームが置いているサイドハーフ(あるいはウイング)の背後のスペースに侵入する。CBと胸を合わせながら離れていく動きが徹底されていると言って良いだろう。国内におけるセルティックの戦力はトップクラスであるため、対戦相手は守備を第一に考えミドルサードより後ろで構えることが多く、こうした挙動を見せるセルティックのSBに対しても人ベースで、サイドハーフがそのままついていくという対応を取るチームが多い。

 SBは常に、相手サイドハーフをその背後で惑わすポジショニングを取り続ける。これを警戒して相手サイドハーフが前に出ることをためらい内側に絞ると、セルティックにはCBが持ち運ぶスペースが生まれる。前線との距離を近づけることで、角度をつけて直接ウイングにパスを届けることも、ライン間にいるSBやインサイドハーフに直接縦パスを通すことも、難易度が低くなる。もし相手サイドハーフが前に出てくれば、そのタイミングでSBあるいはインサイドハーフが外のスペースに流れることで、ラインを越える位置でボールを引き取ってフリーで前を向けるという算段である。このように比較的自由を与えられているSB、インサイドハーフを中心に、相手の出方によって動的に配置構造を変化させ、位置的優位を前線に繋いでいく。

 こうした形は頻繁に見られるが、まさにうってつけの存在となっているのが左インサイドハーフのレギュラーとなっていた旗手だ。川崎フロンターレ時代やU-24日本代表では左SBも務めた24歳はライン間の狭いスペースでも失わないキープ力に加えて一定の配給力と守備力も備えているため、右のロギッチと同様に複数のエリアで複数のタスクをこなす選手として流動性の確保に貢献した。

レンジャーズとのオールドファームダービーでドリブルを試みる旗手。シーズン終盤はパフォーマンスを落としてしまったが、昨夏の五輪に出場し、Jリーグのシーズン終了後そのままセルティックに移籍しプレーし続けた影響は間違いなくあっただろう。来たる新シーズンの活躍に期待が懸かる

バーティカルなサイドからの崩しとアグレッシブなゲーゲンプレス

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アンジェ・ポステコグルーセルティックポジショナルプレー

Profile

きのけい

本名は木下慶悟。2000年生まれ、埼玉県さいたま市出身。栄東高校から1年の浪人生活を経て東京大学に入学し、ア式蹴球部(サッカー部)のテクニカルスタッフを務める。工学部所属のスキルを活かしサッカーのデータ分析にも力を入れている。また、テクニカルスタッフとしての活動の傍ら、趣味でレアル・マドリーの分析を発信している。プレーヤー時代のポジションはCBで、好きな選手はセルヒオ・ラモス。Twitter:@keigo_ashiki