ロナウド・エコノミクスの失敗。ユーベ1強時代の終焉と過渡期の始まり
セリエAの2020-21は、様々な意味で時代の節目を記すシーズンとして記憶されることになるだろう。最も象徴的なのは、ユベントスの連覇がストップしたこと。9シーズンにわたって覇権を握ってきた絶対王者の失墜は、連覇が止まった事実以上に、そこに至る過程、そしてその結果として直面している現実に、1つの時代の終わりと過渡期の始まりが象徴的に映し出されているように見える。来たる新シーズンを前に、今一度振り返っておこう。
※『フットボリスタ第85号』より掲載。
新スタジアムが完成・稼動した2011-12に連覇をスタートしたユベントスは、ローカルな資産家によるパトロン型経営の時代的限界に直面したミラン、インテルの凋落を横目に、イタリアで唯一グローバル資本をオーナーに持つという優位性(アニエッリ家は世界4位の自動車メーカーグループ「ステランティス」の筆頭株主)を土台にした圧倒的な戦力差をライバルたちに突きつけ、2010年代を通じてイタリア国内における1強体制を確立した。
しかしCLを舞台にしのぎを削る欧州メガクラブとの国際競争においては、売上高でトップ10に踏みとどまるのがやっと。10年代後半になると、クラブが自認しサポーターもそれを要求する「CLで優勝を争える欧州のトップクラブ」というステイタスを、経営規模と資金力で上回るライバルと張り合って守り続けることが困難な状況に追い込まれてきた。
アンドレア・アニエッリ会長はこの状況を克服すべく、それまでのオーソドックスで堅実な経営戦略から一転して、ハイリスク・ハイリターンのアグレッシブな路線へと踏み込んでいくことになる。それが新ロゴの導入による先鋭的なブランド戦略(2017年)であり、戦力的なメリット以上に商業的なメリットを追求したクリスティアーノ・ロナウドの獲得(2018年)であり、そして生き残りのために欧州サッカーそのものの枠組みを壊して我田引水を図ろうとしたスーパーリーグ計画(2021年)だった。そこに、アニエッリの経営者としての先見性、そしてそれがもたらさざるを得ないある種の焦燥感という2つの側面を見てとるのは、難しいことではないだろう。
アレグリ解任が「終わりの始まり」
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Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。