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“6度目の正直”で掴んだ選手権。近大和歌山・藪監督が語る「壁を越えた」先にある風景

2021.12.27

一発勝負の高校選手権では、周囲も認める実力を有しながら、不思議となかなか思うような結果の出ないチームがある。和歌山の強豪校、近大和歌山高校もその1つ。近年も幾度となく予選決勝までは勝ち上がるものの、ことごとくその壁に跳ね返されてきた。だが、今年はシーズンを通して力を発揮し、実に12年ぶりとなる選手権予選優勝を達成。久々に全国の舞台へ帰ってくる。今回はチームを率いる藪真啓監督の言葉を中心に、近大和歌山飛躍の可能性を高校年代のサッカーに造詣の深い森田将義が探る。

 囚われた“選手権の呪縛”。

 確かな力を持ちながら、選手権とは縁遠いチームがある。

 その1つとして筆者の頭に浮かぶのが近大和歌山高校だ。厳密に言えば、現在は校長を務める川合廣征監督時代に7度の選手権出場を果たし、2007年には天皇杯で島根県代表の社会人チームにも勝利している、県を代表する強豪だ。ただ、チームOBの藪真啓監督が就任した2015年からは全国の舞台から遠ざかっていたため、選手権とは縁遠いチームとしての印象が強い。

 決して、これまでの代に力がなかったわけではない。藪監督の指導も県内外の評判も高い。就任1年目は予選決勝まで進出。翌2016年にはインターハイに出場し、粘り強い守備で強豪・矢板中央高校から白星も奪っている。多くの人が「いずれ選手権に戻ってくるだろう」と思っていたはずだったが、「勝負の年だった」と藪監督が振り返るこの年から、選手権の呪縛に囚われる。

 インターハイに出場した勢いのまま挑んだ予選は順調に勝ち進んだが、和歌山北高校との決勝は0-0で試合が進み、PKによる1失点で涙を呑んだ。

 「これで勝てないんだというショックを引きずっていた。最後の最後まで気を抜いたつもりはなかったけど、あの負けからもっと自分が詰めてやらなければいけないと詰め込み過ぎていたような気はします。川井先生にも言われたんです。僕にどうこうではなく、『俺は直前になったら、試合の映像とかもあまり見ないようにしていた。勝負やから、最後は勝つか負けるかのどっちかや。そのうち勝つ時は勝つ』って。僕は準備がすべてだと思っていたので、最後の最後まで分析していた」(藪監督)

大宮アルディージャで主務を務めた後、地元・和歌山に戻って指導者業を始めたOBの藪監督

5回にわたって負け続けた選手権予選決勝

 就任から昨年度まで予選決勝まで進んだ回数は5回にも及ぶが、一度も勝てなかった。

 「選手を何年も負けさせていて、『絶対、勝つぞ』みたいな想いが年々増していった。決勝で負け続けるうちにそうなっていった気がする。僕が表情とかで、選手に緊張感を与えていたように思うんです。準決勝ではほぼ負けたことがないのに、決勝に至るまでの部分で固くさせていたんじゃないかって」

 そう語る藪監督が、ライバルの初芝橋本と和歌山北を強く意識し過ぎていたのも事実だろう。

 最大のチャンスが訪れたのは、2019年度だった。準々決勝でPK戦の末、初芝橋本に勝利。反対の山も和歌山北がすでに敗れていたため、藪監督自身も「今年こそは」と意気込んでいた。準決勝の試合前には初芝橋本の阪中義博監督、和歌山北の中村大吾監督からも「そろそろ(全国に)行けよ」ともエールを送ってもらっていたという。

 だが、試合が始まるとライバルの初芝橋本に勝って選手が燃え尽きたのか、プレーからは近大和歌山らしさであるアグレッシブさが一切見られなかった。前半のうちに先制点を許し、後半も2点を奪われた。終盤になって2点を返したものの、勝利には届かない。結局、この年は反対の山を勝ち上がった和歌山工業高校が30年ぶりとなる選手権出場を果たした。負けた準決勝を「謎のゲームだった」と振り返る藪監督は、「あの年は僕自身迷いもあったと思うし、プレッシャーを感じる部分もあった。選手も的がなくなって、燃え尽きたのだと思う。たぶん意識していたんですよ。決勝に行っていたら、そこに向けて頑張っていたと思うけど、気持ちの所を上手く持って行かなかった」と続ける。

長所を活かすサッカーで悲願の全国切符を掴む

 今年は、勝負所で力を発揮できなかったこれまでとは明らかに違った。……

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文化藪真啓近代和歌山高校

Profile

森田 将義

1985年、京都府生まれ。19歳から関西のテレビ局でリサーチ、放送作家として活動。サッカー好きが高じて、2011年からサッカーライターとしての活動を始める。現在は高校、大学など育成年代を中心に取材を行い、各種媒体に寄稿。