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「攻め急ぎ」問題は長所の裏返し?日本代表は積年のジレンマを克服できるか

2021.10.12

10月12日、W杯アジア最終予選で10試合中3試合を消化した日本はまさかの負け越し。危機的状況の中で指揮官の去就まで取り沙汰される事態に陥っている。アウェイのサウジアラビア戦を含め、選手たちから共通して聞かれる課題は「攻め急ぎ」問題。決戦を前に、日本サッカーの課題を克服するための取り組みが陥ってしまったジレンマを深掘りする。

油断なき敗戦での課題感

 「勝てば6ポイントの価値があると思っている」

 W杯出場権を直接争う強敵との連戦が組まれたカタールW杯アジア最終予選の10月シリーズ。合宿初日にDF冨安健洋が発した言葉どおり、2試合の重要性はしっかりと認識されていた。初戦のサウジアラビア戦をあえなく落としたことにより、本大会出場圏内との勝ち点差は「6」に広がり、自力突破の可能性はかすかに残るものの、7大会連続のW杯出場に向けて黄信号が灯った。

 一部報道ではすでに森保一監督の進退が取り沙汰されており、目前に迫るオーストラリア戦はまさに“背水の陣”となった。そのうえ代表チームの宿命ともいえるが、試合に向けた十分な準備期間はなく、短期間で流れを好転させなければならないという難しいミッションが立ちはだかっている。これは同じく黒星を喫した9月のオマーン戦後と比較しても、さらに険しい関門だ。

 というのも、オマーン戦では「2次予選の延長とか、親善試合の延長のような雰囲気があったのかもしれない」(DF吉田麻也)、「切り替えの遅さや球際の部分などが足りていない部分が多かった」(MF遠藤航)といったメンタル的な準備不足に敗因を見出すことができていた。相手が繰り出すアンカーシステムへの対策などで戦術面の積年の課題が露呈した部分はあったが、心理的な立て直しで中国戦に前向きに臨めたという側面も間違いなくあった。

中国戦で相手エースのエウケソンと競り合いながらインターセプトを狙う遠藤

 ところがサウジアラビア戦に向けては、試合前からそうした反省を繰り返さないよう細心の注意を払っており、準備にぬかりはないはずだった。その結果、敗戦後に選手たちから語られたのは精神的な課題感ではなく、より乗り越えるのに時間がかかりそうな戦術的な側面にフォーカスした反省点ばかりとなった。

 その最たる例が、多くの選手が着目していた「攻め急ぎ」問題だ。

成果が生んだジレンマ

 サウジアラビア戦では、MF鎌田大地のダイレクトスルーパスからFW大迫勇也が決定的な1対1を迎えた29分の場面が象徴するように、決定機はいずれもダイナミックな縦への展開から生まれていた。一方、必然的にオープンなスペースをつくるこの戦法では中盤の負荷が増大する。後半から人に強く来るようになった相手の修正も相まって、パスの出し手と受け手の両方にミスが頻発し、サウジアラビアに主導権を明け渡してしまった。

 試合直後の取材で「今日に関してはチームとして緩く入ったわけではないし、球際や走るところといったベースの部分ではやれていた」とメンタル的な準備不足を否定した遠藤は、次のように反省点を語っている。

 「ブロックを敷いて戦う中で、ワンチャンスのカウンターで前に行くタイミングは悪くなかったが、それが無理だったらどうやって落ち着かせる時間を作れるかがチームとして大事なのかなと思う。中盤が守備で運動量多かった中、攻撃の時に自分のところで落ち着かせられなかった反省がある。カウンターに行くところと、ちょっと落ち着かせて息を合わせてタイミングを見計らいながら相手を崩していくところの使い分けをやっていければと思う。攻め急ぐじゃないけど、シンプルに縦に出して、そこからサコくん(大迫)が孤立しているところがあって、プレスバックされて奪われて相手ボールになることが多かった。縦だけでなく横の動かしをもう少ししたかった」

