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伊沢拓司が振り返る、ポチェッティーノとスパーズの終わりの始まり。CL決勝は劇薬だった【戦術ヒストリア番外編】

2022.01.25

2018-19:トッテナム・ホットスパー×マウリシオ・ポチェッティーノ

プレミアリーグ:4位 FAカップ:ベスト32  リーグカップ:ベスト4 CL:準優勝

好評発売中の『フットボリスタ第88号』は創刊15周年記念号。「2006〜2021」の戦術史や各時代をリードした革新チームを大特集している。ここでは番外編として、スペースの都合で残念ながら誌面には入り切らなかった、マウリシオ・ポチェッティーノ(現パリ・サンジェルマン監督)体制下のトッテナムを取り上げたい。名将が植え付けた「ハイライン・ハイプレス」戦術を武器に、プレミアリーグの優勝争いに参戦し、18-19シーズンにはクラブ史上初のCL決勝進出を果たした。その当時を振り返るのは、クイズプレーヤーとしてマルチに活躍する『QuizKnock』編集長で、熱狂的なスパーズファン、伊沢拓司さんだ。

 2019年6月2日早朝。その日、200を超えるスパーズサポーターが門前仲町のレンタルスペースに集結した。おそらく日本史上最大の、スパーズサポーターのみによる集い。日本では決してメジャーとはいえないクラブであるスパーズに、これだけのファンがいたのかと、頼もしさを感じたことを覚えている。

 彼らの目的はひとつ。UEFAチャンピオンズリーグ決勝で、我らが主将ウーゴ・ロリスの手に掲げられたビッグイアーをその目に収めるためであった。普段はあまり歌うことのない英語のチャントを合唱し、初対面の同志たちと肩を組み、必死で極東の地からワンダ・メトロポリターノ(スペイン・マドリッド)まで思いを届けたのだが、残念ながら結果は伴わなかった。朝焼けとともに受け入れるしかない現実が我々を襲い、その喪失を埋め合うかのようにみんなで会場の片付けをした。

CLファイナリストとは思えない窮状

 明らかに「挑戦者」側ではあった。相手であるリバプールはこの年、史上最も熾烈なPL(プレミアリーグ)優勝争いを演じ、惜しくも勝ち点1の差でマンチェスター・シティの後塵を拝していた。4位フィニッシュのスパーズとは勝ち点26の差だ。そうした状況下でなおスパーズファンが諦めていなかったのは、ひとえにCL準々決勝(対マンチェスター・シティ)、準決勝(対アヤックス)における神がかり的な勝ち上がりにあった。劇的な逆転が、ファンを奮い立たせていた。一方で、決勝という舞台には似つかわしくないほどにチーム状態がよくない、ということもまた、多くのファンが感じていた現実だ。むしろ、今になって考えると、そんな状態でCL決勝という劇薬を注入したことが、チーム再建に踏み切るタイミングを見失わせた、とすら言えるだろう。……

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トッテナムマウリシオ・ポチェッティーノ伊沢拓司

Profile

伊沢 拓司

私立開成中学校・高等学校、東京大学経済学部卒業。中学時代より開成学園クイズ研究部に所属し開成高校時代には、全国高等学校クイズ選手権史上初の個人2連覇を達成。2016年に、「楽しいから始まる学び」をコンセプトに立ち上げたWebメディア『QuizKnock』で編集長を務め、登録者数200万人を超える同YouTubeチャンネルの企画・出演を行う。2019年には株式会社QuizKnockを設立しCEOに就任。クイズプレーヤーとしてテレビ出演や講演会など多方面で活動中。ワタナベエンターテインメント所属。

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