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「この仲間と、このサッカーでJ1へ」 変化と継続の先にある“ヴェルディらしさ”

2022.06.22

東京ヴェルディが、揺れている。2022年シーズンは開幕から8戦無敗。攻撃的なスタイルで相手をねじ伏せる戦いぶりは、上位進出を予感させた。だが、少しずつ調子が下降線を辿ると、順位もゆるやかに後退し、前半戦が終わると堀孝史前監督は退任。チームの命運は城福浩監督に託された。だが、間違いなく緑の選手たちの中には、ここ数年で積み重ねてきた確かな“軸”がある。その過程を見守ってきた上岡真里江が考える、ヴェルディの変わるもの、変わらないものとは。

永井体制から堀体制へのスムーズな移行

 あまりにも順調なシーズンスタートだった。

 開幕から8試合連続無敗、5勝3分の2位(当時)。東京ヴェルディには、明らかに例年とは違う“好ムード”が漂っていた。それも、決して一朝一夕ではない、昨年までの積み上げがあった上での結実だからこそ、なおさら選手たちは確かな手応えを掴んでいた。

 2021年シーズン、永井秀樹監督体制3年目を迎え、しっかりボールを握りながら自分たちで主導権を持ってゲームをコントロールし、支配していくサッカースタイルは着実に浸透していた。各ポジションに立ち位置が詳細に定められ、それをチーム全員が共有することで緻密な連動性が生まれ、相手を押し込む。押し込んだ後のフィニッシュは選手個々のアイディアと創造力のシンクロに託される。

 「やっていて本当に楽しい。自分たちが一番良いサッカーをしている」と、選手全員が胸を張り、精度向上へ向け必死に取り組んでいた。だが、簡単に実現できるスタイルではないため、やはり思い通りには結果がついてこない。

 永井監督の後を引き継いだのが、堀孝史コーチ(当時)だった。ここで大きかったのが、堀新監督が方向性を変えなかったことである。足かけ3年をかけて築き上げてきたベースをそのままに、戦術、システムも継続。その上で、結果が出なかった原因の1つであるフィニッシュのところで、より選手たちが思い切って個性を発揮できるようにと、良い意味での“リラックス”を提供した。

 もともと、コーチという立場で監督と選手たちとの緩衝材的役割を果たしていたメリットは大きく、就任時に「これまで通り、イジったりしながら接してほしい」と伝えたことで、選手たちは気兼ねなくコミュニケーションを図ることができた。それが“伸び伸び”という形でプレー面にも好影響をもたらし、徐々に試合結果にも表れていくようになっていった。

 最終的に、昨シーズンのラスト4試合を3勝1分という好成績で終えたが、その試合内容もまた、自分たちのやりたいサッカーを具現化できていた。そして、これこそが、今シーズンへの貴重な礎となっているのである。

2021年シーズンのJ2で東京Vが挙げた全ゴール

「このチームでJ1へ」という強い意志

 『勝利』という結果と同時に『やっている自分たちも、見ている人も楽しめるサッカー』を実現できる喜びをともに味わった選手たちは、「もっとこのメンバーと一緒にプレーしたい」との思いが強くなっていった。予算の問題や“J2”というカテゴリー的な事情から、例年のように主力選手が次々とJ1クラブに引き抜かれているのが、ヴェルディの置かれている現実である。

 実際に今オフも、何人かの選手が好条件での獲得オファーを受けていたのは事実だ。「確実に抜かれるだろう」との予想が飛び交ってもいたが、今シーズンはほとんどの主力選手が残留した。それは、みなが「このチームでJ1で戦いたい」と本気で思っている何よりの象徴と言えた。

 また、堀監督も続投要請を受ける一番の条件として、「現有戦力を残してほしい」と依頼していた。必然的に『昨季チームからの継続』と、方向性がはっきりしていた中で、戦術や技術以上に指揮官が強く選手たちに求めていたのが“人間性”だ。

 昨年10月24日、J2第35節・ジェフユナイテッド千葉戦のことだ。開始早々に先制を許し、一度は同点に追いつくも、次々に失点を重ねて1-5と大敗を喫したチームに、試合後の監督は改めて説いたという。副主将・梶川諒太が力説する。

 「『昇格の可能性が潰えてもなお、応援してくれている人がいる中で、こんなに思いの伝わらない試合をするのは、今後絶対になしにしよう。誰のためにプレーしているのか。どういう人の支えのおかげで自分たちがサッカーをできているのか。全員がもう一度しっかりと再確認してプレーしよう』と堀さんもおっしゃっていて。それは、以前から常日頃言われてきたことでもあったのですが、あんな気持ちの伝わらない試合をしてしまったことで、選手たちもみんな、それぞれが改めて『これじゃいけない』と本気で思えたんだと思います」

2021年9月から2022年6月まで東京Vを率いた堀監督

32歳の梶川諒太が「人生で一番怒鳴ってキレた」日

 実際、その試合を機に明らかに戦いぶりが変わった。そして、その時のメンタリティが今シーズンのヴェルディのベースであり、「ウチの最大の強み」だと副主将は胸を張る。

 「ヴェルディで、J1で戦いたい」「日頃支えてくれている人への感謝を、結果で伝えたい」。これがチーム全員の志である以上、一人ひとりが本気で変わらなければならない。だからこそ、梶川は普段の練習から、プレーに少しでも“緩み”を感じた時には容赦なく厳しい声をかけ続けている。

 「今年は、『言うべきところははっきり言う』と決めてやっています。というのも、僕は他の選手とは危機感が違うからです。いま、山本理仁や馬場晴也(ともにU-21日本代表)、石浦大雅など、本当に良い若手がすごく成長しています。正直今までは、ヴェルディのアカデミー出身の選手たちはちょっと緩い部分があって、そういう選手とポジション争いをしても、最終的には勝ち取れそうだと思っていた部分がありました。

 でも、今年は違う。これまで弱かった“闘う”という部分が全面に出ながら、なお、持ち味である技術や戦術理解度を発揮できている。それを素直に『逞しいな』と思う一方で、『他クラブのスカウトが注目しないはずがない』とも強く思うんです。だからこそ、本当に今年J1に上がらないと、そういう有望選手がみんな抜かれてしまうという危機感が自分の中で相当強くて。『こいつらと、このサッカーで一緒にJ1でやりたい』と、今、心から思えていますし、僕はもう32歳で“ベテラン”と言われる年齢になってきたという意味でも、今年が勝負だと思っています。志半ばで終わらせないために、厳しくやっていこうと思ってやっています」(梶川)……

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Profile

上岡 真里江

大阪生まれ。東京育ち。大東文化大学卒業。スポーツ紙データ収集、雑誌編集アシスタント経験後、横浜F・マリノス、ジュビロ磐田の公式ライターを経て、2007年より東京ヴェルディに密着。2011年からはプロ野球・西武ライオンズでも取材。『東京ヴェルディオフィシャルマッチデイプログラム』、『Lions magazine』(球団公式雑誌)、『週刊ベースボール』(ベースボール・マガジン社)などで執筆・連載中。