 素早く攻めるべきか、いったん落ち着かせるべきか——。守り一辺倒な志向でない限り、あらゆるチームが直面する二者択一ではあるが、森保ジャパンにおいてはさらに重みのある決断となる。なぜならこのチームにおいては、「攻め急ぐ」ことがチームコンセプトを表現するための欠かせない要素であり続けてきたからだ。

 主将の吉田はオーストラリア戦前日10月11日の取材で「本来なら相手を消耗させないといけないのに、攻め急ぎで消耗してしまう時間が多々あった」とサウジアラビア戦の反省点を述べながらも「コンセプトとして奪って速くというところ、攻守で切り替えを速くすることはこのチームのストロングポイント。最も大事にしているところなのでそこは忘れてはいけない」という姿勢を強調していた。

 またサウジアラビア戦で途中出場し、試合のテンポを変えようという意識が見られたMF守田英正も「全体的に少し縦に急ぎすぎていた」という課題感こそ指摘しつつも、「チャンスっぽい場面ができていたので、急ぎたくなるのは分かるし、もし僕が出ていても同じ感じはあったかなと思う」と前半の試合運びに理解は示している。

サウジアラビア戦のハイライト動画

 そもそもボールを奪えないのであれば攻め急ぐという選択にはならないのだから、むしろ良い形でボールを奪えているからこそ、目の前に生まれるチャンスの芽を活かそうと攻め急いでしまう。こうしたジレンマはある種、チームがこれまで積み上げてきたものの副産物でもある。

課題克服としての「攻め急ぎ」

 2018年9月にチームが発足して以降、指揮官は「攻守に連係連動する」「個の特徴をチームのコンセプトの中で発揮する」といった総論的なコンセプトに加えて、招集した選手たちに「強度」「インテンシティ」を求め続けてきた。それは指揮官が多用してきた「日本人の良さを活かす」という言葉から想起される方向性とはむしろ対極で、「日本人が苦手としてきた」ものだからこそ取り組んできたとも言える。数年前を振り返れば、日本代表の課題は「あまりシュートを打たない」「チャンスでパスを選択する」「綺麗に崩そうとしすぎる」「ボールを横にばかり繋いでいる」といったものが挙げられていたことを記憶している方も多いのではないか。

 こうした姿勢は森保ジャパンが続けてきたトレーニングの賜物でもあると考える。現体制の発足以降、選手の練習負荷を上げられる日には必ずと言っていいほど取り組むメニューがある。それはコートを35×10m程度に区切ったミニゲームだ。

『ゲキサカ』が届けている帰国後初練習の模様。定番のミニゲームは5:26から

 参加人数やフリーマンの設定にこそ変動はあるものの、激しいプレッシングの中で相手のプレッシャーをかいくぐりながら、ゴール代わりに立っているGKにボールを届けるという設定は常に変わらない。その上、GKはボールを受け取るとすぐさまリスタートさせ、ピッチ内で攻守交代が起きてもプレーは継続するため、両チームの選手たちは精度に配慮しながらもとにかく動き続けることが求められる。

 親善試合が続いた発足当初は主力組もこのメニューに入っていたが、いまはリカバリーの兼ね合いもあり、多くはサブ組とGKを合わせた12〜13人ほどで取り組む。その際、国内組と欧州組にクオリティの差が出ることも珍しくなく、ピッチ脇で見ているだけで「日常の強度の違い」を実感させられる。その一方、森保ジャパン常連のDF佐々木翔をはじめ、息を切らしながらも比較的スムーズに適応していたMF稲垣祥、MF川辺駿、DF山根視来らが出番を得たことには一定の納得感もあった。……

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Profile

竹内 達也

元地方紙のゲキサカ記者。大分県豊後高田市出身。主に日本代表、Jリーグ、育成年代の大会を取材しています。関心分野はVARを中心とした競技規則と日向坂46。欧州サッカーではFulham FC推し。かつて書いていた仏教アイドルについての記事を超えられるようなインパクトのある成果を出すべく精進いたします。『2050年W杯 日本代表優勝プラン』編集。Twitter:@thetheteatea