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鳥栖へと帰ってきた男たち。藤田直之、福田晃斗、小野裕二に託された「伝統の継承」

2022.02.14

昨シーズンはさまざまな苦境を経験しながら、最終的にJ1リーグで7位と十分な健闘を見せたサガン鳥栖だが、迎えた2022年は際立った活躍を披露した主力選手たちが多数流出し、苦戦を予想する声が多い。それでも、希望の光はしっかり用意されていた。藤田直之、福田晃斗、小野裕二。帰ってきた3人の存在である。かつて鳥栖で確固たる地位を築いていた彼らの復帰は、果たしてどういう影響をチームへもたらすのか。杉山文宣が歴史と現在を考察しつつ、「伝統の継承」の意味について書き記す。

主力流出の歴史を繰り返してきたJ1での10年間

 12年の初昇格から10年。サガン鳥栖はJ1のステージから降格することなく、日本最高峰の舞台での戦いを続けている。予算規模が順位に反映される傾向が極めて強いサッカーの世界において、Jリーグで最も小規模な都市をホームタウンとする鳥栖が見せている戦いぶりは、称賛に値するだろう。

 ただ、鳥栖のJ1での歴史は、健闘とともに主力流出の歴史でもあった。ステップアップや金銭面など、その時々で当該選手たちには移籍を決断する背景があったが、クラブの格や予算規模でビッグクラブに太刀打ちできない鳥栖は、慰留を試みながらも活躍した選手たちが旅立っていく姿を、幾度となく見送ってきた。

 今季もその流れは変わらなかった。近年でより顕著になった経営問題や、金明輝監督のパワハラ問題による退任の影響もあり、昨季の主力のほとんどが他クラブへと移籍していった。しかし、外側への一方通行だったベクトルに対をなすような移籍が、今季の鳥栖にはあった。それはかつて鳥栖でプレーした経験を持つ選手たちの復帰だ。

 昇格以降の10年を振り返っても、完全移籍でチームを離れた選手が再び鳥栖へと戻ってきたケースは、19年の金井貢史(現・FC琉球)の1度のみだったが、今季は藤田直之、福田晃斗、小野裕二の3人が再び、鳥栖のユニフォームに袖を通すことになった。

鳥栖への思いを持った3人の復帰

 永井隆幸強化部長は3人の復帰について、「一番のポイントだったのは『鳥栖でまたサッカーをやりたい、鳥栖のユニフォームをもう一度着たい』という思い。だからこそ、僕らのオファーに応えてくれたと思います。鳥栖がやってきた良い部分は残しながら、次に進化していくことについても、まったく新しいチームでもいけない」と経緯について語っている。

 戦力としての期待は当然のことながら、同じように期待しているのがピッチ外での振る舞いだ。「福田や藤田はキャプテンもやった2人ですし、そういった意味ではプレーだけではなく、ピッチ外の部分でもしっかりとチームを引っ張っていってもらいたい」と話しており、条件提示の際には“これからの鳥栖”についてしっかりと話し合ったという。

 伝統の堅守速攻から、近年はボール保持をベースとしたスタイルに着実に変化を遂げつつあるが、金明輝前監督も今季から就任した川井健太監督も「鳥栖というクラブに根付くハードワークや球際での激しさ。それを失ってはいけない」と話していた。変わろうとすれば、どうしても従来のものは希薄になりがちだ。経営問題に付随して、しばらくは選手の流出も避けられないだろう。だからこそ、どうやって伝統を守り、次代へとつなげていくのか。伝統を知る選手の存在は、その作業をスムーズにするだろう。伝統の継承――それが復帰した3人に与えられたタスクでもある。

2020シーズンに愛媛FCを退団して以来の監督業に復帰した川井監督。昨季はモンテディオ山形のコーチとして、同じくシーズン途中に就任したピーター・クラモフスキー監督を支えていた

プロキャリア最初のクラブに帰ってきた藤田直之と福田晃斗

 藤田と福田にとって、プロでのキャリアをスタートさせたクラブへの愛着は、他のクラブとは違ったものがあった。単に在籍したというだけではなく、プロの世界への門戸を開いてくれたクラブへの感謝の思いが、2人にはある。……

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サガン鳥栖小野裕二文化福田晃斗藤田直之

Profile

杉山 文宣

福岡県生まれ。大学卒業後、フリーランスとしての活動を開始。2008年からサッカー専門新聞『EL GOLAZO』でジェフ千葉、ジュビロ磐田、栃木SC、横浜FC、アビスパ福岡の担当を歴任し、現在はサガン鳥栖とV・ファーレン長崎を担当。Jリーグを中心に取材活動を行っている。

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